FASHION

すべては一匹の猿から始まった 〜BAPEとNIGO®〜【前編】

“東京発の世界的ストリートブランド”。インターネットやSNSが完璧に普及した昨今、そう珍しくもなくなったフレーズだが、その先駆者が遺した功績は余りにも大きい。

その名は〈A BATHING APE ア・ベイシング・エイプ〉。以前、この『knowbrand magazeine』でフォーカスした〈UNDERCOVER アンダーカバー〉と共に、日本におけるストリート高度成長期だった90年代、原宿の裏通り“裏原宿”の小さなショップからスタートし、世界中を熱狂の渦に巻き込むまでに巨大化した猿の王国。

その誕生から、歴史の中で生み出された名作・傑作のアーカイブ。さらには世界中のストリート新世代から再び注目を集めている珠玉のコラボレーション・プロダクツまで。そう、すべては一匹の猿から始まった。

ドコにもないモノがココにある、
NOWHEREという場所。

A BATHING APE ア・ベイシング・エイプ〉の歴史を紐解こうとすると、はじまりの地である伝説的ショップについて触れざるを得ない。クリエイター・藤原ヒロシを崇拝し、顔・格好も似ていることから「藤原ヒロシ2号」と呼ばれていた青年、長尾智明と〈UNDERCOVER アンダーカバー〉のデザイナーとして注目を集め始めていた「ジョニオ」こと高橋盾。文化服装学院で邂逅したこの2人が、原宿の裏通りにオープンさせた小さなショップ。それが「NOWHERE ノーウェア」であり、この長尾青年こそが、のちの「NIGO®」その人である。

この店では、ジョニオが手掛けるアンダーカバーと、学生ながらスタイリスト/ライターとして活動していたNIGO®が自らセレクトしたアイテムを販売していた。が、店名に隠された「NO WHERE(どこにもない)モノが、NOW HERE(ココにある)」という意味合いとは裏腹に、NIGO®がセレクトする商品は目新しさがなかったのか、売り上げも微細なものだったという。
(→関連する記事は、こちら

そこで一計を案じたのが、藤原ヒロシが生み出した日本初のストリートブランド〈GOOD ENOUGH グッドイナフ〉でグラフィックを手掛けていた「SK8THING(スケートシング:通称スケシン)」こと中村晋一郎。藤原ヒロシを通して出会い、NIGO®のパートナーとなっていた彼は、テレビの一挙放送で観た、とあるSF映画から着想を得たオリジナルブランドの立ち上げを提案。こうして誕生したのがア・ベイシング・エイプだ。

通称「APE HEAD エイプヘッド」と呼ばれるロゴは、映画『猿の惑星』から。劇中に登場する印象的な類人猿の顔をロゴに落とし込み、スケシンが考案。そこに根本敬の著書『因果鉄道の旅』の中で、イイ顔したオヤジの喩えとして描写した「ぬるま湯につかった猿」の挿絵からインスピレーションを得て、その英訳「A Bathing Ape in Luke Water」をカット&ペースト。

NIGO®はその頭の部分を切りとって〈A BATHING APE ア・ベイシング・エイプ〉を正式名称とした。そんな当人たちのマイペースさに反比例し、ア・ベイシング・エイプ®の略語であるBAPE(ベイプ)は、フォロワーたちの間で秘密の合言葉のように、深く潜伏しながら急速に広まっていく。

「GO APE!」
ア・ベイシング・エイプの夜明け。

雑誌『asayan』でスタートした、ジョニオ、NIGO®、藤原ヒロシの三者による連載ページ「ラスト・オージー3」では、自身らのブランドを紹介してブームの導火線に火を点け、旧知の間柄だったスチャダラパー、コーネリアスといった人気ミュージシャンにアイテムを提供。このメディアを駆使した藤原ヒロシ仕込みの巧みなプロモーション戦略が功を奏し、その火種は大きく燃え広がっていく。

折からのヴィンテージブームもあり、定番のアメカジとヒップホップミュージック、そしてアウトドアテイストを打ち出すことで、モード&パンク色の強いアンダーカバーとの差別化を図ったベイプは、それまで以上のプロップスを獲得。裏原宿ブームがストリートを巻き込む大きなうねりとなっていく真っ只中の1996年、旗艦店であるノーウェアは店舗を移転して拡大オープン。ここから更にネクストステージへの階段を駆け上がっていくのであった。

