FASHION

ニューバランスは、ただ地味な優等生じゃないというハナシ。【前編】

飾り気がなく控えめなさまを指す“地味”というワード。ことファッション的シチュエーションにおいてはネガティブに用いられる場合が多い。だが、各ブランドが最新技術の投入でビジュアル的にも機能的にもアップデートされた新作を発表し続けるスニーカー業界の中にあって、普遍的なデザインと、そこに秘めたる良い意味での“地味さ”をもって世界中で愛されるブランドがある。それが〈NEW BALANCE ニューバランス〉である。

高感度な洒落者たちに溺愛されるそのシックな雰囲気が導き出すのは、あらゆるコーディネートにもごく自然に馴染む高い汎用性。さらに一度でも履けば分かる極上の履き心地。その2つを備えながらも、そこはかとなく漂う品の良さは、まさに“優等生”と呼ぶに相応しい。だが、先にも述べたように革新が尊ばれるのがスニーカー業界。この地味な優等生がいかにして、群雄割拠の業界内で確固たる地位を獲得するに至ったのか。今回はそんなハナシ。

ニワトリの足から
革新的インソールを考案。

まずは例の如く、ブランドの歩みからプレイバック。創設者であるウィリアム・J・ライリーが、アメリカでも最も長い歴史を持つ都市のひとつ、マサチューセッツ州ボストンにて1906年に設立。ちなみにライバルメーカーである〈adidas アディダス〉の設立が1948年、〈NIKE ナイキ〉が1972年なので、その歴史の長さは後進に先駆けること約半世紀以上。当時掲げていた社名は「ニューバランス・アーチカンパニー」。この名は橋の建設を業務としていたから……ではなく、同社が開発した扁平足矯正用のインソールに由来するという。歩行時などの衝撃を吸収しつつバランスを保ち、次の一歩を踏み出す動力を生む“アーチ構造”を有する人間の足。ライリーはその構造を正常に機能させるべく、庭で見かけたニワトリが3本のかぎ爪で優れた安定性を持って立っていることに着想を得た“アーチサポートインソール”を考案。この画期的インソールをシューズに入れることでもたらされるは、心地良くも“新しいバランス感覚”。こうして〈NEW BALANCE ニューバランス〉の名が誕生したのである。

同社はその後、こうした独自技術をフィードバックさせた矯正靴の製造をスタート。ちなみに、医療用シューズの開発を出自とするシューズブランドとしては、ドイツ生まれの〈BIRKENSTOCK ビルケンシュトック〉などが知られている。

“自然から遠ざかった人の身体を、自然な状態に解放する”というコンセプトから生まれた〈BIRKENSTOCK 〉。解剖学に基づいて開発されたインソール「footbed フッドベッド」が最大のウリ。

(→〈BIRKENSTOCK〉に関連する記事はこちら

同ブランドの転機は1938年に訪れる。地元ランニングクラブに所属する少年らのために、初のランニングシューズをオーダーメイドで製作したのである。綿密に足のサイズを計測し、完璧なフィッティングを実現させたこの試みを機に、ランニングという新たな世界に進出したニューバランス。矯正靴で培われた足の解剖学的知見や整形外科、運動生理学などの知識と経験は、その後の1960年代に実を結ぶ。グリップ力と衝撃吸収性に優れたリップソールを搭載し、世界で初めて足幅周りの寸法でのサイズ選択を可能とした“ウィズサイジングシステム”を用いた「トラックスター」の登場だ。ニューバランスはこのシューズで着実にフォロワーを増やし、1972年には現会長のジェームス・デービスをトップに据え、現在へと繋がる体制が構築された。

この頃、デービスは2つのアイコンを生み出す。1つは“ナンバリングシステムを採用したモデル名”。これは「スターにすべくはシューズにあらず」という考えのもと性能を重視し、パフォーマンスブランドとしての認知を広げるべく採られたアイデア。そしてもう1つは、アッパーのサイドパネルに配された“Nロゴ”。フィット感と安定性を高め、ニューバランスという新興勢力のアピールを兼ねたこのデザインが初採用されたのは、全米が空前のジョギングブームに湧いた1977年。どのブランドか一目瞭然でキャッチーなこの意匠も、「CORTEZ コルテッツ」で知名度を獲得していたナイキと間違えて購入するユーザーが多かったというから、いかにニューバランスが“知る人ぞ知る存在”だったかのかが推し量られよう。

