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アメカジの定番〈ラングラー〉の人気モデルと歴史を識る 「ジーンズ」「デニムジャケット」「ランチコート」ほか。

世は古着ブーム…なんてチョイと今更なトピックス。一時の狂乱じみたマーケットプライスも徐々に落ち着きを取り戻し、トレンドとして消費する人々は次の獲物を探して離脱。そして残ったのは己を貫く、我ら数寄者たち。その姿は、どんなに時代が移り変わろうと泰然と在り続ける、まさに誇り高きアメリカの蒼きプロダクト、ブルーデニムの如し。

前回は、その代名詞〈Levi's リーバイス〉を筆頭とする世界三大デニムブランド、通称“ビッグスリー”から、創業年順なら次男坊にあたる〈Lee リー〉にスポットを当てたので、今回は、末弟・三男坊〈Wrangler ラングラー〉の生き様にフォーカス。

カウボーイから絶大な支持を獲得。イチ作業着に過ぎなかったジーンズにファッション性を見出し、デザイナージーンズの走りとして歴史にその名を刻んだラングラー。今もなお愛され続ける理由を名作から紐解く。

〈Wrangler ラングラー〉の歴史
1990年代には
米国No1市場シェアを獲得。
カウボーイたちが愛したジーンズ

“名作から紐解く”ためには、モノ自体を点ではなくその背景も踏まえて立体的に見る必要がある。そこでまずは歴史をざっくりプレイバック。ギャロップは無理でもトロット程度の速さで済ませるので、暫しお付き合いを。

スタートはアメリカ経済が急速な成長を遂げていた1904年。C.C.ハドソンが弟のホーマーと共に創業した「ハドソン・オーバーオール・カンパニー」が今へと続く歴史の礎。オーバーオールを主力商品として打ち出し、売り上げは右肩上がり。

1919年、馴染み客の鉄道員グループから贈られたベル(鐘)が、デニム生地の裁断から生まれる青い粉塵で覆われた姿にちなんで、社名を「ブルーベル・オーバーオール・カンパニー」(以下、ブルーベル)と改める。以降、同業他社との合併・買収により〈Wrangler ラングラー〉の商標・使用権を取得。こうして現在のラングラーが誕生。この“インディゴに包まれた労働者の象徴”は、1965年に「独自のアイデンティティと信頼を得た」との理由で姿を消すまで、同社のアイコンとして親しまれることとなる。

カウボーイ(牧童)を意味するブランド名を付けたことで、運命は動き出す。その契機となったのが、1947年に誕生したウエスタンジーンズ「11MW」。なにせデザイナーは、ハリウッド西部劇の衣装デザイナーも務めた有名テーラー、ロデオ・ベン。このカウボーイのための1本から始まり、以降「11MWZ」「111MJ」「27MW」「11MJZ」と、アメリカンスピリッツを宿した名作モデルを続々とリリース。その勢いは止まらない。

1964年さらに新たなモデル「13MWZ」をリリースした勢いに乗って、特殊な織り組織でねじれを防止した“ブロークンデニム”の開発にも成功。さらに兄弟ブランド〈MAVERICK マーヴェリック〉が誕生し、新陳代謝も加速化。1980年に映画『アーバン・カウボーイ』が公開されると、主演を務めた名優ジョン・トラヴォルタのカウボーイ・ルックが話題となり、この機に乗じてラングラーもブレイク。1996年には米国No1の市場シェアを獲得。同地では男性の4人に1人が着用しているほどのブランドとなったーー。

 

アメカジの定番
〈Wrangler ラングラー〉の人気モデル
これぞ名作と誉高き、
元祖カウボーイデニム。
「11MWZ」

ここから本題の名作紹介へと進む。誕生は1948年、同社のジーンズの歴史の中でも名作との誉高い「11MWZ」こそ、ラングラー名作コレクションの一番槍。品番の「11」は試作ナンバー、「M」がメンズ、「W」はウエスタンウェア、そして「Z」はジッパーフライを表す。要はボタンフライモデル「11MW」をジッパーフライに改良した後継モデルだ。

