CULTURE
Masterpieces of shirts

主役で脇役。変幻自在のシャツの名品たち。

Tシャツの上に洗いざらしのシャツ。そんなコーディネートが心地いい季節の到来である。

だがそもそもシャツは、ヨーロッパにおける正統な服装史の中では、あくまで肌着とされてきたという。したがってシャツは素肌の上に直接着るものであり、シャツ一枚になることは本来の礼節からすれば、下着でいることも同然であったのだ。

ところが現代のカジュアルファッションという文脈の中では、シャツは揺るぎない市民権を得ている。
むしろ日々のコーディネートにおいて、主役にも脇役にもなり、その変幻自在の存在感は際立っているとさえいえる。

今回の『knowbrand magazine』では、そんな万能アイテムともいえるシャツにズームしてみる。様々なデザインの名品の中にアナタ好みが見つかるかもしれない。

必要十分な本家ボタンダウンシャツ。

あくまでカジュアルスタイルとしてのシャツを想定したときに、絶対に手にしておくべくアイテムが「ボタンダウンシャツ」である。ハーバード大学をはじめとしたアメリカ東部の伝統校のエリートたちによる「アイビースタイル」のマストアイテムのひとつだ。(→関連する記事はこちら

1896年の誕生以来120年以上にわたり、仕様をほぼ変えずにつくり続けられている「ポロカラーシャツ」

ボタンダウンシャツの特徴は、襟先につくボタン。このディテールは馬に騎乗したプレイヤーが、ボールをスティックでゴールに入れる競技「ポロ」のユニフォームに由来する。馬を走らせたときに襟が風でめくれ競技の邪魔にならないよう襟先をボタンでとめていたのだ。この襟先のボタンを通常のシャツに取り入れたのが老舗トラッドブランド〈Brooks Brothers ブルックス・ブラザーズ〉である。

ブルックス・ブラザーズではボタンダウンシャツのことを現在でも「ポロカラーシャツ」と呼んでいるのは、本家本元ならではの誇りのあらわれであろう。

『華麗なるギャッツビー』で知られるアメリカの小説家F・スコット・フィッツジェラルドや ポップアート界の巨匠アンディ・ウォホールにも愛された

ところでポロカラーシャツは、まずはぜひとも第1ボタンを外してシンプルに着こなしてほしい。襟が立つとともに美しいロールを描き、立体感が生まれるからだ。それだけでコーディネートに爽やかな印象を添えてくれる。このシャツさえあればまずは必要十分なのだときっと納得できるはすだ。

比類なきクオリティの間違いなき一枚。

ボタンダウンシャツというジャンルでブルックス・ブラザーズが名門であることに間違いはない。だが、かつて同社のカスタムシャツ部門の生産を一手に担っていた経歴をもつ実力派ブランドがある。

1961年アメリカで創業された〈INDIVIDUALIZED SHIRTS インディビジュアライズドシャツ〉だ。

インディビジュアライズド(=たった一人のためだけに存在する)というネーミング通り、カスタムメイドシャツの分野では現在でも全米トップシェアを誇る高級シャツテーラーである。

そしてカスタメイドシャツで培ってきた技術と伝統は、ファクトリーメイドのシャツにも注がれている。台襟の高さやボタン位置、縫製など細部に至るまでこだわり抜かれており、大量生産の域をはるかに超えているといわれている。

創業以来変わらぬ製法でいまもMADE IN U.S.A.にこだわり、一枚一枚丁寧に仕立て上げられている

比類なきクオリティのインディビジュアライズドシャツは、シンプルながらも上質なものに身を包みたい、そう願うオトナにこそふさわしい逸品である。特にピッチが細いブルーストライプは、カジュアルな佇まいの中に品のよさも醸しだせる。そのままでも、ジャケットを羽織っても様になる間違いのない一枚だ。

知的さ漂うストライプシャツは一枚あると重宝する

エッジの効いたデザインが売りのブランドではない。だからこそ卓越した技術と選び抜かれた生地でつくりあげられ、着込み、洗うほどに味わいは増していく。つまりはエイジングを楽しみながらともに年月を重ねていくことこそが、インディビジュアライズドシャツとオトナの我々との正しい付き合い方なのだ。

見た目よし、着心地よしのバンドカラー。

近年シャツのスタンダードとなった通称「バンドカラーシャツ」。すでにワードローブに加えている方も多いかもしれない。

バンドカラーシャツは、ネック部分に帯状の布の「バンド」がぐるりと付けられていることに由来し、寒さをしのいだり、襟元を補強したりするために1300年頃のフランスで考案されたともいわれている。

特徴的な襟元だけに着こなしが難しそうにも見えるが、その実一枚でさらりと着ても様になり、シャツ本来の凛とした雰囲気は残しつつ、程よい抜け感でカジュアルダウンしてくれる。大人のリラックススタイルにはうってつけといえるアイテムなのだ。

2011年の誕生以来少しルーズなシルエットとミニマムでオーセンティックなデザインで高い支持を得る〈COMOLI コモリ〉。デザイナー小森啓二郎氏によるこのブランドでもバンドカラーシャツは毎シーズン展開されており、代表アイテムのひとつとなっている。

