FASHION

ザ・ノース・フェイスが目指すファンクション×ファッションの極地【後編】

1968年、泥沼化するベトナム戦争真っ只中のアメリカ。物質文明中心の社会や既存価値に対するカウンターカルチャーが隆盛を極め、鋭敏な感覚を持った若者たちは街を出て、自然へと回帰していく。

そんな過去と現代を繋ぐ変動の時代に産声を上げたアウトドアカンンパニー〈THE NORTH FACE ザ・ノース・フェイス〉。

【前編】では、アウトドアウェアの心臓部であるファンクション(機能)の象徴たる名作プロダクツの数々を紹介しつつ、常に進化を続けてきた同ブランドの歴史を紐解いてきた。続くこの【後編】では、現代における世相と需要の変化から自然発生した“ファッションとカルチャーとしてのザ・ノース・フェイス”という視点で、今ではシーズンごとにファッションシーンを大いに賑わせている、様々なブランドとのコラボレーションについて触れていく。

ヘリテージを現代的感覚でアップデートし、
時代に沿ったものへと昇華。

ここ日本において、アウトドアウェアをファッションとして街で着用する流れは、70年代のヘビーデューティーブームから始まったとされる。が、読者諸兄の世代ならば、むしろ90年代に〈THE NORTH FACE ザ・ノース・フェイス〉や〈patagonia パタゴニア〉のウェアを着てストリートを闊歩した記憶の方が鮮明か。とはいえそれは、どの時代でもファッションに興味がある一部の若者たちのカルチャーとして。そうではなく一般層においてアウトドアウェアをタウンユースで取り入れたいという需要が高まるのは、ライフスタイルが多様化した00年代以降。

2003年にザ・ノース・フェイスと代官山のセレクトショップ兼ブランド〈nanamica ナナミカ〉の協業によるオリジナルレーベルとして誕生した〈THE NORTH FACE PURPLE LABEL ザ・ノース・フェイス パープルレーベル〉は、そのムーブメントの先駆け的存在といえる。

都市生活の中で風や雨などの自然の変化に対応できる優れた機能性とファッションの融合をコンセプトに掲げ、創業当時のカリフォルニアのムーブメントと現代のハイテク機能をオーバーラップさせたアイテムを展開。インラインとはまた一味違ったスタイリッシュなシルエットとデザインを特長としたファッション的アプローチで人気を博している同ブランド。

優れた機能性同士を
ひとつにマッシュアップ。

その特徴として、ラインアップの大半が本家ザ・ノース・フェイスの名作モデルをベースとしている点が挙げられる。例えばこの「Mountain Down Leather Jacket マウンテン ダウン レザージャケット」なんかは一目瞭然。

「Mountain Down Leather Jacket マウンテン ダウン レザージャケット」

防水ハードシェルの傑作である「Mountain Jacket マウンテンジャケット」にダウンを封入した「Mountain Down Jacket マウンテンダウンジャケット」を、光沢感のあるシープナッパレザーで更にアップデート。黒一色でまとめられたカラーウェイにタフさと高級感が加わることで、その容貌はまさに“虎に翼”の如し。

90年代生まれの名品に呼び込む
新たな風。

2019SSシーズンに登場した本作もまた同様。90年代生まれの名品「Mountain Light Jacket マウンテンライトジャケット」をよりライトウェイトに再構築しながら、ヨークやポケットフラップにマットな質感のタスランポリエステルタフタを使用。

「Paisley Print Mountain Wind Parka ペイスリープリント マウンテンウインドパーカ」

何より目を惹くのは、2014AWシーズンに〈Supreme シュプリーム〉がリリースしたコラボモデルを彷彿とさせるペイズリー柄プリント。だがこちらはヴィンテージスカーフから着想を得ているだけあり、よりシック&クリーン。ノンライニングゆえ実現した軽やかな仕上がりも相まって、街着としての優れたユーティリティ性が味わえる。

ビズシーンにおける
アウトドアファンクションの有用性。

都市生活の中で風や雨などの自然の変化に対応できる優れた機能性は、ことビズシーンにおいても有効に働く。それを証明するアイテムとして「ステンカラーコート」と「3WAY BAG」を見ていただきたい。コートは内側に篭った熱を逃がすためのベンチレーションをボディサイドに備え、スーツの上から羽織れば、傘いらずの防水仕様。LIMONTA®ナイロンを使った3WAYバッグも独特なツヤ感としなやかさに加え、高い耐久性をも兼ね備えた秀作。

