FASHION

“キング・オブ・キャップ”ニューエラが切り開く新時代

本来ならば、世界的なスポーツの祭典がここ日本で開催されていたはずの2020年夏。この記念すべきメモリアルイヤーに100周年を迎えるブランドがあるという。その名は〈NEW ERA ニューエラ〉。一世紀にも及ぶ長い歴史のなかで、膨大な数のヘッドウェアを開発し、“ベースボールキャップのパイオニア”という確固たる地位を築き上げた同ブランド。

だがその多彩なラインアップも、素人目には違いを見分けるのが困難。そこで本稿ではブランドの歴史から、定番モデルの違いまでを分かりやすくナビゲート。元々はプロスポーツ用だったニューエラのキャップが、なぜストリートカルチャーの象徴的アイテムになったのか。100年の歴史を紐解きながら、その理由と魅力を探る。

ニューヨーク生まれベースボール育ち
メジャーが認めたクオリティ。

〈NEW ERA ニューエラ〉の創設は1920年。まずはその100年間を順に辿ってみよう。創業者はドイツ系移民のエルハルド・クック。アメリカはニューヨーク北西部の都市、バッファローからその歴史は始まった。メンズのカジュアルキャップとスポーツユニフォーム用のキャップを製造していた同社に転機が訪れたのは1934年のこと。初となるプロ用ベースボールキャップを、クリーブランド・インディアンスのために製造したのである。これを機に“品質第一、量は後からついてくる”というモットーのもと、ニューエラはプロ用ベースボールキャップ市場を独占することを目指す。そしてその誓いは、1950年にブルックリン・ドジャース、シンシナティ・レッズ、デトロイト・タイガースといったMLB(メジャーリーグ・ベースボール)の名門チームにもキャップを供給するようになったことで現実のものに。この時点で、メジャーなベースボールチームへと製品供給する唯一のヘッドウェアメーカーとなる。

1970年代になると、メジャーリーグ24チーム中の20チームとの契約を結び、事業は順調に拡大。1978年、プロ仕様のモデルを一般消費者向けに販売し始め、新聞にある広告を打つ。“12.99ドルで、誰でもMLB選手と同じキャップが被れる”と謳ったそれは大反響を呼び、1980年代後半には、プロ選手と同じキャップを被ることがベースボールファンの間でもステータスに。これぞ今へと続く、ニューエラ大躍進のスタートラインだ。

1990年代には、MLBのオフィシャルサプライヤーとして、全30チームとその傘下のマイナーリーグ全チームのキャップを独占的に製造する権利を獲得。2017年、ついに1997年から使用されていた「フラッグロゴ」が、公式選手用キャップにも刺繍されるように。こうして世界最大級のヘッドウェアブランドの座を確実なものとしたニューエラ。今ではスポーツ界のみならず、ファッション界においても広く認知されている。

「59FIFTY®」
ニューエラの代名詞にして
説明不要のクラシックス。

そんな100年の歴史を誇る同ブランドの代表作といえば「59FIFTY®」に他ならない。誕生は1954年。長年に渡って改良を繰り返し、ベースボールキャップの完成形ともいえる6パネル×フラットバイザーのスタイルを確立した、ブランドの象徴。まるで品番のようなモデル名は、当初採用されていたウール素材の生地番号“5950”に由来すると言われている。同モデルの特徴としては、約1cm刻みで用意された“フィッテドサイズ”と呼ばれる独自のサイズ展開も挙げられる。フィット感にこだわり、アスリートたちのパフォーマンス向上のために考案されたこのシステムは、長年プロスポーツと密接な関係を築き上げてきた信頼と実績の証でもある。

数ある中でも、ニューヨーク・ヤンキースの「59FIFTY® フィフティーナインフィフティー」は不動のザ・オーセンティック。

クラウン部分は6枚のパネルで構築。丁寧に作られているためフォルムが美しく、形崩れすることもない。

ボディ内側には、MLB(メジャーリーグ・ベースボール)全球団の公式選手用オンフィールドキャップを示すタグが。

バッターのシルエットを象ったロゴがリア部分に入るようになったのは、1991年から。

先に述べたように、MLB全球団の公式選手用オンフィールドキャップとして採用され続けている59FIFTY®。それだけに細部に渡って、プロダクツとしての並々ならぬこだわりが秘められている。なかでも特筆すべきは、誕生当時から基本的なフォルムがほぼ変わっていないという点。プロからアップデートの要望が出ないという事実が、完成度の高さを物語る。だが、それもそのはず。パーツごとの生地の裁断から完成に至るまで制作には22工程を要し、その大半が手作業。優れたプロダクツの陰に、熟練の職人たちのクラフツマンシップあり。

