あなたの腕に、ちょうどイイ“実⽤”時計を。機能と愛嬌で選ぶ使える名作時計6選 タイメックス、ルミノックス、スウォッチほか
だが、ビジネスでもプライベートでも浮かない汎用性、腕元を少しだけ楽しくするデザイン、デイリーユースに適したスペック、そして無理なく買える価格。それらを備えたちょうどイイ実用時計は、存在価値を変えることなく時を刻み続けている。
今回のテーマは、あなたの腕にちょうどイイ”実⽤”時計。慌ただしい毎日から数分だけ時間を借りて、腕をともにしたい相棒を紹介する。
ちょうどイイ、使える“実⽤”時計
〈TIMEX タイメックス〉
「Original Camper
オリジナルキャンパー」
当時の骨格を蘇らせた
実用時計の大将格
最初は実用時計のスタンダードとも呼べる1本から。〈TIMEX タイメックス〉の「Original Camper オリジナルキャンパー」だ。
タイメックスのルーツは1854年、アメリカ・コネチカット州で創業したウォーターベリー・クロック・カンパニーに遡る。同社では廉価な懐中時計を大量生産。第一次世界大戦時には、小型の懐中時計にストラップを通すなどの改造を行い、腕時計へと転身させていた。
その後、1950年に腕時計ブランドのタイメックスが誕生すると、1969年に社名をタイメックス・コーポレーションに変更。安くて丈夫な時計を一貫して製造し、世界的時計ブランドに成長していった。
80年代当時を忠実に再現するべく、日本企画で復刻された「Original Camper オリジナルキャンパー」。
本稿で紹介するオリジナルキャンパーは、米軍がベトナム戦争期に採用したミルスペック「MIL-W-46374」に基づく軍用時計に由来する。この規格が求めたのは、最前線での使用を想定し、修理しない前提で徹底的に無駄を削いだ時計。
軍用時計は、〈BENRUS ベンラス〉や〈HAMILTON ハミルトン〉など、複数のメーカーが製造し、米軍へ供給。タイメックスも1982年に短期間だけ同規格の時計を作っている。
そして80年代になると、これらは放出品として市場に流れ出し、実用一辺倒の無骨なルックスがバックパッカーたちの支持を集めるようになる。
それを受け、タイメックスは民生品としてアレンジした「Camper キャンパー」をリリース。ブランドを代表する1本になり、その後は、手巻きからクォーツへ、ケース径の変更など、時代に応じて少しずつ形を変えていった。
プラスチック製ドーム型⾵防と樹脂製ケースで、当時の雰囲気を忠実に再現。
時は過ぎて21世紀。キャンパーは代替わりをして新しいモデルが登場していたが、80年代当時のキャンパーを求め続けるファンも多かった。
ただ、時間が経過するほど、当時のグッドコンディションの個体を掘り出すことは難しくなる。そこで、オリジナルのキャンパーを復刻させるプロジェクトが日本で立ち上がる。
だが、簡単に復刻とはいかなかった。本国タイメックスには、当時の資料も金型も残っていなかったからだ。それでも諦めなかったプロジェクトチームは、80年代の実物を入手し、3Dスキャンで形状データを取得。検証を重ね、ドーム型の風防からケースの曲面、文字盤のレイアウトまで、当時のディテールを再現していった。
そして、2015年12月、オリジナルキャンパーがリリースされた。当時の手巻きムーブメントだけは再現が叶わずクォーツに置き換わったが、見た目はそのまま、利便性だけが上がった格好だ。
時間も再現性も狂いがない、あの頃のキャンパーが帰還した。
ケースは樹脂製の36mm径でナイロンベルトは引き通し式。針とインデックスには夜光塗料。当時と変わらないディテールの数々。
現在のオリジナルキャンパーは、カラーや素材のバリエーションを増やしながら定番の座を守り続けている。ファッションブランドとの別注も活発で、2026年にはBEAMSの50周年を記念して、〈BEAMS BOY ビームスボーイ〉別注のリングウォッチが登場。ミリタリーウォッチの顔つきを22mm径まで凝縮し、指先に乗せた。
老舗には、必ずと言っていいほど不朽の名作がある。タイメックスにとってはそれがキャンパーであり、その姿を現在形に呼び戻したのがオリジナルキャンパーだ。
流行とは無関係に、使いやすくて格好いい腕時計を一本選べと言われたときに、こういうのがちょうどイイ。
(→〈タイメックス〉の「キャンパー」をオンラインストアで探す)
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ちょうどイイ、使える“実⽤”時計