「SOUTIEN COLLAR COAT ステンカラーコート」と「LIMONTA NYLON 3WAY BAG リモンタナイロン3ウェイバッグ」

ボディサイドには、アウトドアウェアのディテールであるベンチレーションを備えている

ともにシックな雰囲気を放ち、コンクリートジャングルで日夜働くビジネスマンの装いにも違和感なく馴染んでくれる。

精密なカッティングとパッチワークによる
“TNFの再構築”。

ザ・ノース・フェイスパープルレーベルが具象化したファッション的可能性は、以降、世界に誇る日本のトップブランドたちの注目するところとなっていく。その嚆矢となったのが〈JUNYA WATANABE MAN COMME des GARÇONS ジュンヤワタナベマン・コムデギャルソン〉

デザイナーは渡辺淳弥。1992年に〈JUNYA WATANABE COMME des GARÇONS ジュンヤワタナベ・コムデギャルソン〉のチーフデザイナーに就任し、東京コレクションでデビュー。2001年には初のメンズコレクションをパリで開催し、その名を世界に轟かせる。この時にコレクションピースとして〈Levi’s リーバイス〉とのコラボ作品を発表。以降〈Moncler モンクレール〉〈Trickers トリッカーズ〉など、伝統を今に伝える欧米の老舗ブランドとのチームアップを重ねていく。

そして2017 AWシーズン。遂にザ・ノース・フェイスとの邂逅を果たし、コラボが実現。ツイードやチェックを多用し、精密なカッティングとパッチワーク技術を駆使する渡辺淳弥のデザイン哲学。そして過酷なアウトドアライフをサポートするザ・ノース・フェイスの技術力。この2つが混ざることで生まれた化学変化は、それまで進めてきたコラボプロジェクトの集大成的とも称された同コレクションにおいても、圧倒的な存在感を示したのである。

アウトドアギアを解体し、
ウェアとして再構築。

同ブランドが得意とする“アメリカンワークウェアの要素を取り入れながら大胆に再構成を行う”という手法を、アウトドアギアに用いるとどうなるか?例えば、1986年にリリースされて数々の遠征を支えてきたロングセラー「BASE CAMP DUFFEL ベースキャンプダッフル」。その強靭な1000デニールのTPEファブリックラミネート素材のボディから、ロゴ部分を解体したのち、ウェアのフォーマットに落とし込んで新たな姿に。

こうして完成したのが「Duffel Bag ダッフルバッグ」シリーズ。1stコレクションである2017AWシーズンに登場。ここで紹介するのはオックスフォードシャツとアワードジャケット、そしてECWCSパーカ。ちなみにECWCSとは1980年代後半に米軍において正式採用された極寒冷地用ウェアシステムの略称。この中からアワードジャケットがランウェイにおけるファーストルックのスタイリングに抜擢され、同シーズンの象徴的デザインとなった。

〈THE NORTH FACE 〉×〈 JUNYA WATANABE MAN COMME des GARÇONS 〉 左:「Duffel Bag Remake Award Jacket ダッフルバッグ リメイク アワードジャケット」 右:「 Duffel Bag Remake Oxford Shirts ダッフルバッグ リメイク オックスフォードシャツ」

〈THE NORTH FACE〉×〈JUNYA WATANABE MAN COMME des GARÇONS〉の「Duffel Bag RemakeECWCS ParkaダッフルバッグリメイクECWCSパーカー」

寝袋をアウターへと造り変える
大胆なアレンジ。

翌2018年のFWシーズンには、代表的なスリーピングバッグ「Dolomite 4 ドロミテ4」に白羽の矢が立つ。1点1点手作業にて解体するところから始まり、そのパーツを使いながら再構築したのが「Dolomite reconstructed coat ドロミテリコンエウトラクテッドコート」。

〈THE NORTH FACE〉×〈JUNYA WATANABE MAN COMME des GARÇONS〉 「Dolomite reconstructed coat ドロミテ リコンエウトラクテッド コート」 驚きのリバーシブル仕様

元が寝袋だけあって、インサレーションとしての軽量性と防寒性はお墨付き。コレクションではテーラードジャケットの上に羽織ったレイヤリングを披露。リバーシブルでも著用可能、さらに付属のスタッフバッグにコンパクトに収納できるという、その出自を連想させるギミックには、ギャルソンならではの遊び心を感じさせる。

