FASHION

もう古着でしか⼿に⼊らない!2000年前後、ボクらを熱狂させた名作【モード編】 ディオールオム、ラフシモンズ、アレキサンダー・マックイーンほか

ファッションとは巡るもの。およそ20年と云われる流行潮流の周期。かつて隆盛を誇るも、時代のうねりの中に消えていったジャンルやアイテムが、世代交代による価値観の変化や周囲との差別化といった人々の需要に呼応するかのように再び浮上し、また新たなトレンドとして復権を遂げるーー。

今より約20年前の2000 年前後といえば、世に云うY2K。当時のファッションシーンを席巻していたのが“モード”の名作たちであった。研ぎ澄まされたシルエット、革新的意匠にブランドの哲学を宿したアイテムは、ファッションアディクトたちの憧憬として脳の海馬に深く刻み込まれることとなる。そして時計の針は進み、その多くは過去の遺産=アーカイブと称され、簡単には手に入らぬ希少な存在に。

そこで今回の『knowbrand magazine』では、かつて我らを熱狂させ、今や古着市場において揺るぎなき地位を確立したモードの名作たちを、往時の高揚感とともにお届けする。

もう古着でしか⼿に⼊らない名作
〈Dior HOMME ディオール オム〉
タブーを打ち破り、
価値観を塗り替える先鋭性。
「トレンチコート」
「BEEモチーフTシャツ」

さて、本稿ではメンズモードの名作を語っていくわけだが、その第一等としてハズすことのできないブランドが〈Dior Homme ディオール オム〉であることは間違いない。1946年創業の〈Christian Dior クリスチャン ディオール〉のメンズラインとして、2001-02AWシーズンに誕生したことはご存知の通り。初代クリエイティブディレクターを務めたのが、〈Yves Saint Laurent Rive Gauche イヴ・サンローラン リヴ・ゴーシュ〉のメンズデザインで辣腕を振るったエディ・スリマンその人。

当時のメンズウェアがゆったりとしたシルエットを主流としていたのに対し、“少年性”と“ロック”をテーマに、身体に沿う極端に細身のシルエットやシャープなテーラリングを打ち出したエディ。それまでのタブーを打ち破り、メンズファッションの価値観を塗り替え、瞬く間に2000年代のメンズのモードを象徴するブランドへと押し上げた。その影響力はあまりにも大きく、かの“モード界の重鎮”カール・ラガーフェルドが、エディの手掛けるディオール オムのスーツを着こなすために42kgもの減量を行った。という逸話が現在も語り継がれているほど。

ここで取り挙げるトレンチコートもまた、そんなエディの美学を色濃く反映した一着である。

エディの美学を宿した〈Dior Homme ディオール オム〉のトレンチコート。これぞ、2000年代モードの象徴である。

最大の魅力は、研ぎ澄まされたシルエット構築にある。その時代の空気を鋭敏にとらえ、音楽を筆頭にユースカルチャーと共鳴するコレクションを発信した彼らしく、コンパクトに設計された肩まわり、タイトな身幅、縦のラインを強調する着丈を組み合わせたバランス感は、まさに絶妙好辞ならぬ、絶妙好衣。さらに深みのある色合いの生地は独特の質感と表情をたたえ、エディらしいモードなエッセンスを感じさせてくれる。トレンチコート本来の重厚感を残しながらも、都会的で洗練された印象へと昇華してみせた。

控えめながら上品な輝きを放つ、繊細な刺繍のブランドネーム。

両胸に均等に配置されたガンパッチが男らしく、立ち襟姿はクラシック。無骨さの中にもシャープな印象を与える。

このエディがディレクションした2001-2002AWシーズンから2007年までの期間は、通称“エディ期”と呼ばれ、現在でもモードを愛するファンからの評価が高く、リユース市場でも同ブランドを象徴する特別なシーズンとして根強い人気を誇っている。特に2003 AW“LUSTER期”、2005 SS“THE END期”は伝説的コレクションとして名高い。

ちなみに、参考画像なしで見分け方を伝えるのも心苦しいが、注目すべきは品質表示タグ。数字+アルファベットで構成される品番の最初の数字が、西暦の下一桁(0〜9)、2文字目のアルファベットがシーズン(E=春夏、H=秋冬)を指す。エディ期は2001SS〜2007AWまでなので、「1E〜」から「7H〜」までのものを探せば良いという寸法だ。