ラングラーのジーンズの中でも、カウボーイとの結びつきをより強固なものとしたのが「11MWZ」。

さり気なく挿し込まれた“W=ウエスタン”の一文字は、ラングラーとカウボーイとの結びつきの深さを表し、デザインの端々からもその要素は伺える。

たとえばジッパーフライ仕様。騎乗技術を競い合うロデオ大会で、暴れ狂う牛に一本のロープのみで跨り、振り落とされずに耐えられるかを競うブルライディングという命懸けの競技において、牛の角がボタンフライに引っかかる危険を回避する革新的アイテムとして、カウボーイたちから高く評価された。

ボタンフライからジッパーフライに変更になったことで、より実用的に。カウボーイたちからも高い評価を得た。

内タグには“斜めベル”と厚みを示すOZの数字、防縮加工のSANFORIZED表記から1960年代頃のモノと推察。

そして股上は深く、すっきりとした腰回り、太ももから裾にかけてストレートに落ちるシルエットは騎乗にも最適。他社では通常5本のベルトループを7本に増量することで、馬上の激しい動きにもベルトがズレにくく、強固な巻き縫いのサイドシームによる優れた耐久性も発揮する。

その上、馬鞍を傷つけないノンスクラッチリベットや、ウエストバンドのギリギリまで上に持ってきて配置されたウォッチポケットなど、機能美の追求は細部にまで至る。

カウボーイの着用を意識したウエストのコインポケット位置と、平たく丸いノンスクラッチリベット。

もちろん、ヒップポケットに施されたステッチのアイコンも忘れてはならない。ラングラーの頭文字“W”を模したこちらは、発音しない文字ということで“サイレントW”と呼称される。

ヒップポケットには“サイレントW”と塩化ビニール製パッチ。ともにラングラーらしさが感じられる特別なディテールだ。

このステッチの意匠権を巡り、〈エドウイン EDWIN〉と訴訟問題が起きたのも有名な話。結果的にエドウインは日本国内に限り継続使用できることになったのだが、むしろヒップポケットのWステッチ=ラングラーという確固たる図式を生み出す結果に。

かようにして実用性とデザイン性を兼ね備えた11MWZは、タフで無骨なカウボーイたちの信頼を勝ち得た“ウエスタンジーンズの永久定番”といえるだろう。

(→〈ラングラー〉の「11MWZ」の「ジーンズ」をオンラインストアで探す)

 

アメカジの定番
〈Wrangler ラングラー〉の人気モデル
全米のロデオ界隈が認めた
“カウボーイカット”。
「13MWZ」

2本目のジーンズは「13MWZ」。1964年に登場し、ラングラーの人気を決定付けたエポックメイキング作といえばコチラ。通称“カウボーイカット”とも呼ばれる。

11MWZの後継モデルとして、1964年に登場した「13MWZ」。

細部に目を移すと、ヒップポケットのサイレントWに始まり、絶妙に配置された7本のベルトループや、耐久性のあるサイドシームなど、11MWZの象徴的ディテールを数多く継承した正統後継モデルであることが一目瞭然。

カウボーイ達から高い信頼を得ていたジッパーフライも評価され、ついに全米プロ‧ロデオ‧カウボーイ協会が認めるまでに。

内タグはブルーベルが入らない、通称“ベル無しタグ”。1970年代頃と思われる。

中でも注目すべきは、ラングラー独自の意匠でありながら、意外と気付かないバックヨークの縫製。リーバイスの場合は大概、ヒップポケット側の生地がウエスト側の生地を巻き込むように縫製されるが、ラングラーではその逆。ヨークとヒップポケットの位置も近く、内容物が滑り落ちそうになった際にも引っかかって落下を防止。細かな工夫が光る。

よく目を凝らさないと気付かないバックヨークの縫製。「俺じゃなければ、見逃しているね」という工夫が光る。

本モデルが登場した1964年は、ラングラーにとって、もう一つの記念すべき年でもあった。それが、同社ジーンズの弱点を解消する画期的素材“ブロークンデニム”の誕生である。

“ブロークンデニム”生地が使用された13MWZ。本個体は希少なフラッシャー付きデッドストック。

それまで縦糸が右下がりになる左綾織りがラングラーでは主流だったが、防縮加工を施しても縮みを完全に抑えることはできず、さらに穿き込む内に“ねじれ”が生じるという弱点もあった。ブロークンデニムは特殊な織り組織によって、これらの問題を見事解消。

