FASHION
HEAVY DUTY VESTS

愛すべき“ヘビーデューティー”な傑作ベスト。

タフで実用的、そして長く愛される。以前の冬の記事では、そんなヘビーデューティーなアウターを英国・米国編に分別した。とはいえもう春だ。自然とヘビーなアウターの登板機会は限られることだろう。

そこで今回は、「ベスト」にスポットを当てる。愛好家ではない読者諸兄姉のなかには、袖のないこの胴着を“着ても着なくてもいい服”と認識する向きがあるかもしれない。確かに、街での着用率はさほど高くない。しかし侮るなかれ。今回取り上げるそれは、伝統に裏打ちされた優れた芸術性、機能性で他とは一線を画す。そして、アイテムの持つユニークな魅力が着こなし に説得力をもたらす。言うなれば、過小評価されがちな歴史的傑物だ。

だからこそ、再発掘のしがいがある。着用者を格別の気分に浸らせる服。あらためてベストの魅力を知ることは、いい大人への極めて重要な第一歩かもしれない。

誇り高き伝統に裏打ちされた、
チマヨベストに宿る神聖な美。

まずは、伝統的な織り柄を持つ大傑作から話を進めよう。「チマヨベスト」。古き良きアメリカを体現する、まさにヘビー デューティーなアイテムだ。名前の由来は、生まれの地であるアメリカ・ニューメキシコ州のチマヨ村。彼の地では17世紀よ り、ネイティブアメリカンとスペイン系移住民のカトリック文化が入り混じった独自のカルチャーが形成された。その賜物で あるチマヨ織りは、当時の辺境地での自給自足の生活においてなくてはならない存在であり、同時に彼らの魂そのもの。材料 の調達から織り上げまでのすべてを手で行うチマヨ織りは、ゆえに神聖な美しさを宿す。

もともとは、ブランケットや手工品であったチマヨ織り。伝統に新たな可能性が芽生えたのは、西部開拓時代に起因する。鉄 道が敷かれ、チマヨ村にも東部の人々が流入し、優れた伝統工芸として注目を浴びたのだ。その流れを受け、偉大なブランド が産声を上げた。スペイン系開拓移民のひとりである若者、ガブリオレ・オルテガの名前を取った〈ORTEGA’S オルテガ〉。泣く子も黙る、チマヨベストのオリジンである。

チマヨベストのオリジンにあたる〈ORTEGA’S〉の1着。

背タグにはしっかり「HAND WOVEN(手織り)」の表記。

オルテガの発祥は1918年。5代目ニカシオとその妻が、彼らの雑貨店でチマヨ織りのブランケットを販売し始めたたこと に端を発する。第二次大戦後にはバッグやコート、ジャケットといった具合にアイテムラインナップが拡大。かのチマヨベストも、同時代に生まれた。

手作業による伝統的な織り柄は背面にも鎮座する。

オルテガのベストは、今なお当然ながら当時の技術を引き継ぎ、昔と変わらぬ製法で作られる。同じデザインがふたつとない と言われるのも、限られた職人による手織りゆえ。温かみと強さを兼ね備えた唯一無二の色柄は、誇り高い伝統工芸を今に伝 える。さらには、ネイティブアメリカンとスペイン人によるクロスカルチャーという側面でも、実に記念碑的なアイテムなの だ。

いわゆるネイティブ柄の祖ともいうべきチマヨ織り。その美しさを雄弁に語るのが、〈CENTINELA TRADITIONAL ARTS センチネラトラディショナルアーツ〉のベストだ。“大首長”であるオルテガから独立した織師のアーヴィン・トルフィリオ が、1980年代にブランドを立ち上げ。彼の家系はオルテガ製品に代々携わってきた織師一族であり、チマヨベストにおける織り柄のすべてを熟知していたといっても過言ではない。

〈CENTINELA TRADITIONAL ARTS〉のチマヨベスト。

肩のフレイムパターンは裏側にも。

チマヨらしさ漂うデザインの背タグ。

糸を天然素材で染める伝統的な手法をリバイバルするなど、彼らのこだわりは本家に引けを取らず。そのうえで革新的なデザインや技術を取り入れて、極上の柄を紡いでいく。今やニューヨークのモダンアート・ミュージアムなどでも展示されるほど、高い芸術的評価を獲得している。

「チマヨベスト」なら〈ORTEGA’S〉〈CENTINELA TRADITIONAL ARTS〉を選べば間違いはない。

不死鳥の如く蘇る、
古き良きタフネスの形。

オルテガの誕生から遡ること十余年。1901年にマサチューセッツ州ウースターで生まれた〈Brown’s Beach Jacket Company ブラウンズビーチ ジャケット カンパニー〉も、ヘビーデューティーなベストで知られるブランドだ。創業者はウィリアム・ W・ブラウン。彼が作り出したのは、過酷な条件下で働く当時のフィッシャーマン、ハンター、ランバージャック(木こり)らに愛されたリアルワークウェアであった。

〈Brown’s Beach〉のベスト。1950年代製のオリジナル。

当時としては画期的な、優れた防寒性と機能性。その土台となったのが、「ビーチクロス」と呼ばれる独自素材だ。表面はラッセル編み、裏面はウールフリースの2層構造を採用。裏面に起毛を強くかけることで、ニット製品らしからぬ高い耐久性を実現した。その快適性も特筆で、リアルワーカーだけでなくアウトドアマンからも支持を獲得。ただし、その魅力は機能面だけにとどまらない。表面に異なる色、異なる番手の糸を撚り合わせることで、独特の凹凸と「ゴマ塩」と呼ばれる色合いが現れる。ルックスにおいても、素材が大きく寄与したのだ。

