FASHION
The Heritage of Knitwear.

ケーブル編み・カウチン・フェアアイル…伝統的ニットウェアに編み込まれた「メッセージ」を読み解く。

私たちが冬の到来を感じるのは、単に気温の低下に気づくからだけではない。寒さをしのぐために纏うアイテムからも、我々は季節の移ろいを感じ取っている。 そのなかでも「ニットウェア」は、最も冬らしさを感じることのできるアイテムなのではないだろうか。

そもそも「ニット」とは、1本の糸から連続したループを作り、繋げ合わせることで作り上げられた生地のこと。そうして編まれたニットウェアには多種多様なデザインがあり、編み目の密度であるゲージが変わるだけでも、その印象は大きく変わる。

細い糸で均一に編み込まれた「ハイゲージ」のニットウェアは洗練された印象になる。一方で、太めの糸でざっくりと編まれた「ローゲージ」のニットウェアの佇まいからは不思議と温もりが感じられる。

それは、私たちが伝統的なローゲージのニットウェアの図柄に編み込まれた「願い」や「想い」といった「メッセージ」を、無意識のうちに感じ取っているからなのかもしれない。

今回の『knowbrand magazine』では、ニットウェアの中でもより伝統色の強いアイテムに焦点を絞り、そのデザインとともに編み込まれたメッセージを読み解いてみようと思う。

ニットの歴史と「手編み」の衰退、
そして手編み模様の発展。

セーターやカーディガンなどのニットウェアとは、ご承知の通り「編み物」だ。当然その歴史は「手編み」から始まる。

「手編み」の起源については諸説あるが、確認されている最古の編み物は3世紀のものだという。その後、古代の商人たちによりヨーロッパ各地へ広がり、徐々に「手編み」製品は産業として発展していったという。

しかし16世紀後半に「足踏式編み機」が発明されたのを機に、産業革命を経て大量生産が可能な「機械編み」が一般化。それと同時に産業としての「手編み」製品の生産量は一気に減少していった。

その工程上、元々マスプロダクトとはなりえない手編み。機械編みの製品が市場に出回るにつれて、家庭内でも家族や近しい人のためにニットを手編みする人々も徐々に少なくなってゆく。

だがその一方で伝統的製法を頑なに守り続けた人々たちにより、手編みのニットウェアはそれぞれの地方で独自の進化を遂げ、様々な「メッセージ」を持った編み模様を生み出してゆくことになる。

伝統的な手法でメッセージを
編み込まれたフィッシャーマンズセーター。

伝統的な手編みの代表的アイテムといえるのが「フィッシャーマンズセーター」。

今回のテーマである「ニットウェアに編み込まれたメッセージ」を語る上でも、このフィッシャーマンズセーターは欠かせない存在だ。

「フィッシャーマンズセーター」とは、その名の通り漁師達の仕事着を起源とするニットウェアの総称。地域によっては「アランセーター」「ガンジーセーター」という呼び名を持つこともあるが、ともに海に囲まれた島々で誕生したという共通点をもつ。

漁のために過酷な荒海に船を出すフィッシャーマンの夫や息子、恋人の男たち。彼らを寒さや冷たい海水から守るために、島の女性たちが編み始めたものが、フィッシャーマンズセーターのルーツといわれている。

フィッシャーマンズセーターの特徴といえば、独特な模様が編み込まれたニッティングパターンだろう。

このパターンは単にデザインとして美しいだけでなく、それぞれの模様には意味あるという。つまりその模様ひとつひとつに、大切な人のためにセーターを編んだ女性たちのメッセージが込められているのだ。

アイルランドの老舗ニットブランドKerry Woollen Millsと、
そのニッティングパターン。

伝統的なフィッシャーマンズセーターのメーカーとして外せないのは、140年以上の歴史を持つアイルランドの老舗ニットウェアブランド〈Kerry Woollen Mills ケリーウーレンミルズ〉だ。

ニットに使われる羊毛は、化学肥料を使っていない有機牧場で飼育された羊から採れるピュアウールのみ。羊毛本来の色を生かすため、染色も環境に配した最小限の処理で済ませており、淡い色とナチュラルな風合いがその特徴だ。

それでは本題のニッティングパターンに込められたメッセージを読み解くとしよう。

ハニカム(蜂の巣)柄
蜜を集めるために働き子孫を繁栄させる蜂のように、勤勉な仕事への賛美を表す。さらに、漁に欠かせない網を模しているという柄という説もある。

ダイヤモンド柄の中に、バスケット柄が組み合わされた柄
ダイヤモンド柄は海や陸から得られる富や財宝、成功の象徴であり、バスケット柄は魚でいっぱいになった漁師のかごを表現、大漁を願う意味がある。

ともに繁栄や富を願うとともに、働くことの素晴らしさを称える柄であることがわかる。

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伝統的なパターンを現代に伝える
Guernsey Woollensのニット。

イギリスとフランスの間に浮かぶチャンネル諸島のガンジー島で1976年に創業した〈Guernsey Woollens ガンジーウーレンズ〉も素晴らしいフィッシャーマンズセーターを編み出している。