ヒップポケットのパッチを囲むように付くフラッシャー。これまたラングラーならでは。

ジグザグに交差する綾目がポイントのブロークンデニム。これがねじれ防止に一役買っているのだ。

また白い横糸の数が少ないため、ブルーの発色が鮮やかで清潔感もある。これにより糊付け&アイロンプレスで“パリッと小綺麗に穿く”という、当時のカウボーイ・トレンドにも対応。デザイン・機能・素材の三拍子が揃った、名実共に彼らのライフスタイルに欠かせないジーンズとなり、1975年には、全米プロ・ロデオ・カウボーイ協会(PRCA)の協会公認ジーンズにも指定され、ラングラーのウエスタンジーンズの1つの完成形としての地位を確立していく。

(→〈ラングラー〉の「13MWZ」の「ジーンズ」をオンラインストアで探す)

 

アメカジの定番
〈Wrangler ラングラー〉の人気モデル
時代と共に進化を遂げた
カウボーイシャツ。
「27MW」

ジーンズと共にカウボーイに愛されたアイテムといえば、ウエスタンシャツの存在も忘れてはならない。別名“カウボーイシャツ”。その中でもラングラーを代表する定番デニムシャツが「27MW」だ。一口にデニムシャツといっても、ブランドや時代によって意匠も多種多様。当然、ラングラーも年代によってデザインに差異が見られる。

ここではまず、1950年代〜1960年代にかけて展開されていた27MWの中から、通称“1st TYPE ファーストタイプ”をピックアップ。

ラングラーでは初のウエスタンシャツともいわれている「27MW」のデニムシャツ。

序文でも述べたように、初期のラングラーのアイテムは、ハリウッド映画の西部劇で衣装デザイナーを務めたロデオ・ベンが手掛けており、1952年登場のこちらもそう。

縦に配置された通称“縦ベル”と“SANFORIZED”のみが刺繍された1950年代頃の初期モデルの背タグ。

肩のウエスタンヨークは置いといて、他社とのディテールの違いとして、フロントボタンの数が挙げられる。通常は6つが主流だが、やや面倒に思える8つのスナップボタンで、全てにWの刻印が入るシルバー製。ちなみに本個体は初期モデルなので、ブロンズ製ボタンを採用している。

剣ボロを含め、袖口には4つのスナップボタンを配置。初期モデルは裾がロックミシンで縫われるのも特徴だ。

両胸には斜めにフラップがデザインされた“ダイアゴナルポケット”を配置。騎乗時に手綱を握りながらも反対側のポケットにアクセスしやすく、さらに太めに設計されたアームホールが運動性を高める。トレードマークのサイレントWのステッチとも相まって、実用的でありながらファッションアイテムとしても優れた完成度を誇る。

ここで年代によって異なるディテールの一例として、1960年代頃に登場した通称“3rd TYPE サードタイプ”もご覧いただくとしよう。

よりモダンなデザインへと変化を遂げた1960年代頃の27MW。通称“3rd TYPE サードタイプ”。

大きな変更点は、ダイアゴナルポケットという最大の特徴が、水平に設計されたスナップポケットに変わったこと。さらに左胸のフラップ上に機能的なペン差しを新たに設置し、フロントや袖口のボタンは白く塗り潰して、表面に細かな凹凸のある通称“イチゴボタン”仕様に。

斜めベルがあしらわれた背タグには、新たにサイズ表記と登録商標を意味するレジスターマークが加わった。

剣ボロを含め、袖口に4つのスナップボタン。それが“イチゴボタン”へと代わるだけで印象もガラリと変わる。

画像では分かりづらいが、トップボタンがスナップボタンから掛けボタンに。全体的に装飾性と土臭さが抑えられ、シンプルでモダンな印象へと変わっている。

年代ごとに異なるディテールが興味深い27MWのデニムシャツ。どちらも甲乙つけがたい。

時代と共に進化を遂げた27MWのデニムシャツ。ディテールの差異を1つずつ見つけながら、その背景や秘められた意味合いを識ることで、ヴィンテージならでは魅力と奥深さを教えてくれる1着だ。

(→〈ラングラー〉の「デニムシャツ」に関する別の特集記事はこちら)

(→〈ラングラー〉の「27MW」の「デニムシャツ」をオンラインストアで探す)

 