〈TIMEX タイメックス〉
「IRONMAN 8LAP OG
アイアンマン 8ラップ OG」
世界一売れたスポーツウォッチ
その数、初年で40万本
タイメックス名作劇場後編。1986年に誕生した「IRONMAN 8LAP アイアンマン 8ラップ」を忠実に再現した復刻モデル「IRONMAN 8LAP OG アイアンマン 8ラップ OG」を紹介しよう。
スポーティな存在感と個性的なフォルムを備えた「IRONMAN 8LAP OG アイアンマン 8ラップ OG」。
アイアンマンは「世界で最も売れたスポーツウォッチ」と称されることがある。初代は発売初年度に40万本以上を売り上げたというから、その呼び名も大袈裟ではない。では、なぜそこまで売れたのか。
理由のひとつは、その顔つきだ。
今の目で見れば「80年代のスポーツウォッチらしいデザイン」の一言で片付いてしまうかもしれない。だが、当時は違った。デジタルウォッチといえば黒一色のシンプルな樹脂ボディが基本。真っ黒なチープカシオを思い浮かべてもらえば、雰囲気は掴めるはずだ。そんな世の中に、メタリックなシルバーとギア然としたフォルムでアイアンマン 8ラップが登場。一目で人々の視線を奪ったに違いない。
横に倒すとアルファベットのDに見える独特のケース形状は、のちに“Dシェイプ”と呼ばれるようになった。
デザインを手掛けたのはジョン・T・フーリハン。GM(ゼネラルモーターズ)やGE(ゼネラル・エレクトリック)などでデザイナーを務め、1980年代にタイメックスへ加入した人物である。自動車や家電といった他業種のデザインで経験を積んできた彼は、オフィスの前に停まっていたBMWを見て「時計の樹脂ケースに自動車用の塗料を塗る」というアイデアを思いつき、この配色が誕生したのだそう。
ヒントはすぐ近くにあるものだ。
機能面でも革新があった。タイマーやストップウォッチ程度が主流だった時代に、最⼤8回分のラップタイムを記録できる「8ラップメモリー」を搭載。当時のトライアスロンガチ勢の心を掴んだ。
そして、知名度を高めた出来事がある。第42代アメリカ合衆国大統領のビル・クリントンが、大統領候補として活動していた頃や、就任演説などで、アイアンマン 8ラップを着けていたのだ。動機はさておき、この出来事は双方にとってWin-Winになっただろう。
裏蓋には「IRONMAN TRIATHLON」の刻印。過酷なトライアスロン⼤会「アイアンマン」に由来する、この時計の出自である。
本題のアイアンマン 8ラップ OGに話を戻そう。OGの名が示すとおり、本作は1986年の初代を極限まで再現することを目指して2022年に発売された日本企画のモデル。
それ以前にも復刻モデルは存在したが、細部まで再現されてはいなかった。そこで本作の開発陣は、2001年にタイメックスを離れ、既に第一線を退いていたジョン・T・フーリハンにアプローチ。初代のデザインについて検証を依頼し、ロゴの位置から配色に至るまで、生みの親の目を通して1986年仕様へと引き戻していった。
また、オリジナルの発売当時にはなかった、ブランドを代表する機能「インディグロ ナイトライト」を搭載。当時を再現するだけではなく、進化した状態で世に送り出した。
キャンパーでは当時の現物を3Dスキャンし、アイアンマンではデザイナー本人を引っ張り出す。忠実な復刻を目指す日本の担当者の熱量には、ただただ感服するばかりだ。
タイメックスを代表する2本の実⽤時計。左:「アイアンマン 8ラップ OG」、右:「オリジナルキャンパー」。
タイメックスにおいて、アナログの顔がキャンパーなら、デジタルの顔はアイアンマンだ。どちらも80年代生まれの同世代でありながら、見た目の共通点はほとんどない。この対極にある2本をどちらも定番として抱えていること。それこそが、タイメックスがアメリカを代表する時計メーカーと呼ばれる所以だろう。
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ちょうどイイ、使える“実⽤”時計
〈LUMINOX ルミノックス〉
「ORIGINAL NAVY SEAL 3000 Ref.3001
オリジナルネイビーシール3000 Ref.3001」
ネイビーシールズ公認。
暗闇で25年光り続けるタフガイ