そしてこのエディ期では、数々の名作アイテムを生み出すのみならず、源流となるクリスチャン ディオールの象徴的モチーフを、ディオール オムのデザインアプローチを介して落とし込むことで、さらなる認知アップにも成功している。「BEE(蜂)」モチーフはその一例。

受け継がれるアイコンをシンプルに落とし込んだ、「BEE」モチーフのVネックTシャツ。

腰元にさりげなくあしらわれたBEE刺繍。サイズこそ小さいが、一目でブランドを印象付けるアイコン。

今回ピックアップしたVネックTシャツ自体は、エディ期のアイテムでこそないが、BEEモチーフを継承する一着としてご覧いただきたい。細身のボディの腰付近に小さく刺繍されたBEEは、縫製職人たちが一針一針丁寧に仕上げる姿勢を、蜂が花から蜜を集める様子に重ね合わせたもの。そのデザインはシンプルの一言。

余計な装飾がないからこそ、シンプルなレイヤードを組み上げた際に存在感を際立ち、洗練されたモードスタイルが完成する。

シンプルなレイヤードなればこそ、ディオール オムらしい洗練されたモードスタイルが完成する。

2018年以降は、メンズ・ウィメンズともに〈Dior ディオール〉に統一されてコレクションを展開しているが、時代やラインの名称が変わろうと、BEEモチーフはブランドを象徴するアイコンとして愛され、創業者クリスチャン・ディオールが込めた想いは、変わらず受け継がれている。

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もう古着でしか⼿に⼊らない名作
〈HELMUT LANG
ヘルムート・ラング〉
洗練された表現で、
独自のミニマリズムを体現。
「ペイントデニム」
「クルーネックTシャツ」

ファッション文脈におけるモードとは“流行”を意味する。ゆえに各々のブランドが生み出すモードは、時代の象徴とも言い換えられる。前項のディオール オムが身体を際立たせるシルエットで、00年代という時代を映し出したのに対し、素材や加工による表現で90年代末期に独自の存在感を放ったのが、1979年にデザイナー自身の名を冠して設立された〈Helmut Lang ヘルムート・ラング〉である。

その根幹にあるのが“ミニマリズム”という思想だ。「最小限に洗練された表現で、最大限のパフォーマンスを得る」というこの考え方を、ファッションで提示した先駆者として評価され、シーンに大きな影響を与えたヘルムート・ラング。無駄を削ぎ落としたミニマルデザインを軸に、日常的なアイテムへ建築的、脱構築主義的な美学を落とし込むスタイルを特長とし、この「ペイントデニム」は数ある名作の中でも象徴的アイテムの1つとされる。

90年代モードを象徴する名作。〈Helmut Lang ヘルムート・ラング〉の「ペイントデニム」。

本来、ワークウェア=作業服として親しまれてきたデニムパンツだが、本モデルはウエスト、股上、ヒップが非常にタイト。要は作業向きではない洗練されたシルエットにペンキが付着するという偶発的な日常の事象を大胆なペイント加工で表現することにより、必要最低限までディテールを削ぎ落としつつデザインを濃縮した、モードなアートピースへと昇華。

その要となるペイント加工は、20世紀アメリカの現代アートを代表する抽象表現主義の巨匠、ジャクソン・ポロックのドリッピング・ペインティング作品から着想を得たとも云われ、ブランドを象徴するディテールとなった。

目を見張るような大胆なペイント加工。有名なのはホワイトだが、本個体のようなゴールドも存在する。

デザイナーであるヘルムート・ラングは1999年にプラダ傘下となった後もデザインを手掛けるも、2005年にブランドを離脱。ゆえに彼自身の思想が色濃く反映されている通称“本人期”のアイテムは、ブランドの美学を体現するアーカイブとして令和の今、さらに希少性を増している。

内タグには“PRODUCED IN”の表記。ブランドの転換期に生まれた本人期終盤のアーカイブだ。

本人期を示す“HELMUT LANG JEANS”刻印のトップボタン。プラダ傘下後は“HELMUT LANG NY.”へと変更。

また、このペイントデニムはその人気から後に復刻を果たすも、全体のシルエットがやや着易く調整されているため、往時のキレを求めるならば本人期の個体をディグするのが正解か。

続いてもう1点。90年代本人期の「クルーネックTシャツ」にもフォーカス。フロントにはロゴや装飾を一切置くことなく、背タグにのみブランド名を記した潔いデザイン。余計な要素を削ぎ落としているからこそ、ブランドが追求したミニマリズムの美学を感じさせる一着。