曲げる?剥がす?
バイザー&ステッカー問題。

さて、ニューエラに限らず、キャップの議論のタネといえばバイザー問題。59FIFTY®では堅牢に作られたフラットタイプを採用しているが、リスペクトを込めて新品状態をキープするも良し、バイザーを曲げて無唯一無二のフィッティングを手に入れるも良し。結局、自由に楽しめれば正解。ついでに対となって話題に上るステッカー問題にも言及しておく。キャップのサイズやモデル名が記され、手作業による検品をクリアした証明としてバイザーの中央に貼られるステッカーを貼ったままにするか、剥がすべきか。なぜ、剥がさないという選択肢が生まれたのか?

ゴールドに輝くバイザーステッカーには、キャップのサイズやモデル名などが記されている。

ここ日本では“ゴールドに輝くステッカーが見た目も格好いいから”と考える人が大多数。だがその背景を知れば、そこにはアメリカらしくブラック・カルチャーの影響が垣間見えてくる。もともと貧しい家庭が多く、本物のニューエラのキャップを入手することが容易ではなかったブラック・アメリカンたち。彼らがシールを剥がさぬことで本物であると主張したという説。はたまた、あえて新品状態をキープすることで、盗んできた(=自分はワル)とアピールしたという説……etc。諸説入り乱れるが、これもバイザー同様に、何を正解と信ずるかはアナタ次第。

別注・コラボモデルの元祖は
赤いヤンキースの59FIFTY®。

と、かようにブラック・カルチャーとの関わりも深いニューエラ。ことヒップホップとの蜜月関係は万人の知るところ。ストリートでは90年代から定番となっていたが、アーティストで初めに関わりを持ったのは、メタルにラップの要素を取り入れたミクスチャーバンド、リンプ・ビズキットのフレッド・ダーストとされている。彼が1998年に赤いニューヨーク・ヤンキースの59FIFTY®を被りライヴをしたことで、ラップ(ヒップホップ)=ニューエラの定義が拡散。その後もオーバー&アンダーグランドを問わず、数多のアーティストが着用。そして2009年。“ヒップホップ界のカリスマ”JAY-Zが、“Shit I made the yankee hat more famous than a yankee can,(俺はヤンキースの選手以上にヤンキースキャップを有名にしてやったぜ)”と、『Empire State of Mind』でラップしたことで、その結びつきは決定的なものに。

ちなみに、件の赤いヤンキースの59FIFTY®こそ、今では当たり前となった別注・コラボモデルの元祖。その立役者となった男が映画監督のスパイク・リーである。1996年にニューヨーク・ヤンキースがワールドシリーズ進出を決めた時、熱狂的なヤンキース・ファンとして知られる彼が、ニューエラのCEOに直訴し、観戦用に赤いヤンキースの59FIFTY®をオーダー。こうして実現したスペシャルキャップを被り、ボックスシートで試合を観戦する姿は全米中にテレビ中継されて約3000万人が目撃。この出来事が発端となり、59FIFTY®は一流アーティストやファッションデザイナーらが、自らのイマジネーションをぶつけるキャンバスとしての新たな可能性を拡げていく。

ではここからは、ニューエラを代表する5つのモデルを、名作コラボと共に紐解いていこう。まずは59FIFTY®。パートナーは、スケーターから世界的セレブまでを魅了し続けているストリートが生んだカリスマブランド〈SUPREME シュプリーム〉。『knowbrand magazine』でも幾度にも渡って紹介してきたので、読者諸君もよく知るところ。ここでは数多くあるコラボアーカイブから、2016 AWシーズンに発売された「BOX LOGO ボックスロゴ」モデルをご覧いただく。

×〈Supreme シュプリーム〉の「59FIFTY®」。バイザーはフラットタイプ。

存在感ある59FIFTY®のフロントに、バーバラ・クルーガーのアート作品をサンプリングしたとされるボックスロゴを配したデザインは、問答無用の豪速球。もはや“ストリートの象徴”といっても過言ではない7文字のアイコンが、普遍的定番を至高のアートピースに昇華させている。

