FASHION

ニューバランスは、ただ地味な優等生じゃないというハナシ。【後編】

飾り気がなく控えめなさまを指す“地味”というワード。ことファッション的シチュエーションにおいてはネガティブに用いられる場合が多い。だが、各ブランドが最新技術の投入でビジュアル的にも機能的にもアップデートされた新作を発表し続けるスニーカー業界の中にあって、普遍的なデザインと、そこに秘めたる良い意味での“地味さ”をもって世界中で愛されるブランドがある。それが〈NEW BALANCE ニューバランス〉である。

【前編】では、あらゆるコーディネートにもごく自然に馴染む高い汎用性と、一度でも履けば分かる極上の履き心地。その2つを備えながら品の良さをも漂わせる、この“地味な優等生”がいかにして、業界内で確固たる地位を獲得するに至ったのか。そのヒントを、同ブランドのスタンダードともいえる「99X」シリーズを中心に紹介しつつ探ったが、まだまだ忘れてはならない傑作モデルが存在する。続く【後編】は、その中でもレジェンド級のモデルからスタート。

「1300」
復刻のたびに進化する、
ハイエンドなレジェンド。

時代ごとの最新・最高の素材、技術、デザインを投入したハイエンドラインとして、ラインアップの頂点に君臨してきた「1000」シリーズ。まずは、その歴史の出発点である「1300」に触れなければ始まらない。その履き心地に魅了された、かのラルフ・ローレンが「雲の上を歩くよう」と絶賛し(真意の程は定かではないが)、“スニーカー界のロールスロイス”とも称される名作。【前編】でも触れた、「99X」シリーズ屈指の名作「996」と同じく1985年に登場。〈NEW BALANCE ニューバランス〉が誇るソールテクノロジー“ENCAP エンキャップ”דC-CAP シーキャップ”のコンビネーションを初採用し、〈vibram ビブラム〉社製アウトソールと組み合わせることで、革新的な安定性とクッショニングを実現し、ハイレベルな走行を可能に。ゆえにプライスも挑戦的な価格設定で話題となった「990」をも超える130ドル(当時の日本円で39,000円)。当時のランニングシューズの常識を覆す、まさにハイエンドと呼ぶに相応しき1足だった。

さて、そんな同作の知名度をさらに押し上げたのが、1995年から日本企画でスタートした復刻プロジェクト。1995年、初代から10年の時を経て登場した2代目では、Nロゴやステッチなどの細部に変更が加えられ、当初のコンセプト“オリジンの完全再現”には至らず、以降5年ごとの復刻が恒例化。この機会にせっかくなので、歴代モデルの変遷も記しておく。3代目(2000年)はエンキャップが改良され、圧縮EVAコアと硬度の高いPU素材を採用。シャープなシルエットでスッキリとした印象に。続く4代目(2005年)は、ステッチが初代同様のダブル仕様になり原点回帰。写真は5代目(2010年)。初代のみに使われていたビブラム社製アウトソールが満を辞して復活。エンキャップの改良によって履き心地も向上し、ファンを歓喜させた。

「M1300JP」。5代目として2010年にリリース。エンキャップの改良が進んで履き心地もアップデート。デザイン面においても、よりオリジナルの再現度が格段に上がったモデルとして注目を浴びた。

タンラベルの“N”を形作るバーがオリジナル同様14本に。さらに1300の“3”の文字も、オリジナルと同じフォントを採用。

初代のみに使われていたビブラム社製アウトソールもポイントだ。

2015年に発売された6代目も忠実に再現することに終始。例に漏れず抽選販売→即完売となり、進化著しいスニーカー業界にあって、変わらぬ人気の高さを証明してみせた。そして2020年4月、待望の7代目がリリース。シューレースの色もオリジナルと同色に変更し、タンラベルのロゴやサイドのNロゴも当時の仕様に肉薄、カーブした縫い目までも忠実に再現。さらに同作を象徴するメッシュとヌバックレザーのコンビもクオリティを高め、アメリカを代表する老舗タンナー〈HORWEEN ホーウィン〉社のヌバックレザーを採用。復刻のたびに再現度を高めつつも、更なる進化を目指すスタンスは不死鳥の如し。「もはやオリジンを超えたのでは?」と賞賛の声も多い。

「1500」
大統領も愛用!
シリーズ唯一のイギリスメイド。

当時のランニングシューズをリードする高い機能性を誇った「99X」シリーズや「1300」の登場により、ニューバランスの機能面における優位性は確固たるものとなっていた。だが「99X」シリーズが順調に進化を重ねていく一方で、フラッグシップたる「1000」シリーズは、前出の「1300」以降停滞。後継モデルの登場は1989年。昭和から平成へと移り変わる、時代の転換期に「1500」がデビューを果たすまで待つこととなる。