潔い無地デザインが魅惑的な「クルーネックTシャツ」。

背タグには“MADE IN JAPAN”の表記。本人期にリリースされた日本製アイテムに付く。

ここで注目したいのが背タグに記された“MADE IN JAPAN”の文字。本人期のアイテムではイタリア生産も散見されるが、日本製はやや意外に思える…が、その背景にあるのが日本の老舗メーカー〈GUNZE グンゼ〉の存在だ。当時、アンダーウェアなどのベーシックアイテムにおいてライセンス契約を結び、製造を担っていたのが実は同社。コットン100%のシンプルなボディには、日本のものづくりが誇る、確かな品質と着心地へのこだわりが。

一見なんの変哲もないTシャツに日本の技術を融合させることで、“日常のアイテムを再解釈し、新たな価値を創出する”。ブランドの美学はここにも間違いなく息づいている。

日常のアイテムを再解釈し、新たな価値を与える。これぞ、ヘルムート・ラングの美学。

そういえば、ヘルムート・ラングが現在、〈UNIQLO ユニクロ〉を有するファーストリテイリングの傘下となっているのは意外な事実。2022年に発表されたユニクロとのコラボジーンズで往年のファンからも評価を得たのも記憶に新しく、本稿におけるアーカイブとは別文脈のグッドレギュラーとして今後が期待される。

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もう古着でしか⼿に⼊らない名作
〈Alexander McQueen
アレキサンダー・マックイーン〉
退廃的な美しさとエレガンスの共存。
「スカルスカーフ」

あの頃の高揚感が蘇る“モノ語り”に上がるテンションのメーター。これでは最後まで走りきれないと、ブレーキを踏んで一旦の小休憩。

さて、我々を熱狂させたモードな名作は、なにもウェアだけではない。世界中のファッショニスタを魅了した〈Alexander McQueen アレキサンダー‧マックイーン〉の「スカルスカーフ」を覚えておいでか?

ブランド哲学を具現化した〈Alexander McQueen アレキサンダー・マックイーン〉の「スカルスカーフ」。

1992年、リー・アレキサンダー・マックイーンによりイギリスで設立された同ブランドは、卓越したテーラリング技術と革新的な表現を融合させ、美しさの中に狂気や退廃を感じさせる世界観が注目を集める。その根底には“強さと脆さ”“革新と伝統”など相反する2つの要素は隣り合わせにあるという発想があり、これを表現したコレクションのランウェイは時に議論を呼ぶほど、見る者の心を強く揺さぶるものであった。そんなアレキサンダー・マックイーンのクリエーションを象徴する存在を1つ挙げるとすれば、「スカル」モチーフの一択。

同モチーフは1996 AWコレクションにおいて、人間の“死すべき運命”や“生命の儚さ”の象徴として採用され、2003 SSコレクションで初めて「スカルスカーフ」として登場。大判の正方形とデザインは、バンダナから着想を得たという。

ブラックシルクのボディに、小ぶりなスカルを上下反転させながら総柄で配し、端にはブランドロゴがあしらわれている。ブランドを象徴するモチーフを上質なシルクへと落とし込み、退廃的な美しさとエレガンスが共存する、まさに“モード界の反逆児”らしい存在感溢れる一枚だ。

シンプルなルックに映える首元のアクセント。そこには大胆な存在感とモードな美しさが共存する。

ブランド設立10周年を記念した2004年のショーでは、時のトップモデルだったケイト・モスが、この美しくも退廃的な正方形のストールをドレスへと昇華したルックで登場。その着こなしが世界中のファッションアディクトらの注目を集め、その後、同アイテムはブランドを象徴するアイコンとして不動の地位を手に入れた。

余談ではあるが、ここ日本でも、X JAPANのYOSHIKIやTOSHI、B’zの稲葉浩志、そして“キムタク”こと木村拓哉など数々のスターが、ステージ映えする首元のアクセントとして着用。ゆえに往時は気恥ずかしくもあったが、今ならばその歴史を知る者も間違いなく同年代のご同輩。気負うことなく取り入れられるのではなかろうか。

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もう古着でしか⼿に⼊らない名作
〈RAF SIMONS ラフ・シモンズ〉
強烈なデザインインパクトに込めた
メッセージ。
「ダッドスニーカー」
「オーバーサイズボーダーニット」

ウェア以外のアイテムでもう1点。音楽やアート、ユースカルチャーから着想を得たデザインやコントラストを効かせた色使い、独特のプロポーションバランスで知られる〈RAF SIMONS ラフ・シモンズ〉。そのブランドのアイテムで、誰もが一度は見た覚えがあるであろう「ダッドスニーカー」がコレ。

