FASHION

“ほどほどに、がいい加減” 80%の男が作った〈パタゴニア〉。【フリースジャケット編】

本格的な冬の訪れを告げる朝晩の冷え込み。1 年のフィナーレに向かって突き進む師走・12 月。COVIT-19 との共生も早 3 年目となり、マスク生活も今やニューノーマルを超えて日常に。まだまだ油断はできないが、それ以前に寒さから身を守らねば話にならぬ、春は訪れぬ。ゆえに「アウターで武装すべき!」と語るのが常套手段であるものの、膨大な選択肢の中から選ぶならば、何かしらの指標は持ってしかるべき。

そこで考える。我々には何が必要なのかと。まずは、極めて優れた機能性。見た目はスマートでありたいが、日々の生活に馴染まなければ意味がない。さらに付け加えるならば、ブランドとしての信頼性も必須。ならばいっそ、アウトドアブランドに絞ってみてはどうだろう。思いつくのは......このブランドかあのブランド......。 というワケで、今回のテーマは西海岸生まれ、“泣く子もホッコリ”する〈Patagonia パタゴニア〉のハナシ。

実は、『knowbrand magazine』初期にも特集している同ブランド。なので此度は、【フリースジャケット編】と、それ以外の【名作ジャケット編】の 2 回に分けて、改めてその魅力を掘り起こしていくとしよう。まずはパタゴニアの代名詞的素材について触れる【フリースジャケット編】から。

黎明期のアウトドア業界に、
革新的技術と環境保全の概念を広めた巨人。

今では、アウトドア界のリーディングカンパニーにして、環境危機や社会問題に対して責任をもってビジネスをする「レスポンシブル・カンパニー」の先駆者としても知られるパタゴニア。その始まりは、アメリカ・カリフォルニア州・ベンチュラのとある街角。創業者イヴォン・シュイナードが、クライミングの道具「ピトン」を実家の裏庭で作り始めると、これが友人の間でも評判に。かくして 1966 年、共同経営者のトム・フロストとともに「シュイナード・イクイップメント」を創業。

5 年後には米国最大のクライミング用メーカーにまで上り詰めたのだが、自分らが世の中に広く浸透させたピトンにより、環境へのダメージが深刻化する事を危惧してピトン製造を中断。1972 年には、岩壁を傷つけない道具への切替えを推奨し、自然のままの岩を登る体験を次世代から奪わないことを目的とする“クリーンクライミング”というスタイルを提唱。今へと続く環境保全への取り組みはこの頃から始まった。

パタゴニア_Patagonia_フィッツロイ山群_ロゴ

お馴染みのブランドロゴに描かれたのは、南アメリカ大陸のアルゼンチンとチリに跨るパタゴニア地方にある「フィッツロイ山群」。

また少し遡って 1970 年、シュイナードは旅先のスコットランドで、「クライミング用に使えるかも」と見つけたラグビーシャツに惚れ込み、アメリカに持ち帰って販売。このタフなスポーツウェアが、またしても仲間内で評判に。これを機にウェア部門を立ち上げ、輸入・販売を開始。そして、長らく続いたベトナム戦争がアメリカ軍の敗北・撤退とともに終結した 1973 年。ウェア部門に新たなブランド名が与えられることとなる。その名は〈Patagonia パタゴニア〉。南アメリカ大陸のアルゼンチンとチリに跨るパタゴニア地方に由来し、世界中のどの言葉でも正確に発音でき、かつ“同地の厳しい環境の中でも、ちゃんと使えるウェアを作る”という思いから命名されたという。

なお、ロゴのモチーフは、同地にそびえる「フィッツロイ山群」。シュイナードにとって青春時代からの憧れだったクライマーたちの聖地を、夕焼けに染まる空と青い海、雪の白い稜線で縁取られた黒き山々として描いたのである。