「320」
ニューバランスの基本理念を
具現化した名作。

ここで、栄光のNロゴを初めて背負ったモデル「320」をピックアップ。1976年のリリース当時からトップマラソンランナーに愛用され、権威あるアメリカの専門誌『ランナーズ・ワールド』においてトレーニングシューズ部門の第1位を獲得したという同作。その特徴に挙がるのが“インステップレーシング”という独自の設計思想。トゥまでシューレースを通さず甲部分でフィッティングを調節することで、足首とヒールのホールド性を確保しつつ、屈曲部の動きを自由にして足の負担を軽減する。なおこの構造は、以降登場するモデルにも受け継がれ、“ウィズサイジングシステム”と並んで同社の基本コンセンプトの1つとなる。

「M320」。リリース当初はサイドパネルにNロゴではなく、スウェード素材の補強パーツが用いられていたそう。

さらに本作では、アッパーの甲部分をナイロン素材にすることで軽量化を図り、足を踏み込んだ際に屈曲性を高めるという工夫も。対するソール部分は台形状の“フレアソール”。2種類のクッション材を挟み、アウトソールには滑り止めとしてヘリンボーン模様のガムラバーを採用。ヒールまで巻き上がるようにカバーされたデザインが、なんともクラシカルな趣きではないか。

ブランドを代表する
スタンダードシリーズ。

ニューバランスのパフォーマンスブランドとしての基本理念を具現化した「M320」は疑念の余地もないほどの名品だが、我らはブランドやアイテムへの深い造詣をお伝えする『knowbrand magazine』。ならば、より読者諸氏に馴染み深く、より“らしさ”を漂わす傑作シリーズに触れざるを得ない。いや、むしろ触れずにニューバランスを語ることはできないと言った方が適切か。というワケで、ここからは誰もが知るスタンダード「99X」シリーズにフォーカスする。

アスファルトやコンクリートによって敷き固められた舗装路を走るロードランニング用として開発された「990」を出発点とし、数多くのファンに愛されてきた同シリーズ。現在では万人が履けるランニングシューズとしてスポーツ業界のみならず、ファッション業界からも支持を得ている。ちなみに「ニューバランスの代表色は?」と問われ、まず脳裏に思い浮かぶグレー。これがメインカラーとして採用されたのも同シリーズから。アスファルトやコンクリートの街並みに溶け込むように選ばれた色使いは、さすがアメリカ東海岸出身だけあり都会的でモダン。

「990」
キャッチコピーは
1000点満点中990点。

ではここからは、3年ごとのモデルチェンジで血族を増やしていった「99X」シリーズを順に追っていこう。まずはスタートラインである初代「990」。惜しみなく時間と費用を投入し、最新技術で最高のランニングシューズを作ることを目的に開発をスタートさせたのが1978年の春。その後、4年間にわたり研究とデザイン開発を重ね、1982年ついにデビュー。“M.C.D.”と呼ばれるヒールスタビライザーを装着することで安定性とクッション性を両立するなど、当時最先端の機能性を確保。この事実を当時の広告では「1000点満点中990点」というキャッチコピーにて表現。賢明な読者諸氏ならばご察しの通り、これがモデル名の由来でもある。

「M990」。モデル名の由来は、リリース当時の広告に記された「1000点満点中990点」というキャッチコピーから。

さらに同作を有名にしたのが、1ドル=約280円の時代に約100ドルという挑戦的プライス設定。巷では「クレイジーだ」と囁かれるも、優れたパフォーマンス性能が高評価を得ることとなり、一躍人気モデルの仲間入り。発売当初からUSメイドにこだわり、現在でもその姿勢は貫かれている。

「996」
アメリカ生産を貫き通した
80年代の傑作。

続く第2弾として1985 年に「995」が登場し、その3年後に傑作と名高い「996」がリリースされる。ニューバランスが誇るソールテクノロジー“ENCAP エンキャップ”と“C-CAP シーキャップ”を搭載している点が最大のポイント。耐久性のあるPU素材に衝撃吸収性に優れたEVA素材のクッションを封入したミッドソール。そこにEVA素材を圧縮成形し、クッション性能の持久力を大幅にアップさせるシーキャップを組み合わせることで、革新的な安定性とクッショニングを実現し、ハイレベルな走行を可能に。当時、アメリカ産業が衰退の一途を辿っていたなか、最後まで国内生産を貫き通したことでも注目を集め、同作のヒットは今へと続く人気を決定付けるものとなった。