熟練の職人による製法はそのままに、伝統的なニッティングパターンやディテールを現代的なシルエットに落し込んでいるのが特徴のニットメーカーだ。

「ケーブル編み」といえば、誰しも一度は聞き覚えがあるだろう。当然そこにもメッセージは込められている。

ケーブル(縄)柄
漁師たちが使う縄=命綱を表わし、大漁や安全祈願の意味があるとされる。

トリニティステッチ
島を荒波から守るための石垣や、命を守る砦の象徴。船乗り達を守る願いが込められている。

周りを海に囲まれた島で生まれたニットウェアだけあって、こちらはより海や漁に関係した編み模様だということがわかる。

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現在でも手編みにこだわり、ニット1枚に
90時間をかけて編み上げるというInverallan。

フィッシャーマンズセーターを語る上で、忘れてはいけないブランドが〈Inverallan インバーアラン〉だろう 伝統的な製法を守った手編みによるのニットウェアを作り続けることで、フィッシャーマンズセーターの価値を世界に知らしめたハンドニットメーカーだ。

インバーアランのニットウェアは、防水性に優れた未脱脂のアラン糸を太く撚りあわせ、1枚のために熟練したニッターが約90時間を費やし、25,000ステッチ以上を施すことでようやく完成する。糸の調達から含めると、出荷されるまでなんと6カ月もかかるというから驚きだ。品質保証として全ての製品にはニッターのサインがつけられているという点においても、インバーアランが手編みであるということは証明されている。

インバーアランの凄さはそれだけではない。編み手の癖や個性の非常に出やすい「手編み」にこだわっていながら、一枚一枚のシルエットやサイズ感などの個体差をできる限り抑えている点だ。これはまさに職人であるニッターの腕と、ブランドとしての妥協なき品質管理の賜物といえよう。

そのインバーアランのニットウェアに編み込まれている柄は、もっともベーシックとも言えるケーブル柄が多い。上質な素材を使って職人が編み上げたハンドニットだけに高価なものではあるが、流行に左右されることなく様々な着こなしにしっくりと馴染む、まさに一生もののニットウェアといえよう。

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海難事故を防ぐ「お守り」としての
意味も持つフィッシャーマンズセーター。

フィッシャーマンズセーターに編み込む模様のデザインや織り方・配置や組み合わせは、家々によって異なっており、母親から娘へと継承されていたといわれている。

その模様には、愛する人が不運にも荒波に飲まれてしまい、変わり果てた姿で岸に打ち上げられたとしても、セーターの柄からその持ち主を判別できるという機能もあったという。

だが、織り手の側に思いをはせると、海難事故を防ぐお守りとして、無事を祈りながら一針ずつ編み進めて行ったことは想像に難くない。もしたとえ帰らぬ人となっても、海に生きた男たちを最期の時まで温かく包み込んだフィッシャーマンズセーターは、女性たちの愛そのもののように思える。

極太の糸でニットに
「神話」を宿らせたカウチンセーター。

手編みセーターの柄について語る際には、神話や物語のモチーフが編み込まれた「カウチンセーター」も見逃すことはできないだろう。

カウチンセーターは、カナダのバンクーバー島に住むファーストネーションズ(=先住民)である「カウチン族」が住むカウチン・バレーで誕生した。もともとは19世紀初頭にスコットランド人からカウチン族に編み物の技術が伝えられたものだが、この地において独自の進化を遂げる。

狩猟民族であるカウチン族にとって「自然」、そしてそれにまつわる「神話」は、生活の一部。おのずとデザインモチーフとして、セーターの柄に編み込まれるようになったのだ。

kanataのカウチンに編み込まれた
自然への敬意と憧れ。

カウチンセーターとして日本人に馴染みが深いブランドといえば〈kanata カナタ〉かもしれない。カウチン族の言葉で「村」を意味するブランド名の通り、伝統的な製法を守り、現在に至るまでハンドメイドされている。

そのカナタのセーターから、そこに編み込まれたカウチン族たちの神話に想いを馳せてみよう。

サンダーバード(雷鳥)柄
サンダーバードは、鷲の姿をした雷の精であり、神の鳥。自由自在に雷を落とすことができ、獲物も雷で仕留めるというから、まさに神話のモチーフそのものだ。高貴で全能な空と超自然界の支配者であり、神秘的、強いスピリット、リーダーシップの象徴といえる。

雪の結晶柄
夏は比較的暖かい一方、冬は長く雪が降り続くこともあるカウチン・バレー。自然への畏敬の念を込めて雪柄が編まれたことは想像に難くない。

メイプル柄
国旗にもなっているほど、カナダを代表する樹木であるメイプル(カエデ)。木材となるとともに、先住民にとって冬の間はメイプルシロップは貴重な栄養源であったことから、神聖な樹木であったことが考えられる。 さらにカウチン柄には、他にも様々な柄が存在する。