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〈Wrangler ラングラー〉の人気モデル
デニムジャケットの
新たな可能性の扉を開いた。
「11MJZ」

デニムシャツを押さえたら、次はデニムジャケット。これ世の道理。口火を切るのは1956年に登場した「11MJZ」。ラングラーの同ジャンルで初めてジッパーフライを採用したモデル。なので、品番は「M」=メンズ、「J」=ジャケット、「Z」=ジッパーと読み解く。ちなみにベースとなった「11MJ」は、かのビートルズのジョン・レノンが公私に渡って愛用したことでも知られる。

左胸のパッチポケットやフロントのジッパーフライなど、個性的なディテールが光る「11MJZ」。

何といってもジッパーフライが特徴だが、見どころは他にも。サイレントWのステッチが入った左胸のフラップポケットも本モデルならでは。ペン差しをフラップに設け、一部をカンヌキ留めしているのが特徴。以降のモデルでは、フラップ上にボタンホール状の切れ込みを設けたデザインへと変更される。細かい点だが、だからこそ知っていると通なポイントだ。

秋冬シーズンに重宝するだけでなく、他社のモデルとの差別化を意識したディテールとして、収納とハンドウォーマーの両方の用途を兼ねる、身頃に2つのスラッシュポケットも見逃せない。

背タグから推察するに1950年代〜1960年代初期頃のもの。トップボタンは掛けボタン仕様の通称“前期”モデル。

背面ウエスト部分に、左右3本ずつのエラスティックバンドを内蔵した後ろ姿も印象深い。肩に入ったアクションプリーツと組み合わさることによって、外観を崩さずスマートにフィットしながら広い可動域を叶えると同時に、コントラストの効いた色落ちを生み出してヴィンテージらしい表情をも引き出す。

11MJZのみに採用された、ウエスト部分には伸縮するエラスティックバンドを内蔵。剣ボロのリベット補強も前期ならでは。

スタイリッシュなシルエットと高い機能性を兼ね備えた11MJZ。フロントジップがカウボーイのためのワークウェアという枠組みを切り開き、タフ&スマートを実現させた後ろ姿で、デニムジャケットの新たな可能性を示してみせたのであった。

(→〈ラングラー〉の「デニムジャケット」に関する別の特集記事はこちら)

(→〈ラングラー〉の「11MJZ」の「デニムジャケット」をオンラインストアで探す)

 

アメカジの定番
〈Wrangler ラングラー〉の人気モデル
約20年間に渡って愛された
屈指の長寿作。
「24MJZ」

世代を重ねる間に環境に適応して変化していく過程を進化と呼び、ワークウェアにおいてそれは、より顕著である。デニムジャケットの2着目「24MJZ」がそうだ。先述の11MJZの後継モデルとして1960年代半ばの品番改正で登場し、1980年代半ば頃まで生産が続いたラングラー屈指の長寿モデルである。

ラングラー屈指の長寿モデルとして、約20年間に渡って、多くの人々に愛された「24MJZ」。

まず大きな違いはフロントポケットの構成。11MJZでは左胸のみにあったフラップポケットが、24MJZでは両胸にレイアウトされ、スラッシュポケットと合わせて4ポケット仕様に。左のフラップポケットにあったペン差しは、従来のカンヌキ留め式からボタンホール状の切り込み式へと変更。1965年以降はこの仕様がスタンダードになっていく。

背タグから本作は、ブルーベルマークが消えた後、1966年〜1968年頃のもの。トップボタンはスナップ式。

袖口の補強もリベットからカンヌキへと変更され、より洗練された仕立てに。ただし全てを刷新するのが正解かといえばノー。11MJZの特徴だったフロントプリーツや補強の丸カン、肩のアクションプリーツといった有用な仕掛けは、姿を消すことなくしっかりと受け継がれている。

肩のアクションプリーツの内側は縫い付けられたゴムベルト。肩の可動域を広げる工夫だ。

画像こそないが、ウエスト部分のボタン式アジャスターベルトも興味深い。同じ24MJZでも11MJZのように内側に、フィット調整用のゴムベルトが縫い付けられた仕様も存在するためややこしいのだが、これもまた、長い販売期間の中で幾度もマイナーチェンジが繰り返されてきたことの証明か。