パタゴニア_Patagonia_フィッツロイ山脈_写真

これが実際のフィッツロイ山群。雄大かつ厳しくも美しい自然の姿がそこにはある。

しかしてこの新たなブランドは、黎明期のアウトドア業界に次々と革命を起こしていく。まず 1977 年。まだクライミング用ウェアが存在せず、素材もウールやコットンが主流だった時代に、漁師が着ていた“濡れても保温性があり、すぐに乾く”化学繊維のパイルセーターに着目。モルデン・ミルズ社(現ポーラテック社)との共同研究により開発された新たなパイル生地を使ったアウター、「パイルジャケット」を誕生させる。これが薄くても暖かく軽く、重ね着で体温調節もしやすいと評判になり、ポリプロピレン素材のベースレイヤーの上に、このパイルジャケットをミドラーとして重ね、さらにシェルを羽織るレイヤリングという概念をアウトドア界に広める契機となった。……のだが、たった 1 度の洗濯でも外側に毛玉ができてしまうのと、発色の悪さという弱点も。

そこで 1985 年、再びモルデン・ミルズ社との共同開発により、ソフトで毛玉もできにくい両面起毛素材を開発する。これが“フリースの元祖”として知られている「Synchilla シンチラ」である。高い通気性と、洗濯可能といった当時最先端の機能性を備え、鮮やかな色味も生産できるようになったことで、クライマーのみならず、ファッション感度の高い人々にも注目されるように。この時、シュイナードが“素材の特許をあえて取得しない”という選択をしたことで、パタゴニアと同社が生み出した“シンチラ=フリース”は認知度をさらに拡大していくのであった。

……ちなみに、パタゴニアとともにアウトドア業界を牽引する〈THE NORTH FACE ザ・ノースフェイス〉の創業者、故ダグラス・トプキンスとが、かつて冒険を共にした親友同士だったというのはアウトドア好きには常識。さらに余談を重ねるならば、日本発のアウトドアブランド〈mont‐bell モンベル〉が、かつてパタゴニア製品を販売していたこともウンチクとして覚えておけば、マウントが取れる(山だけに)。

(→〈THE NORTH FACE ザ・ノース・フェイス〉の過去記事は、こちら)
(→〈mont-bell モンベル〉の過去記事は、こちら)

「Classic Retro Cardigan
クラシック・レトロ・カーディガン」
これぞシンチラの極み。
毛足 13mm のパイルが伝える温かみ。

先述のように、パタゴニア=フリースというのは世の中の共通認識。そしてフリースといえばこのモデルを思い浮かべる方も多いであろう名作中の名作が、言わずと知れた「ClassicRetroCardigan クラシック・レトロ・カーディガン」である。登場は、20 世紀最後の年だった 2000 年というから、まだ 22 歳そこらの若造……と思ったら大間違い。その正体は、1988 年から 1991 年まで製造されていた「RetroPileCardigan レトロ・パイル・カーディガン」のデザインはほぼそのまま、素材をアップデートして誕生した、言わば“強くてニューゲーム”なモデル。

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名作中の名作「Classic Retro Cardigan クラシック・レトロ・カーディガン」。写真1枚目が 2000 年製で、写真 2 枚目が 2001 年製。ともにボディカラーは人気のナチュラル。たった 1 年でディテールにも変化が。

わずか3年間しか展開されなかったという希少性も手伝い、後継のクラシック・レトロ・カーディガンが登場するまで、レトロ・パイル・カーディガンは市場価格 10 万円前後で取引されていたとか。このエピソードからも、いかに人気の高いデザインだったかが伺える。そんな同モデル最大の特徴が、13mm とパイルの毛足の長さ。現行のフリースジャケットに比べて明らかに長く、着用者だけでなく見る者にも、ふんわり優しく温かみのある印象を与える。

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2000 年製(写真1枚目)の胸ポケットのジップは、前身であるレトロ・パイル・カーディガンとは逆に開閉する。また、ジッププル部分にのみ ロゴを配する仕様もこの年だけ。対する 2001 年製(写真 2 枚目)では、ポケット上にロゴが縫い付けられている。

今回用意したのは人気のナチュラルカラー。爽やかなブルーのパッチポケット&パイピングが絶妙なアクセントを添え、エネルギッシュな裏地の赤もよく映える。ついでに触れておくのが、製造年によるディテールの変化について。2000 年製では、元となったレトロ・パイル・カーディガンと同様にジッパープルにブランドロゴを配していたが、2001 年以降はポケット上にロゴを貼付けたデザインに。またジップは、前身のレトロ・パイル・カーディガンとは逆向きで、右から左に閉まる仕様。これがオリジンと見分ける際のポイントとなるので、覚えておいて損はない。