グラフィカルに表現された
エイプたちが放つ、
無二の存在感。

師である藤原ヒロシが手掛けたグッドイナフは〈STUSSY ステューシー〉をスタイルの雛型としていたが、ベイプにはそのグッドイナフが持ち得ないポテンシャルを秘めていた。それが、のちの世界進出の核となっていくポップ&キャッチーなデザインセンス。その筆頭に挙がるのが、映画『PLANET OF THE APES(猿の惑星)』から着想を得て誕生した、エイプ(類人猿)のキャラクターたち。

ブランドの象徴ではあるものの、元ネタを知らぬ若年層も多いので軽く映画の説明を。同作はピエール・ブールの小説を原作として1968年に制作されたSF映画。シリーズ5作品が制作されており、その1作目が『猿の惑星』だ。地球の宇宙飛行士たちがトラブルによって、地球とよく似た環境の惑星に不時着するのだが、そこは知能の高い類人猿=エイプが人類を支配する“猿の惑星”だったのである。スケシンは劇中で登場する魅力的な3種族の猿たちを、ストリートの方程式でグラフィカルに表現した。

Tシャツに大きくプリントされた「エイプヘッド」はブランドのトレードマーク。陰影をつけたシルエットで表現されているのは、劇中で平穏な市民層として描かれたチンパンジーの顔だという。劇中で中心人(猿)物として描かれたコーネリアスの名は、スケシンと旧知の間柄だったアーティスト、小山田圭吾のソロプロジェクトの名称となり、渋谷系の基礎素養となった。

〈A BATHING APE〉のトレードマークといえば通称「APE HEAD」。

通称「ソルジャー」と呼ばれるキャラクターは、劇中で人間を狩る好戦的なゴリラの軍隊の兵士がモチーフ。特にポロシャツに刺繍されたデザインは、後にフットウェア専門店としてオープンする〈Foot Soldier フットソルジャー〉(※現在は閉店)のアイコンにも転用された。

映画猿の惑星の中でも、好戦的なゴリラの兵士たちがモチーフの通称「ソルジャー」ロゴ。

厳ついヘルメットを装着した、強面なゴリラが通称「ジェネラル」。猿の軍隊を指揮する将軍(=ジェネラル)であるウルサス(アーサス)が元ネタとされる。ちなみに他にオランウータンがインテリな知識層として劇中で描かれており、その代表格であるザイラス博士と思わしきキャラが、このジェネラルと共にデザインされたTシャツも確認されている。

ゴリラの軍隊の将軍が元ネタの通称「ジェネラル」ロゴ。

1999年に登場したのが、キュートなデザインで女性にも人気を博したマスコットキャラ「BABY MILO® ベイビーマイロ」。こちらはシリーズ3作目『新・猿の惑星』で、チンパンジーのコーネリアス&ジーラ夫婦の間に誕生するマイロから。彼は猿族を率いて人類に叛旗を翻す。それはあたかも2頭身で描かれたこのキャラが、世界を席巻していく様ともリンクしていた。

「BABY MILO®」は、その愛らしさで女性人気も高い。

イマジネーションを喚起する
ロゴデザインを、次々と創造。

NIGO®とスケシンが手を結んでクリエイションされたアイテムの求心力は凄まじく、次々に人々をベイプの虜に変えていった。前項ではそこまで人気となった秘密をキャラクターに見出したが、それだけなく「ロゴ」にもポップ&キャッチーなセンスは息づいている。ここではアーカイブから今も人気の高いデザインをピック。その魅力の一端を再確認してもらいたい。

ストリートの聖書となったベイプ。その序文に記されたのは「はじめに言葉ありき」ではなく「APE SHALL NEVER KILL APE」だった。映画『最後の猿の惑星』劇中のセリフ「猿は猿を殺すべからず」から取られた同フレーズ。初期にリリースされ、ファンの間では略してASNKAとも呼ばれ、同ブランドのロゴアイテム中、もっともメッセージ性が高いことで知られる。