リアに刺繍された「R.i.p」の文字も実にシュプリームらしく、バックビューに変化をもたらす。

クラウンの右後頭部には、ラテン語で“安らかに眠れ”を意味するrequiescat in paceの頭文字「R.i.p.」の文字を刺繍。特定の誰かを指すわけではないようだが、「World Famous」の刺繍と合わせて、何かしら意味が隠されているのでは? そう勘ぐり考察したくなるが、それこそシュプリームの思う壺。難しいことは考えず、フィッテドモデルである59FIFTY®︎だからこそのデザインとして受け入れればよろしいかと。
(→〈Supreme〉に関する特集記事はこちら

「9FIFTY™」
王道モデルのDNAを継承しつつ
ワンオブゼムにも対応する。

“キャップの王様”とも称される59FIFTY®と同フォルムながら、自由にフィッティングが調整出来るスナップバックを背面に配したのが「9FIFTY™」。ゆえにワンサイズで万人に対応可能。当然、コラボレーションのベースモデルにもよく用いられる。「ジョニオ」の愛称で知られるデザイナー高橋盾の手掛ける、日本屈指のデザイナーズブランド〈UNDERCOVER アンダーカバー〉もまた同様。今回は通称「Uロゴ」がフィーチャーされたコラボ第2弾をピックアップする。

×〈UNDERCOVER アンダーカバー〉の「9FIFTY™ ナインフィフティー」。バイザーはフラットタイプ。

凹凸部分が設けられたスナップバックによって、フィッティングを調節する仕組み。

アルファベットのUにアンダーバーを付けたシンプルなビジュアルを、フロントパネル中央に配置。59FIFTY®のDNAを受け継ぐフラットバイザーと、ブランド黎明期から使われるアイコンの融合。これぞ、モードとストリートの境界を自由に往来する彼の圧倒的な世界観が綴られた、950行のコンポジションブック。

バイザーステッカーはシルバー。そこにはしっかりと「SNAP BACK スナップバック」の表記が。

背面に刻まれたブランドのロゴネーム。右上の記号部分まで精緻に表現されている。

バイザーステッカーはシルバー。サイズ調整が可能なアジャスタブルモデルとフィッテドモデルを区別する、最も分かりやすい特徴なので覚えておきたい。ちなみに昨今では、このスナップバック仕様のキャップをスナバと略すとか。2010年代前半に原宿のティーン層を発端に広まったというが、正直あまり馴染みがないので、こちらは頭の隅にでも転がしておけばいいだろう。(→〈UNDERCOVER〉に関する特集記事はこちら

「9FORTY™」
古き良きスナップバックを
カーブドバイザーにアレンジ。

続いても、古き良きアメリカの匂いがするスナップバックを採用したモデルから、もう1型。名称は「9FORTY™」。全体は9FIFTY™に似たシルエットだが、ツバ部分が曲がったカーブドバイザーを採用することにより、スポーティさに拍車を掛けている。ここで紹介するのは、クラウンにメッシュ素材のパネルを採用し、1枚仕立てになったフロントパネルの上部をつまむことで形成される独特のフォルムを有する「A-Frame Tracker エーフレーム トラッカー」である。

×〈F.C.Real Bristol. エフシーレアルブリストル〉の「9FORTY ナインフォーティー」。バイザーはカードブドタイプ。

サイドからリアまで、4枚のパネルを通気性に優れたメッシュ素材に切り替え。

日本ではメッシュキャップと呼ばれることも多いが、海外ではトラッカーキャップが一般的。読んで字の如く、トラック運転手がよく被っていることに由来し、古着市場でもお馴染みのピース。そんな出自が示すようにどこか野暮ったさを感じるシルエットも、〈F.C.Real Bristol. エフシーレアルブリストル〉の手に掛かれば、こんなにもモダンな佇まいへと姿を変える。

1枚仕立てになったフロント部のパネル上部をつまんでいるため、独特なフォルムが形成されている。

カーブしたバイザーに対し、角ばったフロントパネルのバランスが絶妙。日本人の頭の形にも馴染みやすいという。

1998年に清永浩文が設立した〈SOPH. ソフ.(現・SOPHNET. ソフネット.)〉のフットボールラインとして、架空のサッカーチームのサポーターグッズをイメージして展開するF.C.Real Bristol.。本モデルは、同ブランドのアイコンであるロゴマークが黒一色のボディに鎮座。シンプルながらも放たれる存在感が、架空のサッカーチームに実在するかのような説得力を持たせている。