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サイドポケットにもジップを備えているので、中身を落とす心配もない。バックスタイルは、肩部分に縫い目がなく、背面中央で切り替えられた独特な形状。サイズアップしても自然と肩が落ちるのでバランスが良い。

ボディサイドには便利なジップポケットを配備。柔らかなパイル地に対し、張りと伸縮性のあるジッププル&パイピングが風味絶佳なスパイスに。外気を感じやすい襟元はナイロン生地で切り替え。袖の付け根と身頃に縫い目がなく背面中央で切り替えたバックスタイルは、着用すると肩部分が自然と落ち、大きめシルエットとも相まってキュートなフォルムを描き出す。ただ、暖かそうな見た目に反し、かなり風を通すので着用の際はレイヤリング必須。本モデルの最終製造年は 2005 年頃といわれ、既に枯渇化しつつある。お探しの方はリユースマーケットにてお早めに。

「Retro X Jacket レトロ X・ジャケット」
抜群の保温性に加え、
風を通さず蒸れ知らずのシェルいらず。

続いては、レトロ・パイル・カーディガンの弱点であった防風性を克服すべく、1993 年に生み出された「Retro X Jacket レトロX・ジャケット」をご覧いただこう。先述のレトロ・パイル・カーディガンに比べるとフリースの毛足は 8mm と短めだが、表地とキャプリーンメッシュ裏地の間に“風を防ぎながら湿気だけを逃す”という、ご都合主義な P.E.F.(Performance Enhancing Film)バリヤーを挟み込んでいるのが特長。要は 3 層構造で汗をかいても蒸れない作りになっていながら、風を通しにくく、保温性においてはレトロ・パイル・カーディガンを凌駕するというワケだ。

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汗をかいても蒸れず、されど風は通さず、暖かいという三層構造の「Retro X Jacket レトロ X・ジャケット」。

今回用意したのは、「初期型」と称されるモデルで 1994 年製。レトロ・パイル・カーディガンでは収納とデザインアクセントを兼ねていた胸ポケットの姿がここにはなく、ブランドロゴが控えめに鎮座するのみ。大きく切り返した縁取りをあしらい、やや高めに配置されたサイドポケットも目を引く。以降、1996 年・1997 年に製造されたモデルでは、サイドポケットの切り替えしが、よりすっきりシンプルに変更されるので、これも古き良きディテールといえる。

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シンプルながらエッジの効いたサイドポケット。この幅広なポケット周りの切り替えが新鮮。

なお、パタゴニアのブランドロゴは年代によって、いくつかのパターンが存在することでも知られている。ゆえに 1983 年の創業時から今日までの変遷を追いながら、アイテムを収集するパタゴニアフリークも多いとか。写真のモデルに付いているのが、1992 年〜1994 年のわずか 3 年間にのみ採用された通称「雪なしタグ」。その名が示すように、フィッツロイの稜線部分に積もっていた白いラインが消えている。ちなみにこの雪なしタグが誕生した経緯について、フェイク品対策のためとする説もあるが、実際のところは不明。ただ、ブランドの歩んできた歴史を振り返る際に、ちょっとした話のタネになってくれることは間違いない。

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フィッツロイ山群を覆う白い雪のラインが無いことから、通称「雪なしタグ」。タグの見分け方の中でも、もっとも簡単だ。

またパタゴニアフリーク曰く、雪なしタグ期には美配色モデルが数多いとのこと。ここで紹介するモデルもまた、「フレンチレッド」といわれる情熱的なカラーパレットに、理知的なパープルのパインピングが絶妙な塩梅。探せばこういったアバンギャルドな配色が、まだまだ埋もれているのだから油断ならない。しかも 90 年代製も今となっては歴然たるヴィンテージの領域に足を踏み入れているため、手に入れるなら早いに越したことはない。いざ急がん。

「Classic Retro X Jacket
クラシック・レトロ X・ジャケット」
あの名作そっくりのルックスに、
ワンランク上の機能性を融合。

ここまで紹介してきたモデルのどれもが、幾度となくディテールの変遷を辿ってきたことは、もうお分かりいただけただろう。先に取り挙げたレトロ X・ジャケットもまた同様。1998 年、左胸にパッチポケットが追加される。こうして名作クラシック・レトロ・カーディガンと酷似した姿を手に入れたことで評価が上がり、今なおパタゴニアの看板アイテムと呼ばれるまでのトップセラーに。さらに 2006 年からはモデル名に「クラシック」の文字を冠するように。これで文字通り、押しも押されぬクラシック(時代を問わず世界中で愛される名作)となったのである。