まだムーブメントとして成長途上にあった裏原宿、そしてそこに集うストリートという共通言語を持った人々。この20文字は、彼らが持っていた同胞意識を知らず知らずのうちに喚起し、ストリートの大きなうねりを形作る革命家たちのスローガンとなっていった。

「APE SHALL NEVER KILL APE」=「猿は猿を殺すべからず」。映画『最後の猿の惑星』のセリフから。

創設時からアメカジをベースとしてきたべイプならではと言えるのが「カレッジロゴ」。日本においてこの言葉は大学を指すケースが多いが、アメリカでは高校卒業後に通う学校の総称として幅広く用いられている。リユースマーケットでも〈Champion チャンピオン〉などのスウェットやパーカにカレッジロゴをプリントしたものは、90年代から変わらぬ人気をキープ。

往年のカレッジプリントをベイプ風にアレンジ。スウェットのボディーにもこだわりが満載。

そんなアメカジを代表するモチーフをベイプ風に昇華。エイプヘッドとアーチ型に配されたブランドネーム。身頃脇のリブに襟元のV字ガゼットという意匠と、袖口にあしらったピスネームのストリート感が描き出すバランスも絶妙。まさに名作とはかくあるべし、である。

また、キャッチーなテイストがお好みならば、アメリカン・コミックスから着想の種を拾った「スーパーマン」のロゴモチーフや、デニムブランド〈Wrangler ラングラー〉が元ネタの「チャンピオンロゴ」などが、強く心に刺さるのではないだろうか。

左:通称「チャンピオンロゴ」、右:「スーパーマンロゴ」。

前者は“S”マークを“BA”に変えたカット&ペーストで一目瞭然。後者はラングラーが、ロデオ大会で優勝者に贈ったジャケットやパフォーマンスを披露するピエロに履かせたデニムにPR用のため刺繍されたロゴをサンプリング。ヴィンテージ古着からフィギュアまで、幅広く知識を持つNIGO®のアイデアの泉から湧き出る遊び心とセンスが、ここでも遺憾なく発揮されている。

時代の寵児“キムタク”と
彼が纏った名作・傑作たち。

芸能人やアーティストが着用したことで一般層へ認知の輪を上げたベイプ。ブレイクの特異点となったのが、平成を代表するカリスマ/ファッションアイコンとして君臨した“キムタク”こと木村拓哉の存在。と断言して間違いはあるまい。時代が令和に移り替わってなお、彼が着用したアイテム群が名作・傑作としてアーカイブに名を連ねているのが、その事実の証明だ。

その始点となったのが、1997年に主演した恋愛ドラマ『ラブジェネレーション』内で着用したチェック柄CPOジャケットに由来する、通称「ラブジェネチェック」。放送後すぐにファンたちによる捜索が始まるも、「ちょ待てよ!」と言う間も無く市場から姿を消した。

「ラブジェネチェック」として知られるチェック柄。

そんな同柄を採用し、肘部分にエイプヘッド型のパッチが当てられたネルシャツ。劇中ではロングヘアに別れを告げてミディアムヘアへと変化した木村。その爽やかな魅力を際立たせる絶好の装置としても機能。デニムと合わせたアメカジスタイルの雄姿が、今も脳裏に焼き付いているという人も多いことだろう。

翌年には、後にブランドの象徴となる“ベイプカモ”を纏った「SNOWBOARD JACKET スノーボード ジャケット」がスポットライトを浴びる。この通称“スノボジャケット”をオロナミンCのCMで、木村拓哉が元気ハツラツに着用したことで一層、ベイプの認知・人気は拡大。

通称“ベイプカモ”を纏った名作「SNOWBOARD JACKET」。

ブランドの文字通り“顔”であるエイプヘッドが潜む迷彩柄“ベイプカモ”が初めて世に出たのも本作から。機能的なポケットの配置や、前立て部分にあしらわれたロゴ刺繍など見所も多く、90’sやスノーボードウェアの再評価の機運高まる昨今、その完成された秀逸なデザインにあらためて感心させられる。