近未来的なフォルムが魅⼒の〈RAF SIMONS ラフ・シモンズ〉の「ダッドスニーカー」。

ラフ・シモンズは1995年にデザイナー自身の名を冠してベルギーで設立。先述のように従来のメンズウェアの枠を超えた表現で、ファッションシーンに新たな価値観を提示した。そして、その革新的アプローチをスニーカーへと落とし込んだのが〈adidas アディダス〉とのコラボレーベル〈ADIDAS BY RAF SIMONS アディダス バイ ラフ・シモンズ〉である。

この「OZWEEGO オズウィーゴ 3」は同レーベルより2017SSに登場。スポーティーなレイヤー構造にシリコンパーツを組み合わせた漆黒のキャンバスアッパーと鮮烈な真紅のレザーパーツ&ソールの対比が、強烈なインパクトを与える。

インソールにはコラボレーベルの証として、両ブランドのロゴが並ぶ。

2013年から始まったこのレーベルは、従来のスニーカーにはない大胆ボリューム感と近未来的なフォルムが、ノームコアを背景とする白ローテク・ブームに飽き初めていた人々の注目を集め、後のダッドスニーカーブームの嚆矢となった。かようにスニーカーシーンに与えた影響は計り知れず、デザイナーズブランドとスポーツブランドの協業が広がった現在、その先駆けのひとつとしても評価されている。

そして、ラフ・シモンズを語るのであればコチラもお忘れなく。ブランドを象徴するビッグシルエットと、強烈すぎるメッセージ性を備えた「オーバーサイズボーダーニット」だ。本個体は当時のオリジナルではなく、ブランド設立25周年を記念して2021年に限定リリースされた「RAF SIMONS ARCHIVE REDUX」からの復刻モデル。

ラフ・シモンズを象徴するビッグシルエットとフォトグラフィックをあしらった「オーバーサイズボーダーニット」。

RAF SIMONS ARCHIVE REDUXは、ラフ・シモンズが過去に発表した象徴的なコレクションや名作を復刻したアーカイブプロジェクトである。ここで取り挙げるのは2002 SSコレクション「Woe onto those who spit on the fear generation… The wind will blow it back」だ。発表は2001年だが、テロリズムやカルト的な要素を取り入れて恐怖や不安に覆われた社会を表現したことにより、「その後の2002年に起こる、忌まわしきテロ事件“9.11”を予見していたのでは?」と話題に。このことから、通称“テロリスト期”と呼ばれている。

ブランド設立25周年を記念し、過去の名作を復刻したのが「RAF SIMONS ARCHIVE REDUX」。

そんな世界観を落とし込んだ本作は、大胆なオーバーサイズシルエットとドロップショルダーに、インターシャ編みのボーダー柄を組み合わせて構築。フロントには、ピーター・デ・ポッターによるフォトグラフィックとポエムのパッチをあしらい、コレクションに込められたメッセージを雄弁に語る。

時代を超えて受け継がれる、ラフ・シモンズの世界観。

アーカイブ視点のラフの転機となったのが、モードの世界を飛び出し、カニエ・ウェストやトラヴィス・スコットといったストリートセレブたちの着用。これを契機に一躍注目を集め、古着市場における相場は一気に高騰。このような背景をもとに過去の名作群がアーカイブとして復刻されるという事象は、ラフ・シモンズのクリエイティブが時代を超えてなお、価値を持ち続けている証でもある。

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もう古着でしか⼿に⼊らない名作
〈COMME des GARCONS HOMME
コムデ ギャルソン オム〉
「ジャケット」
「スプリットロゴ ロンT」

ここまでは海外モードブランドの名作群に触れ、そのクリエイティビティを紐解いてきたワケだが、やはり最後は日本のモードブランドで締めたい。となれば当然、〈COMME des GARÇONS コムデ ギャルソン〉に白羽の矢が立つ…のだが今回のテーマは“メンズモードの名作”。そこでギャルソンから派生した最も古いメンズライン、〈COMME des GARÇONS HOMME コムデ ギャルソン オム〉の出番と相なる。

今回は、1990〜2003 AWシーズンまで田中啓一氏がデザイナーを務め、ファッションアディクトにも愛される、通称“田中オム期”をフィーチャー。まずは定番のジャケットからご覧あれ。