24MJZとその元となった11MJZ。革新的な機能は継続しつつ、より実用的なジャケットに。

11MJZの革新性を継承し、より実用的で完成度の高いジャケットへと進化を遂げた24MKJZ。通常仕様だけでなく、件のゴムベルト仕様にも食指が伸びるし、欲をいえば11MJZも合わせて…なんて悩みもまたモノ好きの性。沼落ち不可避。実に魅力的なジャケットだ。

(→〈ラングラー〉の「24MJZ」の「デニムジャケット」をオンラインストアで探す)

 

アメカジの定番
〈Wrangler ラングラー〉の人気モデル
その正体は、
過渡期のマイナーチェンジモデルか。
「24MJ」

いわゆるデニムジャケット=Gジャンのラストは、先述の「24MJZ」のボタンフライ仕様である「24MJ」。これまでの歴代モデルがそうであったように、ボタンフライ→ジッパーフライの順に進化していくのが通例。ゆえに掲載順が間違っていると思われるだろうが、本モデルに関しては正確な登場時期が不明のため、仕様違いのバリエーションとして紹介する。

王道のボタンフライ仕様に、左右均等なフラップポケットとスラッシュポケット。バランスの良さも魅力の「24MJ」。

ただし、11MJZで見られたフロントプリーツや丸カン、背中のアクションプリーツといった固有ディテールの姿がそこにはなく、そのシンプルな佇まいにはクラシカルという印象を覚える。

背タグから本作は、1968年〜1970年ごろのもの。“SANFORIZED”の文字が消え、よりシンプルな印象に。

一方、両胸のフラップポケットとスラッシュポケットの4ポケット仕様や、ボタンホール状の切り込み式で、袖口の補強はカンヌキ留めとなっている左フラップポケットのペン差し、ウエスト部分の仕様などは24MJZと同じ。その上、内側ゴムベルト付きタイプ、何も付かないタイプ、そして本個体のようにボタンで調整するアジャスタータイプの3種類が確認されているから、ますます謎が加速する。

フロントの仕様だけで違った印象を与える2着。

同じ品番でありながらディテールが異なる点から、11MJZから24MJまでの間でマイナーチェンジを繰り返していた過渡期のモデルと考えるのが自然か。それに正解が分からなくとも問題はない。アレやコレやと想像を膨らませるのもまた、ヴィンテージの楽しみ方なのだ。

(→〈ラングラー〉の「24MJ」の「デニムジャケット」をオンラインストアで探す)

 

アメカジの定番
〈Wrangler ラングラー〉の人気モデル
モデル名の読みはランチ?
メイビー、ラング。
「WRANGE COAT ラングコート」

120年以上もの歴史を1つの記事にまとめるがゆえの冗長さに対して、平身低頭しつつ、少し短めの変化球を。アイテム名は「WRANGE COAT ラングコート」。19世紀後半から20世紀初頭にかけて、アメリカ西部の牧場で働くカウボーイたちの冬用ワークウェアとして重宝されていたランチコート。そのラングラー版だ。

ラングラーのデニムジャケットの定番の一つといえば、独特なデザインが特徴の「WRANGE COAT ラングコート」。

その特徴はといえば、ムートンジャケットから着想を得たとされる大きな襟とインナーのボアライニング。ランチとは“牧場”を意味し、フロントボタンの掛け合わせ付近まで敷き詰められた裏地のボアは羊毛が主流派。ボアを表地と一体化させないことで体の動きに合わせて密着するよう設計されており、その防寒性の高さは、広大な土地を馬で駆け回るカウボーイたちの折り紙つき。

残念ながらブルーベル社製としてのランチコートの誕生年は明確ではないものの、伝統的なスタイルはこのラングコートに受け継がれている。

タグの刺繍から1970年代のものであると推察。

襟から内側全体に配置されているボアライニング。冬のワークウェアとしての防寒性は折り紙付き。

現在では多くのファッションラバーに認知されているラングコートだが、日本における認知拡大のタイミングは二度あった。最初は1960年〜1970年代のアメカジブーム。ここでその存在が広まり、次に2004年発売の〈N.HOOLYWOOD エヌハリウッド〉コラボモデルを、あのキムタクが公私ともに着用したことで爆発的ヒット。

その人気はあまりにも凄まじく、ぶっちゃけブランド側にサンプルも残らなかった…なんて逸話も。何もない広大な荒野に転がるタンブルウィード。そんな西部劇の1シーンが脳裏に浮かび、つい笑みが漏れる。