「1000」シリーズ中、現在では唯一のイギリス製ということでも知られる同作。アッパーにはレザーを使用し、グレーベースにネイビーを組み合わせた配色は、基本的にスティールブルーの単色で構成されていた既存のイメージから大きく変貌。さらにマルチカラーで一体成型された革新的なミッドソールは、立体的なエンキャップとヒール部分を上部に巻き上げる構造を採用。それまでのモデルと違いヒール部のプラスチック製スタビライザーを廃してなお、高いクッション性と安定性をキープ。そのハイパフォーマンスな履き心地を視覚的に主張するというデザインアプローチは、のちのハイテクブームを先取りしていたともいえる。

「M1500」。アッパーサイドには既存モデルに比べて、小型化されたNロゴが。ハイテク感のアピールとしては効果的に作用しているが、当時は受け入れがたいという声が噴出。

ちなみに【前編】では、アップルコンピュータ―社の共同創立者であるスティーブ・ジョブズと「992」を例に、ニューバランスが世界のトップたちに愛用されてきたという事実を記したが、第42代アメリカ合衆国大統領のビル・クリントンもその1人。彼が「1500」を履いてランニングする姿は度々報じられた。セレブ中のセレブ、プレジデントをも虜にする履き心地は、ロールスロイスを超え、もはや“エア・フォースワン”の域に到達したといっても過言ではない。

そんな同モデルだが、実はリリース当時に賛否両論を巻き起こしている。問題となったのが、アッパーサイドに刺繍されたNロゴ。“スモールN”と呼ばれるそれは、ソール同様にパフォーマンスの高さを視覚的に主張するのに有効なデザインアプローチとして、以降フラッグシップモデルに継承されるのだが、「Nロゴは大きくあるべき!」と主張する、日本の懐古派ファンからは忌避の対象に。これがのちにニューバランスジャパン主導のもと、次作「1400」がリリースされる要因のひとつとなったともいうから、世の中は何があるか分からない。

「1400」
アメリカ生まれ日本育ちの、
いわく付きモデル。

そもそも「1300」のソールを進化させた後継モデル「1400」は、80年代後半にサンプル段階までは完成していた。だが、当時の生産技術ではソールの量産化が困難だったため、泣く泣くお蔵入り。また製品化されなかったのにはもう1つ、「1300」から大きな進化が見られなかったことも大きな理由にあったというから、いかにニューバランスが「1000」シリーズにフラッグシップとしての重きを置いていたかが分かるというもの。その後は結局、開発が進んだ「1500」が1989年に先行して発売。この一連の流れは、スニーカーフリークの間ではよく知られた話。

で、当の「1400」はというと、後にニューバランスジャパンのスタッフが倉庫に眠っていたサンプルを発見。材料調達や企画を行ない1994年にリリース。デザイン面では「1300」の象徴である“ビッグN”を採用し、幅広甲高の日本人にもフィットするシルエットを遵守。機能面においては「1300」の技術を継承し、ステッチなど細部の作り込みもハイレベル。特に注目したいのが、履くうちに足を包み込み、極上のフィット感を生み出す“袋マッケイ製法”をアッパー内部の縫製に採用している点。これは同社の中でも一部のモデルにのみ用いられる高級仕様。

「M1400」。“袋マッケイ製法”が履くうちに足を包み込み、極上のフィット感を生み出す。前作「1500」の鬱憤を晴らすかのように“ビッグN”がアッパーサイドに鎮座。

かように日本市場に向けてローカライズされたことで、一般ユーザーからアスリートまで絶大な支持を集め、ニューバランスを代表するロングセラーとなった「1400」。だが当時をよく知る人によれば、「1度ボツになった企画をどうして製造するのか?」とアメリカのニューバランス本社は困惑を示したという。ゆえにアメリカ生産にもかかわらず長らくの間、展開は日本のみ。のちにアメリカ本国でも販売されるようになると、ファッションフリークを中心に認知を得るようになったが、2018年に残念ながら生産終了……。このドラマチックな背景も同モデルの人気に拍車をかける一因に。今や市場でも新品は入手困難。リセールマーケットで発見次第、確保を強くお勧めする。

「576」
オフロードランニングという
新ジャンルを開拓。

80年代後半に入ると、ニューバランスは未整地の野山などを舞台とした“オフロードランニング”という、新たなフィールドを開拓し始める。この流れを受け誕生したのが「500」シリーズであり、その代表選手が「574」。登場は1988年。舗装されていない地面でも高いグリップ性を発揮するラグアウトソールを装備した、前作「575」の特徴を基に、トゥ部分にゆとりを持たせたボリューミィーなフォルムで安定性を高めるなど、機能性がブラッシュアップされている。

「M576」のオリジナルカラー。 メッシュとナイロン素材のコンビネーションはスポーティな印象を与える。

デビュー時から、その優れた履き心地でランナーたちを魅了していた同作だが、翌1989年にはさらなるヒットへと繋がる、とある出来事が起こる。アメリカ全土で展開する大手スポーツショップにして、90年代のスニーカーブームの際に別注で名を馳せた「FOOT LOCKER フットロッカー」が、アッパー部分にスムースレザーを採用した別注モデルをリリースしたのだ。