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レトロX・ジャケットにポケットが付いた「Classic Retro X Jacket クラシック・レトロ X・ジャケット」。

デザイン自体はクラシック・レトロ・カーディガンと酷似していると述べたが、実際は収納とハンドウォーマーを兼ねるサイドポケットが高めに配置され、胸のパッチポケットはやや縦長に拡張。そこにあしらわれたジップは、中身の出し入れが容易な縦型と随所に差異が。肝心の着心地に関しては、レトロ X・ジャケットから踏襲した「Y ジョイントスリーブ」が大きく貢献。通常は肩から袖を縫い付けるところを、胸の上から肩を覆うようにして袖付けすることで肩と腕の可動性を向上。また、肩の収まりもいいのでインナーを重ねてもモタつかず、自由なレイヤリングが楽しめる。

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サイドポケットと胸のパッチポケットは、ともにジップが縦にスライドする仕様。開口部を広げることで、ポケットの中身を取りやすくする効果も見込める。

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後継モデルであるクラシック・レトロ・カーディガン(写真右)と並べてみると、パッチポケットが形状・ディテールともに全然違うとよく分かる。また、大人用とキッズ用ではディテールがほぼ変わらず。ゆえに親子コーディネートするのも楽しい。

ここで紹介するモデルは 2020 年製。前出のナチュラルのように、毎シーズン必ず製造されるボディカラーがある一方、こういった主張の強い配色は一期一会。その年に購入しておかねば後悔すること必至、チェックはこまめに。また、多くのブランドがキッズ用は簡素なデザインにディテールダウンすることが多い中、パタゴニアではキッズ用も大人用とほぼ一緒のルックス。親子でリンクコーデなんていうのも、まぁ微笑ましいではないか。

「Classic Retro X Vest
クラシック・レトロ X・ベスト」
袖を取り外すことで、
さらに磨きをかけたレイヤリング力。

アウターとしても使える優秀なミドルレイヤーとして、アウトドアマンたちの支持を集めたレトロ X・ジャケットのデビューより 3 年遅れで、満を辞して登場した「Retro X Vest レトロ X・ベスト」。現在では「Classic Retro X Vest クラシック・レトロ X・ベスト」と名を改めているが、どちらにしても「軽いし、暖かいし、風も通さない最高のフリースジャケットだけど、この袖部分を取ってベストにすれば、より運動性も増すのではないか?」なんてことで誕生したのだろうと容易に想像がつく直球勝負のネーミング。これは優れたポテンシャルと自信の表れでもある。

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軽く、暖かく、風を通さず、しかも動きやすい「Classic Retro X Vest クラシック・レトロ X・ベスト」。

1996 年のデビュー当時は、先行していたジャケットと同じく胸ポケットのないシンプルなデザインだったが、1998 年からはクラシック・レトロ X・ジャケットと呼応するように胸ポケット付きの仕様にアップデート。今回用意した写真のモデルは 2016 年製。ご覧いただければ分かるように、袖が無くなった分、胸のパッチポケット・襟元の切り替え・肩口に施されたパイピング。これら異素材のアクセントカラーとフリース素材のボディカラーの比率に変化が生まれ、よりアクティブな印象に。

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肩口のパイピングとそこから覗くインナーカラーが、着こなしにアクセントを添える。

ここまで再三、クラシック・レトロ X・ジャケットとの近似性を指摘してきたが、実際に両者を並べて見比べると、胸ポケットのサイズやサイドポケットの位置など、些細な話ではあるが相違点が浮かび上がってくる。もし、貴君がジャケットそのままのデザインをお望みの“モノ好き”ならば、ジャケットそのままのディテールが落とし込まれた 1998 年頃の初期モデルをリセールマーケットで探してみるのも一興かと。

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同じ「クラシック・レトロ X」の名を冠したベストとジャケットを並べた図。ディテールにこだわらないのなら、袖の有無で変わるのは運動性と保温性くらい。ゆえに合わせるインナーによって使い分けるのが正解。