異なる色、番手の糸を撚り合わせることで生まれる「ゴマ塩」が特徴。

しかし1960 年代に入ると、ブランドは時代の波に飲み込まれていく。アウトドア業界では、ポリエステルやフリース などの新素材が台頭。男性の服飾文化自体も変化し、派手な装いが定着した。その結果、ブラウンズビーチは廃業に追い込 まれてしまうのだ。ちなみに現在ではオリジナルのビーチクロスが見直され、ヴィンテージマーケットでブラウンズビーチの ベストが希少価値を獲得。なんとも皮肉めいているが、これもファッションの持つ不思議な魅力の一部かもしれない。

オリジナルのボタンには、ブランド名が刻印される。

また、日本では復刻もなされた。以前に触れた〈Rocky Mountain Featherbed ロッキーマウンテンフェザーベッド〉同様、時と場所を超えての復活劇。しかも今回は、2つの復刻ヴァージョンが存在する。ひとつは、こちらも以前に『 knowbrand magazine 』で取り上げた〈FULL COUNT フルカウント〉製。もうひとつが、原宿の伝説的ヴィンテージショップ〈 LOSTHILLS ロストヒルズ〉製だ。
(→〈Rocky Mountain Featherbed〉に関連する記事は こちら )(→〈FULL COUNT〉に関する記事は こちら )

〈LOSTHILLS〉による復刻版。

タグにはしっかりと〈Brown’s Beach〉の文字が。

前者はヴィンテージデニムのリプロダクトで名高く、後者は2011年に一旦閉店するも、2015年からはオリジナルのアイテム を販売する業界きっての盟主である。もともとは両者によるコラボレーションの形で発表された復刻だったが、紆余曲折を経て今では別物としてリリースされているようだ。

そんな“大人の事情”はさておき、ヘビーデューティーの魅惑は大いに人を動かす。こと日本で愛され、再興が果たされたことは、なんとも名誉な事象ではないか。

ヴィンテージのオリジナルにするか、実名復刻モデルにするか。そんな迷いも楽しみのひとつ。

モード界からも注目される
アーバンアウトドアの寵児。

ご存知のとおり、近年では街で着るアウトドアファッションが市民権を得ている。なかでも特異な輝きを放つのが「フィッシングベスト」の隆盛だ。ハイブランドのランウェイにも姿を見せるなど、モード界も注目。ある意味で懐古的で野暮ったい同アイテムがもてはやされるのは、ストリートにおけるレトロテイストの復権にも起因するかもしれない。

〈Columbia〉の「マルチポケットフィッシングベスト」。

そもそも、フィッシングベストとは読んで字の如く魚釣り用のアウターベストの一種である。防水加工がされたタフなマテリアルで作られ、細かな釣具を持ち運ぶために多くのポケットが備えられた。つまりは、極めて機能的なヘビーデューティーウェアなのだ。

背面にも釣具を入れるための大きなポケットが配される。

その代表作が、〈Columbia コロンビア〉による「マルチポケットフィッシングベスト」だろう。ブランドの前身は、 1938年にオレゴン州で発足し、オフィス近くを流れるコロンビア川にちなんだ〈Columbia Hat Companyコロンビア ハット カンパニー〉。帽子製造が主だった同社の歴史を大きく変えたのが、アウトドア界の発明家とも称される現会長ガー ト・ボイルである。彼女はのちにコロンビアの社長を務める夫のニール・ボイルとともに、事業の拡大に尽力。そして1960 年には、〈Columbia Sportswear Company コロンビ アスポーツウェア  カンパニー〉を立ち上げた。フライフィッシング用に開発されたフィッシングベストは、彼女が釣り好きの友人のために考案したアイディアが基になっている。

先に述べたように、現在はファッションアイテムとして認知されるフィッシングベスト。コロンビアの日本限定タウンユース ラインとして2016年に生まれた〈Columbia Black Label コロンビア ブラックレーベル〉からリリースされたコラボレーショ ンベストは、時代感を敏感に捉えた1着である。コロンビアの80周年を記念した今作でパートナーに選ばれたのは、アウトドアに軸足を置くジャパンブランド〈Mountain Research マウンテンリサーチ〉だ。

〈Columbia Black Label〉×〈Mountain Research〉のコラボベスト。

ベストの下半分を切り離してバッグとしても使える粋なギミックは、80年代製のオリジナルから継承。

靴職人をルーツとするデザイナー小林節正によって再構築されたオールネイビーのデザインは、街と自然を往来する現代の洒脱なライフスタイルを反映。見方を変えれば、ヘビーデューティー人気の象徴的存在とも捉えられる。

コラボレーションモデルでは、タウンユースを念頭にネイビーとブラックがオリジナル色として製作された。

本気仕様を街で纏えば、バッグはもはや不要。

自己表現における
“ベスト”アンサーとして。

繰り返す。アウターともインナーとも分別されない胴着は、ミニマリストからすれば必要不可欠ではないかもしれない。ただし、それゆえに自己表現手段として最適で、ヘビーデューテーィーなベストであればなおさら、スタイルに安心感と正当性を与えてくれる。

当連載における「ヘビーデューティーシリーズ」の第三弾、お楽しみいただけただろうか。ファッション界には、まだまだタフで機能的な傑作が存在する。それはまた、この場でご紹介しよう。

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