(→〈ラングラー〉の「ランチコート」をオンラインストアで探す)

 

〈Wrangler ラングラー〉の人気モデル
カウボーイとヒッピーの
意外すぎる組み合わせ。
「peter max ピーター・マックス」
コラボレーション

本稿の最後を飾るのは、これまでと毛色が大きく異な(り過ぎ)る個性的なカバーオール。なぜならターゲットは、タフで保守的な西部のカウボーイたちではなく、自由と愛を説くヒッピーたち。1960〜1970年代のカウンターカルチャーを象徴するアーティスト、ピーター・マックスが手掛けたコラボレーションモデルだ。

ワークウェアの代名詞、カバーオールもピーター・マックスの手に掛かれば、こんなにクレイジー!

1960年代後半に、鮮烈な色彩とサイケデリックな表現を特徴とする“イコノグラフィー”のスタイルで注目を集めたアメリカン・ポップカルチャーの象徴的存在、ピーター・マックス。彼の作品に描かれた、独特な色彩感覚と幻想的な世界観は、1968年公開のビートルズ初のアニメ映画『イエロー・サブマリン』のビジュアルにも影響を与えたと言われている。

そんな稀代のアーティストが手掛けたカバーオールは、長めの着丈と濃淡の異なるブルーデニムやストライプ柄生地など、異なる素材同士を組み合わせたクレイジーパターンが特徴。1970年代の香り漂う剣先の尖った襟や、ウエスタンムードを放つヨーク部分の切り替えが、ピーター・マックスらしいデザインを際立たせる。

背タグには“mr wrangler”の文字。ウエスタンヨーク、剣先のとがった特徴的な襟など1970年代らしいディテール満載。

左胸ポケットの下には、さりげなく「peter max」の名が入った黄色いピスネーム。フロント身頃の腰位置に備えられた大きなフラップポケットには、ベージュカラーの素材をあしらい、ワークウェアの堅牢性と遊び心が一体化。そのユニークな顔立ちに、思わず顔も綻ぶ。

太さの異なるストライプが特徴的なスナップボタン付きのフラップポケット。下にはさりげなくピスネームが付く。

このジャケットだけでも十分にインパクト抜群だが、その魅力をさらにパワーアップさせるセットアップのパンツも存在している。

サイケでヒッピーなフレアシルエット。ウエストとポケットの切り替えがアクセント。

末広がりならぬ裾広がりのフレアシルエットは、当時のサイケデリック&ヒッピームーブメントを象徴するデザイン。自然派のベージュカラーを基調に、フロントとヒップポケットを前後異なるデニムで切り替え。ヒップポケットにはラングラーとピーター・マックス、両方のパッチがデザインされ、NO WARの姿勢もむしろその逆、満艦飾。

異なる素材使いのクレイジーパターンも、セットアップで着れば、有無を言わさぬ存在感と統一感。

それぞれを単体着用するのも良いが、ここはあえてセットアップでの着用を強くオススメする。時には折り目正しい大人の仮面を脱ぎ捨てて、1970年代にトリップした気分で、自由と個性溢れるファッションを楽しんでみるのはいかがだろう。

(→〈ラングラー〉×〈ピーター・マックス〉のアイテムをオンラインストアで探す)

誰もが知る世界三大デニムブランド、通称“ビッグスリー”の末弟ラングラー。創業から120年以上を経てなお愛され続ける理由を紐解くべく、ギャロップで駆け抜けた本稿もいよいよゴールを迎える。

9000文字オーバーの道のりの中で出会ったのは、我々がかつて憧れた自由の国・アメリカ。その根幹にある自由と独立心、そして困難に立ち向かう勇敢さを、今も脈々と伝える9つの名作群。ストリートやY2Kがトレンドの昨今、アメカジ的なデニムルックは時代遅れと笑われるかもしれない。だが、いや“だからこそ”、世界一有名なオモチャのカウボーイの言葉を胸に、堂々と着こなそう。

「You’re my favorite deputy.(お前は俺の相棒だぜ!)」と。

→世界三大デニムブランド〈LEVI’S リーバイス〉に関する特集記事は、こちら
→世界三大デニムブランド〈Lee リー〉に関する特集記事は、こちら

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