またベストは、ジャケットよりも体温調整が容易で汎用性も高く、コーディネートもしやすいため一着持っているとレイヤリングの幅を広げてくれる。大きめを選んでクルーネックスウェットやフーディーに重ねても良いし、春先や秋口など中途半端な季節は T シャツに重ねるのも悪くない。そう考えるならば、ここまでで紹介したどのフリースアウターよりも自由に楽しめる1 着と言って差し支えないだろう。

「Synchilla Snap T-Neck
シンチラ・スナップ T・ネック」
シンプルで飽きないデザインと、
豊富で色鮮やかなカラバリ。

パタゴニアのフリースウェアの代名詞といえば、クラシック・レトロ・カーディガン。これに異論はないが、ここ日本において 90 年代のアウトドアファッション・ブームを通ってきた者ならば、まず思い浮かぶのはコチラか。1985 年の初登場時の名称は「Synchilla T-Neck シンチラ T ネック」。翌年、デザインそのまま「Synchilla Snap T-Neck シンチラ・スナップ T・ネック」と名称のみをマイナーチェンジ。その後もアップデートを遂げながら「Synchilla Snap T シンチラ・スナップ T」として今なお継続展開され、人気を保ち続けるロングセラーモデルだ。

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今回用意した「Synchilla Snap T-Neck シンチラ・スナップ T・ネック」は、1989 年〜1993 年頃のモデル。

本稿冒頭でも触れた通り「シンチラ」とは、ソフトで毛玉もできにくいフリース素材の名称。機能面はもちろん折り紙付きということで、同素材を使用したシリーズには多様なラインナップが用意されていた。その中にあって、本モデルの飽きのこないシンプルなデザインと発色の良いカラーバリエーションはひときわ輝きを放っていたといえる。ちなみにこちらのカラーは、ハワイの海をイメージしたともいわれる「シーグリーン」。ネーミングも実に洒落ている。

プルオーバー仕立てということで、これまでとは違った雰囲気。スタンドネックの前立て部分には、モデル名の由来でもあるプラスチック製スナップボタンが軽快さを演出する。また、ボディカラーとは異なる色鮮やかなナイロン地の切り替えやパイピングも視線を集めるキーポイント。ただ現行品では、前立て部分がすべてフリースに変更されているので、ご注意あれ。さらにもう1つ、左胸に装備されたフラップポケット。これまたアイコニックな意匠だが、採用されたのは 1989 年から。

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前立て部分にスナップボタンが4つ並んだ、スタンドネックスタイルの襟元。1994 年の途中からボタンは1回り大きなサイズに変更される。 フラップが配された胸ポケットはデザイン的アクセントにして、唯一の収納箇所である。

年代判定のヒントを記すついでに、背タグにも注目。紹介したモデルでは背景色にブラックを採用し、タグ自体が大きい「デカタグ」よりも若干小型。R マークも付いて現行のロゴに近いデザインといえる。この特徴は 1989 年〜1993 年頃まで採用されていたもので、先述のフラップポケットもあって同時期のモデルであると判定可能。

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1989 年〜1993 年頃の背タグ。通称「デカタグ」に似ているが、それよりも若干小型で R マークがついているのが特徴だ。

とはいえ、こうして文字で読むだけではタグとディテールの変遷がイマイチ違い掴みづらくて当然。ならば実際に見比べてみれば話も早い。そこで参考になればと、この項の冒頭でも触れている 1985 年〜1988 年頃に製造されたとされる初期モデル「Synchilla Snap T-Neck シンチラ・スナップ T・ネック」をサンプルとして用意してみた。ここからディテールを手掛りに年代検証してみよう。

「Synchilla Snap T-Neck
シンチラ・スナップ T・ネック」
アイコニックな胸ポケットがなくとも、
その存在感は変わらず。

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フラップポケットのない時代の「Synchilla Snap T-Neck シンチラ・スナップ T・ネック」。シンプルで、これも良し。

左胸のフラップポケットがアイコンとなっている本作だが、実は 1985 年の登場時から 1988 年までの間は、肝心のポケット自体がなかった。これによりシンプルなルックスも冴え渡り、胸ロゴと前立ての切り替え、そして各所のパイピングが存在感を増す。加えてナイロン地の前立て部分がやや太い気が…。1987 年製までは、もっと細くデザインされていたので、それ以降のモデルであると予想できる。さらに通称「三角タグ」と呼ばれる背タグでダメ押し。本来は MADE IN U.S.A.と原産国の表記が入るのが特徴なのだが、この表記がないタイプは 1988 年のみ。