夜間の秘匿行動、暗闇の水中。ボタンを押すことすらリスクになり得ることは、素人にも想像に難くない。このような過酷な環境でのミッションをこなすアメリカ海軍特殊部隊「ネイビーシールズ」のために開発された時計をベースにしているのが、〈LUMINOX ルミノックス〉の「ORIGINAL NAVY SEAL 3000 Ref.3001 オリジナル ネイビー シール 3000 Ref.3001」だ。
特殊部隊の要求から⽣まれた⼀本。「ORIGINAL NAVY SEAL 3000 Ref.3001 オリジナル ネイビー シール 3000 Ref.3001」。
ルミノックスは1989年にアメリカで創業。バリー・コーエンとリチャード・ティンボの2人が、スイス製の自己発光システムに商機を見出したことに始まる。ブランド名は、ラテン語で光を意味する「lumi」と夜を意味する「nox」の造語。名は体を表すとはこのことで、同社は創業以来「どんな暗闇でも、瞬時に時間がわかること」を追い続けている。
その核が、自己発光システム「LLT」(Luminox Light Technology)だ。微量の放射性同位体を封入した極小のガラスカプセルを、針とインデックスに埋め込む。内壁の蛍光体が反応して光る仕組みで電池は不要。蓄光のために光を当てる必要もない。ボタンを押す手間すらいらない。
一般的な夜光塗料がしばらく光ってやがて消えるのに対し、LLTはずっと光っている。
3針・⽇付表⽰を備えたシンプルなダイヤルデザイン。幅広の逆回転防⽌ベゼルが、無⾻さを演出する。
このLLTを備えたルミノックスの時計に目を付けたのが、ネイビーシールズの装備調達に関わっていたニック・ノースという人物だった。自己発光はもちろん、軽量で頑丈なケース構造や200m防水など、ルミノックスの時計が持つスペックは特殊部隊にうってつけだったのだ。
そうしてルミノックスは、創業からわずか数年で、ネイビーシールズから部隊用時計開発のオファーを受ける。その後、実戦を想定したテストを重ね、1994年にネイビーシールズへ提供するダイブウォッチが完成。以後、米国沿岸警備隊やNYPD(ニューヨーク市警察)などの腕へと広がっていった。
暗闇で光り続ける独⾃技術「LLT」。その光は最長25年消えない。裏蓋には、ネイビーシールズを象徴する刻印。
本稿で紹介するRef.3001は、当時の支給品をベースに、現代の技術と一般社会での使用を織り込んでアップデートされたモデル。市販品の中では支給品に最も近い顔をした一本といえる。
ケース素材は「カーボノックス」と呼ばれるカーボンコンパウンド。レーシングカーや航空機に使われる素材で、非常に軽く、それでいて割れない。支給品や初期の市販モデルではPCカーボンだったが、現行はこれに置き換わった。
リューズはダブルOリング構造で密閉性を確保し、両脇にリューズガードを配置。作戦行動中の破損をあらかじめ織り込んだ設計思想が、そのまま形になっている。
なお、支給品と市販品では細部が異なり、Ref.3001は暗闇での視認性を高めるためにカプセルがやや大きい。また、支給品では文字盤の「SWISS QUARTZ」の位置に「NAVY SEALS」と印字されているそうだ。こうした差異を把握しておくと、どこかで役立つかもしれない。
専用ケース付き。本体の魅⼒的なビジュアルと機能に負けず劣らずに無骨なケース。
現在、ネイビー シールは、ルミノックスの看板シリーズとして幅広く展開されている。カラーや素材違い、ミリタリー色を薄めたモデル、〈SOPH. ソフ〉や〈NEW ERA ニューエラ〉とのコラボまで裾野は広い。ブランド30周年の2019年には、1994年の支給品を可能な限り再現した「Ref.3001 ANNIVERSARY」も登場した。
歴代モデルのバリエーションが多いということは、リユース市場に流れている種類も多彩だということ。深く掘れば掘るほど、自分の腕に相応しい1本が暗闇の中から浮かび上がってくるだろう。
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ちょうどイイ、使える“実⽤”時計
〈Swatch スウォッチ〉
「BIG BOLD JELLYFISH
ビッグボールドジェリーフィッシュ」
MoMAが認めた透明の名作
大型に進化した正統後継機
タフさや無骨さが前面に出た時計が続いたので、方向性を変えよう。芸術的なスケルトンボディが目を引く〈Swatch スウォッチ〉の名作「BIG BOLD JELLYFISH ビッグボールド ジェリーフィッシュ」を紹介する。
クリアケースと赤・青・黄の3本の針が印象的な「BIG BOLD JELLYFISH ビッグボールド ジェリーフィッシュ」。