「M996」。複数の層から形成されたミッドソールが、革新的な安定性とクッショングを実現。

誕生30周年記念の復刻モデルでは、起毛感の強いスウェードの毛並みやメッシュの風合い。シンセティックレザーを採用したトップラインのライニングなども再現度高し。

大人用のデザインを忠実に再現したレアなキッズモデルをリユースマーケットで探すのもまた楽しい。

今回は発売当時、マニアを唸らせた復刻モデルをご覧いただく。起毛感の強いスウェードやメッシュの風合い。さらにカウンター周りのロゴやシンセティックレザーを採用したライニングなど、オリジンを忠実に再現した細部。なかでも出色の出来といえるのが、Nロゴを縫い付けたステッチワークだ。わざと角を丸く仕上げることで、当時の稚拙な技術を再現している。時を経てなお愛されるヘリテージデザイン、その魅力が凝縮された1足といえよう。

「997」
進化し続けるソールこそが
正統血脈の証明。

世の中のすべてが急激に変化していった90年代。そのファーストイヤーに現れたのが「997」だ。時勢を受けてか、現代の感覚でいえばクラシカルな印象を与える「996」からビジュアル面も大きく刷新。重厚なアッパーデザインに、シャープなトゥとボリューミィなミッドソールが織りなす表情が、新たな時代の訪れを感じさせる。また、シリーズで初めてシーキャップ×エンキャップ構造の一体成型ミッドソールユニットを採用。これは前年に同テクノロジーを初採用した「M1500」の影響を受けているがため。

「M997」。同シリーズで初めて、シーキャップ×エンキャップ構造の一体成型ミッドソールユニットを採用。

また、ヒールプラグに耐摩耗性に優れた“XAR−1000”カーボンを採用することで減りを緩和したアウトソールも、安定した走りを支えるランナーズファーストな設計。歩みを止めぬソールの進化からは、スタンダードシリーズの正統血脈であるということへの矜持が伺える。

「998」
当時最新鋭のクッショニング素材を
初採用。

ソールの進化に着目するならば、1993年に初めて“ABZORB アブソーブ”を搭載した「998」を忘れるべからず。アブゾーブとは、着地した際に足が受ける衝撃をほぼ100%吸収し、同時にそのエネルギーを足が地面を蹴り上げる際の反発弾性へと変換する当時最新鋭のクッショニング素材の名称。この試みは見事ハマり、「99X」シリーズの特色である安定性を更に引き出すことに成功した。

「M998」。本作では初めて“ABZORB アブソーブ”テクノロジーが用いられた。

一見すると、前作「997」にも酷似している「998」。あえて差異を指摘するならば、サイドパネルを外羽根のように縫い付け、曲線を意識した切り返しを多用している分、ハイテク感を強く打ち出している点であろうか。

「999」
90年代ハイテクスニーカー全盛期に
誕生。

94年〈Reebokリーボック〉が「INSTAPUMP FURY インスタポンプフューリー」を、翌年ナイキが「AIR MAX95 エア・マックス95」をローンチし、ハイテクスニーカーが市場を席巻していた1996年。ニューバランスも負けじと最新技術を投入した「999」をリリースする。派手なデザインやカラーリングで人々の足元を飾ったライバルに比べると目立たぬ存在ではあったが、スニーカー通の間では名品として知れ渡る。その理由はランシューの基礎となるソール部分。ハイテク全盛期という世相を反映したかのような厚みのあるミッドソールには、反発性と衝撃吸収性に特化した“アブゾーブ”を継承し、軽やかな履き心地を実現。

「M999」。当時は丸みのあるゆったりとしたシルエットと程よいハイテク感から“ミッドテク”とも呼ばれた。

その一方で、アッパーは高級感のあるスウェードをベースに、甲や履き口周りにメッシュを配置することで通気性を確保。甲の境目に配したアクセントカラーのパーツがメリハリを効かせるなど、定番的な要素を守り抜きながらも随所に進化をアピール。二重構造で立体感を演出した小ぶりな Nマークもまた同様。当時は、この丸みのあるゆったりとしたシルエットと程よいハイテク感から“ミッドテク”という呼称も存在した。