〈THE NORTH FACE 〉×〈JUNYA WATANABE MAN COMME des GARÇONS〉のタグ

このシーズン以降、ジュンヤワタナベマン・コムデギャルソンは、アウトドアやスポーツの要素を強めていくのだが、ファンの間では、これらのプロダクトにおける成功がその契機となったと見る向きもある。

ハイブリッドの美学が息づく、
類稀なるクリエーション。

ジュンヤワタナベマン・コムデギャルソンとのコラボが発表され、その大胆なアレンジが話題となった2017 AWシーズン。時同じくして、〈COMME des GARÇONSc コムデギャルソン〉の生みの親、川久保玲のDNAを継承するもうひとつのブランド〈sacai サカイ〉とザ・ノース・フェイスの初タッグのニュースが大きな話題となった。

コムデギャルソンでニットのパタンナーなどを経験し、先に述べたジュンヤワタナベマン・コムデギャルソンの立ち上げチームにも参加していたデザイナーの阿部千登勢により、1999年にスタートしたサカイ。掲げるブランドコンセプトは“日常の上に成り立つデザイン”。普遍的でクラシカルなアイテムを崩し、対照的な質感のファブリック同士の組み合わせやパターンの再解釈、エレガントな要素を加えることによって、独自の“ニュースタンダード”を表現しているという。

このコラボレーションにおいても、その類稀なるクリエーションは健在。ザ・ノース・フェイスの代表的アイテムの原型を繋ぎ合わせ、実用性とファッションのバランス、そしてアウトドアで培った革新的テクノロジーを採用した、ファンクショナルなプロダクトを豊富に展開。

アウトドアとミリタリーを繋ぎ合わせた傑作。

そのラインアップの中では最も人気だったのが、ファレル・ウィリアムズが著用写真をInstagramにアップして話題となった「Long Coat ロングコート」のカーキカラー。しかしながら、アウトドアとミリタリーという隣り合ったジャンルを巧みにミックスアップさせた「Bomber Jacket ボンバージャケット」も実に魅力的だった。

〈THE NORTH FACE〉×〈sacai〉の「BOMBER JACKET ボンバージャケット」

素材には通気性に優れ、防水透湿性を備えた「DryVent ドライベント」を採用。インラインでは使用されていない異素材のミックス、バックや横からのアングルが美しく見えるパターニング。そこにはブランドの象徴であるハイブリッドの美学が感じられる。

背面の右肩に両ブランドのロゴ

こうして“再構築”と“ハイブリッド”という新たなアプローチにより、ザ・ノース・フェイスはアウトドアという既存の枠組みからの脱却に成功。ファッションシーンでの新たなフェーズへと突入する。

コンセプトやモノ創りの精神に共感して誕生した
コラボライン。

サカイとのチームアップは、ウィメンズのファッションシーンにおけるザ・ノース・フェイスの知名度を一気に高めることとなり、新たなファン層を獲得。となれば、2018 SSシーズンより女性を中心に絶大な人気を誇るブランド〈HYKE ハイク〉とのコラボレーションライン〈THE NORTH FACE×HYKE ザ・ノース・フェイス×ハイク〉が誕生したのも、自然の流れといえる。

デザイナー吉原秀明・大出由紀子夫妻が、古着の良さを再確認し、年代を重ねたものの“良さ”を取り入れた服作りをしたいと考え、2013 AWシーズンよりスタートしたハイク。そのコンセプトは、服飾の歴史、遺産を自らの感性で独自に進化させるという意味を込めた“ヘリテージ&エヴォリューション”。高度な技術に裏付けられたベーシック、丁寧に選ばれた素材を使用したハイクオリティなコレクションをもって、服好きたちを虜にした。

このコラボレーションはハイクのブランドコンセプトや、モノ創りの精神に共感したザ・ノース・フェイス側からのオファーによって実現したもの。第1弾の2018 SSコレクションでは素材にゴアテックスのみを使用し、パイソン柄を取り入れたロングアウターなど全3型を展開。続く第2弾の2018 AWコレクションでは、型数や素材バリエーションを拡大。

ソリッドなデザインがもたらす、
優れた汎用性。

第3弾の2019SSコレクションで初のメンズラインが登場。身頃のサイドにジップをあしらうことでレイヤリングの可能性を広げる「TEC BIG TEE テックビッグティー」と、トレンドでもあったオーバーサイズのスウェット「TEC AIR BIG TOP テックエアビッグトップ」は男女ともに人気を博し、その汎用性の高さから今も探しているファンは多いという。