「9TWENTY™」
男女問わず支持を集める
ニュースタンダードモデル。

かくも様々なブランドとの共作を発表し続けるニューエラ。その中にあって毎シーズン、カプセルコレクションを発表し続けているのが〈yohji yamamoto ヨウジヤマモト〉である。1981年に、当時タブー視されていた“黒”を前面に押し出したショーをパリコレクションで発表。これが“黒の衝撃”と称され一大旋風を巻き起こした、日本が誇るデザイナーズブランドの先駆者。

×〈Yohji Yamamotoヨウジヤマモト〉の「9TWENTY™ ナイントゥエンティー」。バイザーはカーブドタイプ。

モード界に革命をもたらしてきたヨウジとのコラボ作は、毎度の如く即完売を記録。ここで紹介する「9TWENTY™」もまた然り。6パネルで浅めのクラウンと絶妙なカーブを描くバイザーが生み出すフォルムは、クラウンに芯がないため柔らかく軽やか。近年のダッドハット人気も相まって、男女問わず愛される新定番となった。そんな万能ボディのフロントを飾るのが「シグネチャーロゴ」。細緻なタッチで綴られたそれは、刺繍技術に定評のあるニューエラとの共作ならでは。

リアストラップにもボディと同素材を使用。ちなみにストラップがレザー素材のものは日本企画。

バイザーステッカーはやはりシルバー。サイズ表記がないことで、スタリッシュな印象が強まっている。

余ったストラップの先端部分は、ボディ内側に収納可能。無地のバックルもミニマルで現代的だ。

そしてこちらもまた、リアストラップでサイズ調節が可能。ファッションの美意識を書き換え、ジェンダーの固定観念を打破したといわれるヨウジ。本作も、モードな黒のキャンバスに塗り込められたストリートという違和感が、“ニューエラを取り入れることで生まれるミスマッチ感がすごく気に入った”というデザイナー自身の言葉を如実に表している。

「ADVENTURE」
ミリタリーギアから得た着想
機能美を凝縮した定番ハット。

100年前の創業当時から、品質第一を掲げてきたニューエラだけに、それぞれのプロダクトに合わせた素材選びにも余念がない。最後とはブランドではなく、素材とのコラボレーションの一例を、その証左としてご覧いただく。コラボパートナーは「GORE-TEX® ゴアテックス®」。防水耐久性、防風性、透湿性を兼ね備え、今や知らぬ者を探すことが難しい“機能素材の代名詞”。

×「GORE-TEX® ゴアテックス®」の「ADVENTURE アドベンチャー」。バイザー部分が広く、見た目のギア感も強い。

そんな機能素材のチャンピオンとシェイクハンドを交わしたのが「ADVENTURE」。男心をくすぐるワードを冠する同モデルのルーツは、ベトナム戦争時にアメリカ軍が、高温多湿のジャングル戦用に開発した戦闘帽。まさにこのデザインにして、この素材あり。

リアにはゴアテックス®のロゴを刺繍し、左サイドには取り外し可能なバッジ。これは嬉しいサプライズプレゼント。

遮光性を高める長めのバイザーと、枝や葉っぱを差してカモフラージュするためにクラウンの周囲に縫い付けられたブランチループ。これらのミリタリー的記号が、コンクリートジャングルをサバイブする都市生活者のテンションを否が応でも盛り上げる。ちなみにアゴ紐は、取り外してサイドに配置されたポケットに収納可能。日本の夏の新たな風物詩となったゲリラ豪雨をも物ともしない機能美が、ここに凝縮されている。

こうして歴史と定番モデルを紹介してきたわけだが、土地柄やシチュエーション、そしてブランドの世界観に合わせてローカライズされたニューエラのラインアップには、人種の坩堝であるビッグアップルで産声を上げたブランドらしい多様性の尊重。そんなフィロソフィーが強く感じられる。

この春、100周年を記念して『New Era® 100the Anniversary Book [JAPAN]』というメモリアルブックが発行された。“ニューエラを被りこなす日本の100組”と謳ったその本には、俳優、アーティスト、アイドルなど100組の著名人が登場。ラストを飾るデザイナーの山本耀司は、ニューエラのキャップを自らが作る服に合わせることで、「“人生そんなに難しく考えず、楽しく行こうぜ!”みたいな感覚が生まれる」と語っている。ポジティブなヴァイブスは常に、過去を振り返らず、前進していく姿勢から生まれる。これまでもこれからも、ニューエラは新時代を切り開いていく。

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