「990v5」
シティボーイから
ドラッグディーラーまで。

先に述べたように、「1000点満点中990点」という性能への確固たる自信から名付けられた「99X」シリーズ。前作で残すは1点となったはずが1998年に「990v2」が登場し、再び「990」にリターン。サドルとトゥに跨った補強パーツを大型化させたことで安定性を向上。同作で確立された初代とは異なるハイテク感溢れるデザインラインは、新生「99X」シリーズにおける新たなフォーマットとなり、以降4年ごとにアップデートを繰り返しつつ、その伝統は息づいている。

こちらは2019年にリリースされた最新作「M990v5」。前作「990v4」から、PUと“ACTIVA LITE アクティバライト”による“ENCAPエンキャップ”構造が採用され、サポート性、クッション性が向上。

ビジュアル面も前作に比べ、よりスマートかつスポーツティに進化。新旧「990」を並べるとその変化が一目瞭然。

シュータンには5代目を示す数字「v5」が記されている。

またここ日本において、シティボーイたちの足元における標準装備となったことから、クリーンなイメージを持たれる新生「990」。だがその一方で、アメリカ東海岸のドラッグディーラーたちも、非常に高額かつ快適な履き心地であるという理由から愛用。要はラグジュアリーカーと同じ感覚で受け止められ、その人気はすぐさまにストリートのヘッズらにも伝播。今ではアメリカを代表するヒップホップ集団「ASAP MOB」のメンバーの足元にもその姿が確認されている。このように時代に沿って進化し続けるアイコンは、モデル名に冠したversionの頭文字が示すように、様々な表情を見せながら更なる広がりを見せていく。

「992」
100周年記念モデルがニューバランスを
再発明する。

そしてブランド設立100周年を迎えた2006年。「991」の後継モデルにして100周年記念モデルという金看板を背負い、満を辞してリリースされたのが「992」。アップルコンピュータ―社の共同創立者であるスティーブ・ジョブズも愛用し、〈ISSEI MIYAKE イッセイミヤケ〉の黒のタートルネックと〈Levi’s リーバイス〉の「501」に並んで、彼のトレードマークとして認知されている。数多くの革新的製品を生み出し、世界を変えてきたカリスマが選んだ1足として、マスターピースに名を連ねる同作。近年のダッドシューズ人気が追い風となり、復刻を切望する声が多く上がるも、残念ながら長らくその願いは叶わずじまい…。
(→関連する記事はこちら

「M992GR」。ジョブズは実際には「991」も愛用していたというが、こちらの印象の方が強いのは言わずもがな。

992のグレーには「M992GR」と「M992GL」の2種類が存在する。この違いは2020年発売の復刻モデルか、2006年発売のオリジナルモデルか。こちらは復刻モデルであることが分かる。

ヒール部分では「USA」の文字が主張。

…だったが、そんな不遇な状況も2020年3月には好転。衝撃吸収性や反発弾性、耐久性に優れた“アブゾーブ SBS”を搭載したミッドソールなど、リリース当時のテクノロジーを再現して待望の復刻を遂げたのである。オリジナルカラーのグレーを纏った1stロットは、予約時点で即完売しプレミアム化。手に入らなかった人々も多くいたが、それ以上に歓喜の涙を流した人々の多かったこと。ヘリテージならではの風格を漂わせる名作がこれからも継続的に手に入る。この事実だけで、ニューバランス・アディクトたちは枕を高くして眠れるというもの。

在りし日のスティーブ・ジョブズ。足元には愛用の「992」が確認できる。

その躍進の秘密を求めて、
更なる名作・傑作をディギン。

以上、この【前編】では“地味な優等生”ことニューバランスが、どうして群雄割拠のスニーカー業界内で確固たる地位を獲得するに至ったのか。その躍進の秘密をプロダクツから読み解くべく、同ブランドにおける不朽のスタンダード「99X」シリーズを、歴史の流れに沿って紹介してきた。

続く【後編】においてもその姿勢は変わることなく、ニューバランスのフラッグシップともいえるあのモデルも交え、更なる傑作・名作モデルをディギンしていく。

【後編】に続く

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