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並べてみるとポケットの有無で、印象はずいぶん変わる。2枚目の写真に写っているのが、原産国表記のない「三角タグ」。1988 年のみしか使われていなかったこのタグが、年代判定の大きな鍵を握ることに。

以上から、1988 年製造モデルということが証明された。ちなみにアイテムによっては製造タグから製造年のみならずシーズンの特定も可能。こういった楽しみ方ができるのも、パタゴニアがヴィンテージ好事家に愛されている理由の1つ。ネットの海に潜ればヒントがいくらでも見つかるので、ぜひ一度この知的遊戯にチャレンジしてみては。

「Pile Glissade Cardigan
パイル・グリセード・カーディガン」
総柄フリース×単色ナイロンで、
確実に“使える”リバーシブル。

【フリース編】のラストを締めくくるのは、こちらも銘品と誉れ高い「PileGlissadeCardigan パイル・グリセード・カーディガン」。80 年代後半〜1998 年までの約 10 年間製造され、プルオーバーとフルジップ・カーディガンの2タイプがラインナップされていた模様。発売当初の 1986 年頃は毛足の短い「シンチラグリセード」のみだったが、毛足の長いパイルが 1992 年から登場。その最大の特徴が、リバーシブル仕様であること。フリース面とナイロン・リップストップ面の 2WAY で着用が可能で、フィールドの天候や気温によって使い分けるのだ。

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1988 年製の「Pile Glissade Cardigan パイル・グリセード・カーディガン」。年代的には初期のモノにあたる。

ちなみに「グリセード」とは、残雪期の雪山登山の際に斜面を、ピッケルや杖などで制動をかけながら、スキーやカンジキといった道具を使わず滑り降りるテクニックを指す。滑走する楽しみと自分の体で滑るスピードを制御する難しさがあり、リスクとリターンが5:5。そう考えるならば、リバーシブルで両面が楽しめる本モデルに付けられたのにも納得がゆく。フルジップ仕様のフリース面にはサイドポケットと胸ポケットを配備し、対するナイロン面にはサイドポケットと前身頃にスナップボタンとシンプルな陣容。ここで紹介するのは最終生産年である 1998 年製。

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リバーシブル仕様の裏、ナイロン側のカラー名称は「バーントチリ burnt chili」。焦げた唐辛子と言われれば、そんな気もする。

何よりも注目いただきたいのがフリース面の総柄デザイン。パタゴニアでは 1991 年のスナップ T で、初めて「ダイヤモンド」と呼ばれる菱形がボーダー状に連なる総柄を採用して以来、アブストラクトな柄から、実在の動物に題を求めた柄まで、様々な柄を豊富なカラーバリエーションとともに展開してきた。写真のモノは、フリークの間で通称「渦巻き」とも呼び習わされている「スピリッド」柄。グリセードがこの年で残念ながら製造終了を迎えたため、こちらが最後の総柄グリセードとなった。なんとも切ない、兵どもが夢の跡。

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これが通称「渦巻き」柄。オリジナルで制作されたテキスタイルなのだろうが、実に渋い。いや、渋すぎる。

先ほど、プルオーバーとフルジップ・カーディガンがあったと述べたが、本国では前者の方が人気も高く、後者に至ってはリリースされなかった年もあるという。ただし、タウンユースでの汎用性を考えるならば、間違いなくフルジップ・カーディガンに軍配が上がる。なにはともあれ、この印象的な総柄フリースが既存のアウトドアブランドとは異なる独自の姿勢を示し、パタゴニアが黄金期を築き上げる一助となったことは、疑いようのない事実である。

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創業者・シュイナードは自身の著書において、“80%の男”と自認している。どんなに物事に没頭していても、熟練度が 80%に達すると未練もなく辞めて、まったく違う何かを始めてしまうというのだ。そんな彼も御年 83 歳。禅に傾倒し、チャレンジするのは良いが、必ず余力を残しておくこと。と中庸の是を説く。“過ぎたるは猶及ばざるがごとし”。忘れるべからず。本稿もこれに倣い、次回【名作ジャケット編】に後を譲るとして、一旦のレストとさせていただく。「あわてない、あわてない。一休み、一休み」。

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