「FOOT LOCKER フットロッカー」別注の「M576」。通称“チョコレートブラウン”のこのカラーは、HFこと藤原ヒロシも着用していた。

同作は、通称“チョコレートブラウン”と称される艶やかなレザーアッパーで包まれた高級然としたルックスで人々の心を掌握し、新規ファン獲得に成功。以降、通称“コードバン”などの名作モデルが続々と生まれ、その人気を確かなものへと変えていく。

日本企画カラーの「M576」。色味が馬革のコードバンに似ているということから、通称“コードバン”と呼ばれる。

この現象はここ日本でも同様。1990年にスチャダラパーが1stアルバム『スチャダラ大作戦』のジャケットで着用し、“ストリートのカリスマ”藤原ヒロシも雑誌連載で紹介すると、業界内でくすぶっていたブレイクの火種が一気にヒートアップ。90年代半ばには、『Boon』などのファッション誌でも頻繁にピックされるようになり、ハイテクブーム全盛の中で存在感をアピール。その結果、ストリートの定番として圧倒的なセールスを記録。あの時代に青春期を過ごした『knowbrand magazine』世代にとっても、思い出深い1足といえるのではないだろうか。

最上段の「M576」は、2013年登場の25周年モデル。「M1300」を彷彿とさせるカラーリングかつ英国製で話題に。

「574」
名作の機能と意匠を引き継ぎつつ、
リーズナブルに。

“トラック以外でのランニング”という新たな可能性を示し、さらにファッションアイテムとしても市民権を得たエポックメイキングな1足「576」。その圧倒的人気は、デザインや機能性を踏襲しつつ、リーズナブルプライスを実現させた兄弟モデルを世に生み出す。その名は「574」。誕生は1999年とされているが、公式的にはニューバランスらしく“グレー”。ここまでで紹介したモデルはどれもアメリカやイギリスで製造され、職人的クリエイションが発揮されている点が魅力だったが、この「574」では製造背景をアジア圏に移し、コストを抑えることに成功。

日本市場でも不動の人気を確保した「ML574」。アジア圏で製造することによってコストを抑えながらも、ルックスはほぼ「576」。

とはいえ「576」と比較しても、フォルムに若干の差異があるのみでデザイン面ではほぼ同一。さらにカラーリングもニューバランスを象徴するグレーを中心に展開。こうして上位モデルの優れたDNAを受け継ぎながら、ファッションアイテムとしての汎用性を高めたことによって、様々なブランドやショップが別注モデルを作り出す際のプラットフォームとしても定番化。兄の「576」と同様に、日本市場でのファン拡大に貢献し、不動の人気を獲得していったのである。

「770」
知る人ぞ知る、
アイルランドメイドのマイナー作。

【前・後編】を通して、すっかりニューバランスの虜になったからには、「M1300」や「ML574」といったモデル名の、数字の前につくアルファベットの意味も知っておきたい。代表例を挙げると、M:メンズ、ML:メンズライフスタイル、W:ウィメンズ、U:ユニセックスなどがあり、これはそのモデルのカテゴリーを示す。またMはアメリカ製やイギリス製のモデルにも用いられ、ハイエンドの証明ともなっている。数字の後ろのアルファベットもまた然り。B:ブラック、L:レザーなど素材や色を意味する場合が多いが、JP:日本企画やJC:〈J・CREW ジェイ・クルー〉コラボという場合もありケース・バイ・ケース。まぁ、覚えて損はない豆知識。

ラストは、流通数も少ないレアモデルを紹介してダメ押しとする。1986年リリースの「M770」である。ニューバランスの生産国といえばアメリカとイギリスが有名だが、同作は珍しいアイルランド製。長年の間、ラインアップから姿を消していたが2016年にイギリス製で復活。この生産国の変遷も、当地の政治的問題に根があると推察するに興味深く、話のタネにもってこい。

「M770」。写真は2016年に復刻されたイギリス製。その出自もあってか、どことなく品の良さを感じさせる。

正直デザインに特筆点はなく、機能面を語るにも、プラスチック製スタビライザーではなく、ヒールのレザーパーツを2重にすることでクッション性と安定性を両立したという点のみ。といっても、そこは流石のニューバランス。オリジンの佇まいを残しつつ、かの地のクラフトマンシップをも感じさせる仕上がりとなっており、プロダクツとしての完成度は高いといえる。

圧倒的に“地味”。
だからこそ良いのがニューバランス。

ここまでご覧頂いて分かるように、シューズとしての機能性は非常に高く、事実、ランナーの愛用者も多い。一方で、グレーをメインカラーとした落ち着きのあるデザインは、日々のコーディネートに取り入れやすく、なおかつ優れた機能性はファッショユースでも快適な足元を約束する。しかしながら序文でも述べたように、そのラインアップは圧倒的に“地味”だ。
』だが、いや、だからこそ良いのだ。ニューバランスに我々が求めるのは、派手さではない。代わり映えのしない毎日の中で寄り添い、昨日よりも今日、今日よりも明日。そうやって少しずつ進化を繰り返しながら、足元を快適にする“普通”という名の贅沢。心地良くも“新たなバランス感覚”は、すでに我々の中に深く根付いているのである。

【前編】はこちら

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