シカ柄
猟で得たもの。生きるための食糧への感謝の表れと思われる。

クマ柄
自然の中で力強く生きるクマは、雇い主の意味もあるという。

シャチ柄
海の王様であるシャチへ敬意を払ったものと思われる。

もみの木柄
年中緑が続くもみの木。暮らしに役立つ木材への感謝。

ワタリガラス
超自然的能力を持つものであり、未来を運ぶメッセンジャー。


波模様で世界がひとつに繋がる環を表している。

製作者の様々な思いが編み込まれたカウチンセーターの柄。これらの意味を参考にしながら選ぶことで、手に入れてからもより愛着が湧くのは間違いないだろう。

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極太の毛糸で編みこまれた
カウチンセーターには、ロマンが宿っている。

もともと狩猟の際の作業着として用いるために、太い毛糸を手で紡ぎ、厚地で丈夫に編まれたカウチンセーター。

その佇まいが我々を魅了してやまないのは、撥水性と防寒性を兼ね備えた機能美に加えて、「神話」というメッセージが編み込まれているからかもしれない。衣服に神話が描かれているのは、世界的にも極めて珍しいことだという。

神話が宿るニットウェア。ファッションに造詣の深い方であれば、ここに「ロマン」を感じ取ってもらえるのではと思う。

神話の世界に想いを馳せながらカウチンセーターを纏うことで、冬の生活はより豊かなものになるに違いない。

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天然の草木で染められた
優しい色合いのフェアアイルセーター。

そして英国スコットランドのシェットランド諸島で生まれたニットが、様々な色で幾何学模様が織り込まれた「フェアアイルセーター」だ。

この地に生息する羊から取れるシェットランドウールは古くからその品質の良さで知られており、この諸島の中に「羊の島」という名のつけられたフェア島(Fair isle=フェアアイル)も位置している。

フェアアイルセーターの特徴は、幾段にもわたり織り込まれた幾何学模様。これはグレートブリテン島とスカンディナヴィア半島の間に位置するシェットランド諸島の歴史的背景から、ケルト文化(ブリティッシュ柄)と北欧文化(ノルウェージャン柄)という異文化が混在され生まれたともいわれている。

この「フェアアイル柄」もまた、フィッシャーマンズニット同様に各一族によって編み方や模様の種類は微妙に異なっていたともいわれており、かつては家紋のような役割を果たしていたという説もある。

このフェアアイルセーターの代表的なブランドが、シェットランド諸島最古のブランド〈JAMIESON’S ジャミーソンズ〉だ。

編み手の減少により、手編みから機械編みに移行してはいるものの、その原料となるウールの産地とフェアアイルセーターの特徴でもある色の出し方については、いまなおこだわり続けている。

現地で調達された良質なシェットランドウール100%にこだわっていること。 その色はシェットランド諸島の伝統に従い、天然の「草木染め」によるものであること。

天然素材で染め上げられた地元産のウールを使い、織り込まれた伝統的な柄のジャミーソンズのフェアアイルセーターに袖を通すことは、いわばシェットランド諸島の伝統という「誇り」を纏うことでもあるように思う。

JAMIESON’Sの一覧を見る

デンマークニットの
機能的なディテールを受け継いだ
Andersen-Andersen。

最後に、伝統を受け継ぎながら現代的な製法とディテールを取り入れている、新興ブランドにもフォーカスしてみよう。

海洋国家ゆえ、ニット産業が盛んであったデンマークの地で生まれた〈Andersen-Andersen アンデルセン アンデルセン〉。

後継者不足から衰退傾向にあるデンマークの伝統産業、ニットの技術を未来に継承すべく、アンデルセン夫妻が伝統的なニットの型や素材を研究した末、2009年に立ち上げたブランドだ。

上質のメリノウールを使い、小さな家族経営の工場で職人たちの手によりしっかりと編まれたニットは型崩れしにくく、毛玉もつきにくい仕上がりに。

漁師やハンターの着用していたデザインに影響を受けたというこのブランドのニットには、下記のような機能的にも優れた特徴がある。

前後対称のデザイン
危険と隣り合わせの海の上でも、漁師達が前後を気にすることなく着ることができるようにという配慮によるもの。フィッシャーマンズセーターの中でもガンジーセーターの伝統的な製法を取り入れられている。

指が通せる袖口のデザイン
袖口は親指を通すことができる仕様。普段は折り返して着用し、寒さが厳しい時は伸ばして、指を通せば簡易的なハンドウォーマーとなる。こういった実用的なギミックをさりげなく配するあたりに、ブランドの心意気が垣間見られる。

これまで紹介してきたような編み地とは異なるものの、このブランドが編み出すニットウェアのディーテールそのものが「着る者への思いやり」というメッセージなのではないだろうか。

Andersen-Andersenの一覧を見る

これまでニットウェアに込められてきたさまざまな「メッセージ」を読み解いてきたが、つまるところそれは編み手が着るものに対して込めてきた「想い」に他ならないように思う。

単なるファッションやトレンドとしてニットウェアを消費してゆくのではなく、そのものに込められたメッセージを受け取り理解しながら大切に着続けることで、そのニットは本当の意味で「似合う」ものになっていくのではないだろうか。

ひと針ずつ想いを込めながら編み上げられたニットウェアは美しい。あなたにも、この冬そんな生涯の一着と呼べるニットウェアに出会って欲しい。

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