田中オム期を象徴するクラシックな佇まい。〈COMME des GARÇONS HOMME コム デ ギャルソン オム〉の 「ジャケット」。

大学の工学部を卒業し、自動制御装置を製造する会社を経て、アパレルの世界に飛び込んだ異色の経歴の持ち主が、1978年にスタートした同ライン。そのコンセプトは“GOOD SENSE GOOD QUALITY”。上質な素材と確かな仕立てをベースに、ベーシックなメンズウェアに独自の解釈を加えたモノづくりを続けてきた。

本作も然り。クラシックな3ボタンジャケットをベースにグレンチェックというトラディショナルな柄を落とし込み、そこにリラックスしたボックスシルエットを融合することで、ベーシックでありながらも、田中オムらしい存在感を放つ⼀着へと仕上がっている。この秀逸なシルエットこそ田中オムの本領。

エンジニア経験から培われた工学的センスで、生地の組織を理論的に捉えてデザインに落とし込むことで生み出されるそのシルエットは、精緻なバランスで組み上げられた工業機械がそうであるように、インナーやボトムスといった他パーツとも自然と馴染んでくれる。これがファッションアディクトから支持される理由でもある。

黒地にゴールドのブランド刺繍を配した内タグ。ジャケット類では90年代前後に見られる仕様。

とはいえシルエットだけではない、シンプルをちょっとだけズラして心地よい違和感を生み出すデザイン性もまた、田中オムの魅力に他ならない。今回は、通称「ズラしロゴ」または「スプリットロゴ」と呼ばれるアイコニックなグラフィックを採用したロンTを例に挙げる。

「スプリットロゴ」を配したロンTは、シンプルなボディに遊びゴコロある表現が落とし込まれている。

ご覧のように“ブランドロゴを通常の位置から、ズラして配置する”。ただそれだけのシンプルなアプローチながら、リリースされた2002年当時、人々がギャルソンに抱いていたイメージに捉われない独自性を生み出し、のちに様々なアイテムで採用される定番モチーフに。2018年には〈Supreme シュプリーム〉とのコラボレーションにおいてもサンプリングされ、そのタイムレスな魅力を改めて世に示したのであった。

このタイプの背タグは通称「銀タグ」。田中オムのシグネチャーともいえるディテールだ。

コムデ ギャルソン オム。こと田中オム期の魅力を言葉にするならば、“普遍的要素の再構築”となるだろう。モードブランドだからといって奇抜さで目を引くのではなく、ワークやミリタリー、トラッド、ヴィンテージといったメンズウェアの普遍的要素を再構築し、シルエットや素材感、縫製仕様など細部にまで徹底してこだわりながらも、どこかリラックスした空気感を持ち合わせている。まさに、デザイナー本人が残した“大人の男が着て恥ずかしくない、でもどこかに必ず新しさがある服”という言葉の通り。

ベーシックな中に独自のひねりを加えた、田中オム期を象徴する2つのアイテム。

最後に、知っておく必要はないが、誰かに教えたら「へぇ〜」とは言ってもらえるトリビアを1つ。田中啓一氏は…実は、お笑いコンビ〈爆笑問題〉の田中裕二氏の実兄である。

(→〈コム デ ギャルソン〉に関する別の特集記事はこちら
(→〈コム デ ギャルソン〉の派生ブランドに関する特集記事①はこちら
(→〈コム デ ギャルソン〉の派生ブランドに関する特集記事②はこちら
(→〈コム デ ギャルソン〉の派生ブランドに関する特集記事③はこちら

(→〈シュプリーム〉の「コラボレーション」に関する特集記事はこちら

(→〈コムデギャルソン・オム〉の「ジャケット」をオンラインストアで探す)
(→〈コムデギャルソン・オム〉の「ロングTシャツ」をオンラインストアで探す)

思わぬトリビアで少し寄り道をしてしまったが、今回紐解いたアイテムたちが、決して単なる“過去の遺物”ではないことは、もう十分にお分かりいただけたはずだ。

数億光年という気の遠くなるような旅路を経て、今なお我々の夜空を力強く照らし出す星々の光。それと同じように、時代を創り上げたデザイナーたちの煌めく才能、唯一無二のファッション哲学、そして当時のモードシーンを包み込んでいたあの熱狂が織り込まれた“モードの名作”たちは、時を経てなお変わらず眩い輝きを放ち続けている。

時代が巡り、Y2Kのムードが新たなスタンダードとなった令和の世であっても、これらを手にした瞬間の、あの震えるような喜びと高揚感は決して変わらない。いや、むしろあの頃よりも胸に響くものがあるに違いない。そう自分に言い聞かせ、我々は今日も今日とて古着市場を巡るーー。

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