〈COMOLI〉の「バンドカラーシャツ」

前身頃の裾はラウンド、後ろ身頃は直線的な独特なデザイン

シンプルなデザインながら、ロング丈をいかしフロントボタンを全開にして羽織れば、主役級の存在感を放つ。各部に余裕を持せたやや緩めのフィット感に加え、細番手の糸で織り上げられた生地による優しく包まれているかのような肌触り。見た目よし、着心地よし。まさにバンドカラーシャツの名品である。

洒落っ気あふれるフレンチワークシャツ。

フランスを代表する老舗ワークウェアブランド〈DANTON ダントン〉。創業は1930年、カバーオールやブルゾン、キッチンウェアなどを製造し、かつてはフランス国鉄の制服や作業服も納入していたことからも、その品質は折り紙付きだ。

現在では、ワークウェアならではの質実剛健さの中にフレンチエッセンス漂うデザインで幅広い世代で人気を誇っている。 「ショールカラープルオーバー」は、そんなダントンの定番シャツである。

〈DANTON〉の定番「ショールカラープルオーバー」

クラシカルなショールカラーに左胸のロゴがアクセント

サイドに配置された程よい大きさのポケットは、非常に使い勝手も良い

プルオーバー型で着丈の短いボックスシルエット、大きめのボタンや通常のドレスシャツに比べてやや厚い生地など、そこかしこにしっかりとワークテイストは残っている。タフで武骨なディテールを採用しつつも洒落っ気がある仕上がりになるのは、フレンチブランドならではの妙であろう。

異質な存在感を放つウエスタンシャツ。

汚れやダメージを気にせず長年愛用できるという点で、シャツの中でもひときわ異質な存在感を放つのがデニムの「ウエスタンシャツ」だ。

なかなかクセのあるアイテムであり、スナップボタンやノコギリの歯(ソートゥース)に似たポケットなどの印象が強い。だがそれらはただの飾りではない。二枚仕立てのショルダーヨークは、ロープをけるなど肩を酷使するカウボーイにとっては心強い。スナップボタンは容易に留められ、牛にひっかかった時には瞬時に外れて事故防止にもつながる。ノコギリ型のフラップポケットはペンや小物を取り出しやすく、落としにくい。すべてが実用性に満ちたつくりをしているのだ。

二枚仕立てのヨーク、ソートゥース型ポケット、スナップボタンなどウエスタンシャツの代表的ディテールが満載

実はこの特徴的なデザインを生み出したのは、自身もカウボーイであったジャック・ウェイルという人物。氏が1946年に創業したブランド〈Rockmount Ranch Wear ロックマウント ランチウェア〉こそが、ウエスタンシャツを完成させたのだ。

「ウエスタンシャツ」の原点にして完成形〈Rockmount Ranch Wear〉

エルヴィス・プレスリーやボブ・デュラン、エリック・クラプトンといったミュージック界の巨匠から、ポール・ニューマンやロバート・レッドフォードといった銀幕スターにも愛されてきたという事実だけでもロックマウントのウエスタンシャツがファションといういかに名品かわかるだろう。

そして、ここ日本にもウエスタンシャツがアイコンになっているというブランドがある。

デザイナー後藤豊氏が2008年に立ち上げた〈REMI RELIEFレミ レリーフ〉だ。古き良き時代のアメリカンベーシックをビンテージ顔負けのエイジング加工技術を駆使し、現代的に具現化することで、高く評価されているブランドだ。

なかでも設立当初のラインアップからつくりつづけられているデニムウエスタンシャツは、まさに名品にしてブランドの象徴といえるだろう。

〈REMI RELIEF〉を代表するデニムウエスタンシャツ

後藤氏自身もかつて在籍していたリーバイスの過去の傑作ウエスタンシャツのディテールを落とし込んだというだけあって、ワークウェアならではのタフなつくりはそのまま。だが、ただの焼き直しではなくビンテージ然としたルックスながらシルエットはあくまで現代風にアレンジされ、日常着としてより着こなしやすくリデザインされている。

そして特筆すべきは、熟練の職人たちによる丹念な「擦り」によって生み出されるそのエイジング加工。

双方を引き立て合うエイジング加工されたデニムとスタッズワーク

長年着古したかのような深みのある絶妙な色落ち具合は脱帽ものだ。このエイジング加工の技術力は、レミレリーフのアイデンティそのものといっても過言ではないであろう。

シャツというアイテムは、日々スーツで仕事に臨む者にとってはいわば必需品である。半面その存在があまりにもあたり前すぎるがゆえに、ただの消耗品となってしまい、一枚のシャツへの「こだわり」という意識は薄れているかもしれない。

だが、こだわりの装いは一日をより豊かなものにする力をもってはいないだろうか。

様々な重責から解放され、カジュアルな装いに身を包み過ごす休日。そこにこだわり抜かれた一枚のシャツを。自身の装いの変化は、きっといつもとはひと味違うこの上なく素敵なオフを演出してくれるはずだ。

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