〈THE NORTH FACE × HYKE 〉 左:「TEC BIG TEE テック ビック ティー」右:「 TEC AIR BIG TOP テック エア ビック トップ」

同シーズンのコンセプトカラーだったタンとブラック&ホワイトで構成されたソリッドなデザインを、素材の持つムードを的確に掴みとり、個々のデザインに合った技術を駆使して生み出される巧みなシルエット構築にて際立たす。

9月には第4弾にしてラストとなる2019 FWコレクションが発売。引き続きメンズ・ウィメンズの両方で展開するも即完売。今後はリユース・マーケットにおいても入手困難になると予想される。

ストリートの絶対王者と結んだ、
アンダーグラウンド的共犯関係。

ここまで日本のトップブランドとのコラボレーションを取り挙げてきたが、世界中で最も知名度の高いコラボレーション・パートナーと聞いて、思い当たるのは1つ。ストリートに絶対王者として君臨するシュプリームだ。

以前『knowbrand magazine』でもプロダクトやヒストリーを紹介し、POP-UPイベントも開催しているので、読者諸兄なら誰もが知るところ。1994年にニューヨークで誕生。その世界観はオーバー&アンダーグラウンドの両方を自由に往き来し、スケーターから世界的セレブまでを魅了し続けているストリートが生んだカリスマブランド。

消費社会を批判し続ける現代芸術家、バーバラ・クルーガーの作品が元ネタとされる赤に白抜きの「Box Logo ボックスロゴ」は、ブランドの象徴としてあまりにも有名だ。

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そんな同ブランドが手掛けた初のオフィシャルコラボは、ブランド創立から2年後の1996年にリリースされた〈VANS ヴァンズ〉のスニーカーといわれている。その後は〈NIKE ナイキ〉を始めとしたグローバルブランドからアーティストやミュージシャンまで、メジャー/マイナーの区別なく、多種多様なマッチアップを次々と実現。その独自性と自身らのバックグランドに根ざしたセレクトは、常に話題を呼び、リリースと同時に即ソールドアウト。直後にプレミアム化するその様は、もはや社会現象となっている。

ではココで、肝心のザ・ノース・フェイスとのコラボはいつからか?正解は意外に遅めの2007AWコレクション。ファーストアイテムは「Summit Series Jacket サミットシリーズジャケット」だった。

シーズンごとに新たな表情を見せる
名作ダウン。

先にも述べたメジャー/マイナーの区別なくという点でいえば、名作「Nuptse Jacket ヌプシジャケット」はメジャー中のメジャー。しかもシリーズ最多登板。初起用された2011AWはビビッドカラーのレオパード柄を纏って登場。その後の2013 AWには全面にファーを、さらに2年後の2015 AWでは、アメリカ人の黒人公民権運動活動家であるマルコム・Xのスローガンをそれぞれプリント。

〈THE NORTH FACE〉×〈Supreme 1.Nuptse Jacket 2011AW 2.Nuptse Jacket 2015AW 3.Nuptse Jacket 2016AW〉

2016AWは枯葉のフォトプリントとオレンジの2色展開。さらにシュプリームのネームがあしらわれたパッカブルフードを付属し、新鮮なルックで印象付けた。

今では完全に定番化した両者のコラボレーションがここまで多くの支持を集める理由は、大胆にアレンジされたデザインはもとより、通好みのセレクトセンスに凝縮されていると考えられる。ひとつ例を挙げるならば、2016 AWシーズンで起用された「Mountain Light Jacket マウンテンライトジャケット」。

日本ではあまり馴染みがなかった同モデルだが、地元N.Y.のフッドの間ではグラフィティカルチャーと縁が深いことでも知られ、“分かっている”人々は拍手喝采。真摯なリスペクトの姿勢の裏には、分かっている人間だけが楽しめる共犯関係が存在し、それこそが、アンダーグランドなストリートを愛する人々の心をくすぐるのではないだろうか。

1966年にサンフランシスコのノースビーチで開かれた、ショップ「ザ・ノース・フェイス」のオープニングイベントでは、当時まだ無名バンドにすぎなかったザ・グレイトフルデッドが演奏し、訪れた人々はカウンターカルチャーをその目で、その耳で、その肌で感じていたという。

それから約半世紀以上の時を経て、アウトドアだけではなくカルチャーとファッション、その3方向が交わるクロスポイントの中心に存在しているザ・ノース・フェイス。次なる100周年に向けて、これからどのような進化の道を歩んでいくのだろうか。その答えはまだ誰も知らない。

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