迷彩柄の中にベイプヘッドが潜んでいるギミックで“ベイプカモ”は一躍、ブランドの“顔”となった。

アウターといえばもう一着。「LEATHER CLASSIC DOWN JACKET レザー クラシック ダウンジャケット」も忘れることなかれ。2001年に放送されたドラマ『HERO ヒーロー』で、木村拓哉演じる主人公の型破りな検事が着用し、例に漏れずプレミアム化。

もはや説明不要の傑作「LEATHER CLASSIC DOWN JACKET」。

丁寧に仕立てられたレザーの風合い、柔らかなクッション性と保湿性を維持するダウンとフェザーによる最高級の着心地を求める声が殺到。その結果、日本中で着用者が激増するも実際の初期ロットは超極少の16着だったという。街ゆく着用者のほとんどが、「あるよ」と言われて買った別物を纏っていたというから、当時の熱狂ぶりが窺える。

近年における名作といえば、ストリートブランドの神通力が弱まったといわれる現在でも、変わらぬ人気を誇る「SHARK FULL ZIP HOODIE シャークフルジップフーディ」が最右翼。様々な種類のカラーやパターンがリリースされ、今や新たなアイコンに。

パーカという定番アイテムながら強烈な個性を放つ「SHARK FULL ZIP HOODIE」。

フード部分までジップアップすると現れるのは、戦闘機のノーズアートを模したシャークフェイス。名だたる海外のヒップホップ・アーティストが着用し、この独創的ギミックは多くのブランドでサンプリングされた。

フットウェアから読み解く、
ベイプとヒップホップ。

揺り籠から墓場までならぬ、ウェアから小物までトータルで揃えさせるのは、グローバルブランドの常套的戦略ではあったが、大手以外には高いハードルだった90年代。とはいえ当時は多くのインディーズブランドが、自身らの偏愛を詰め込んだオリジナルフットウェアを展開していた。それはベイプもまた然り。歴史の中で数々の名作モデルを世に送り出している。

実際、それまでにもシューズをリリースしていたベイプだが、2002年には新たにスニーカーレーベル「BAPE STA! ベイプスタ!」を正式発足する。フラッグモデルとして〈NIKE ナイキ〉の傑作「AIR FORCE1 エアフォース1」を元ネタに誕生した「BAPE STA™ ベイプスタ」は、国内外のヒップホップ層の足元を飾り、ストリートに更なる存在感を示した。

adidas アディダス〉の王道「SUPER STAR スーパースター」がモチーフとなった「SKULL STA スカルスタ」も人気モデルのひとつ。流れ星を模した“STA”や“ベイプカモ”など、アイコニックな意匠の組み合わせで、多くの新規ファンを獲得。これ以外にも次々と眷属は増え続け、現在も定期的に発表されるコラボフットウェアの礎が築かれていく。

NIGO®のファッションルーツには“アメカジ”があると再三に渡って触れてきたが、その事実を示す一足が「MANHUNT マンハント」。〈Clarks クラース〉の「Wallabee ワラビー」を彷彿とさせる定番ブーツである。ちなみに印象的なネーミングは、映画『猿の惑星』の劇中で、エイプたちにより行われる人間狩りに由来するとされている。

左「SKULL STA」、右「MANHUNT」。

MANHUNTの刻印が押されたアッパーに、リップルソール(サメの歯に似ているためシャークソールとも)を装着した姿は、ここまでに取り挙げたアイテム同様、NIGO®のカルチャー的背景にあるヒップホップミュージック、その根幹にあるリミックス文化の匂いが強く感じられる。

ア・ベイシング・エイプの繁栄、
そしてその先に待つ未来とは。

『猿の惑星』のラストでは、主人公である宇宙飛行士が辿り着いた惑星の正体が、実は地球だったという衝撃の事実が明かされ幕を閉じる。そして物語が加速し『続・猿の惑星』へと続くように、後編では、ストリートを席巻してきたベイプの名作コラボレーション・ワークスを中心にフィーチャー。

人類が自らの手で文明を滅ぼしたことで、地球の支配者となった猿たち。果たして、ベイプは猿なのか、人類なのか。大きな時代のうねりに飲み込まれながら手に入れた繁栄。稀代の天才ディレクターNIGO®とブランドに待っている未来とは?

→【後編】に続く

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