カジュアルウォッチの代表的ブランドというイメージのあるスウォッチだが、100年超えの老舗も多い時計業界の中では、そこまで古いブランドではない。誕生は1983年。背景にあったのはクォーツショックだ。
1969年に〈SEIKO セイコー〉が世界初のクォーツ腕時計「Astron アストロン」を発売して以降、高精度で安価な日本製クォーツが市場を一変させる。機械式を主力としてきたスイスの時計産業は大打撃を受け、伝統的なメーカーが次々と廃業・身売り・規模縮小に追い込まれた。
この窮地を打開すべく生み出されたのがスウォッチだ。部品点数をわずか51点まで削ぎ落とし、完全自動組み立てを可能にしたプラスチック製クォーツ。軽やかでカラフル、そして安価。それまでのスイス時計にはなかった価値観が、世界、そして日本の市場に浸透していく。
余談だが、ブランド名の由来をご存じだろうか。「SWISS+WATCH」だと思った人はハズレ。創業者のニコラス・G・ハイエックによれば、「SECOND+WATCH」が正解。高価な一本とは別に、その日の気分や服装に合わせて気軽に楽しむ“2本目の時計”ということだそうだ。
リューズを2時位置に配置し、⼿⾸への⼲渉を抑えるなど、⽇常使いへの細かな配慮も施されている。
スウォッチは1983年に誕生してすぐ大きなムーブメントを起こすことになるが、その引き金となった1本が「JELLY FISH ジェリーフィッシュ」だ。
透明なケースとストラップによってまるごと見える機構は、まるで水中を漂うクラゲ。名前はそこから付いた。この斬新なデザインは人々の腕時計に対する認識を、時間を知る道具から、その日の気分で着けるファッションアイテムに変えた。スウォッチの定義をそのまま形にしたような一本である。
また、ジェリーフィッシュに魅せられたのは一般の消費者だけではなかった。プロダクトとして高く評価され、ニューヨーク近代美術館・MoMAのコレクションにジェリーフィッシュが永久収蔵されている。
ジェリーフィッシュのヒットによってスケルトンはブランドを象徴するスタイルとなり、以降も「JELLY SKIN ジェリースキン」「JELLY PIANO ジェリーピアノ」などのスケルトンウォッチがリリースされた。
裏蓋もスケルトン仕様。クォーツムーブメントの存在まで楽しめるのも魅⼒。
「ビッグボールド ジェリーフィッシュ」は、ジェリーフィッシュの正統な後継機だ。
スウォッチは2019年、47mmという堂々たるケースサイズの「BIG BOLD ビッグボールド」コレクションをスタート。翌2020年、そのファミリーの新作として、初代の思想をスケールアップして受け継いだ本作が登場する。
47mmの大型ケースにスケールアップしているが、腕への負担は少ない。ケースからストラップへ自然に連なる形状で、手首の丸みに沿って素直に収まる。そして、着けてみるとわかる発見もある。スケルトンの向こう側に自分の肌が透けることで、単体で眺めていたとき以上に針が読みやすいのだ。透明であることが、そのまま視認性に効いている。
スケルトンの腕時計は、日焼けや皮脂・汗などにより、時間の経過とともに徐々に黄ばんでいくもの。それを時計の老いとするならば、一緒に時を刻み、一緒に老いていくのも悪くない。
(→「クォーツショック」に関係する別の特集記事はこちら)
(→〈セイコー〉に関する別の特集記事はこちら)
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ちょうどイイ、使える“実⽤”時計
〈Swatch スウォッチ〉
× 〈OMEGA オメガ〉
「Mission to the Moon
ミッション・トゥ・ザ・ムーン」
見た目はオメガ、中身はスウォッチ
世界で長蛇の列を作った共作
スウォッチからもう一本。ただし今度は、単独ではない。あの〈OMEGA オメガ〉との共作だ。
2022年3月26日。世界各地のスウォッチストアの前に、長蛇の列ができた。太陽系の天体をモチーフに、宇宙への旅をイメージした11本からなる「Bioceramic MoonSwatch バイオセラミック ムーンスウォッチ」コレクションが発売された。そのうちの一本が「Mission to the Moon ミッション・トゥ・ザ・ムーン」だった。
オメガの名作を、スウォッチならではの発想で再解釈した「Mission to the Moon ミッション・トゥ・ザ・ムーン」。
まずは、コラボのいきさつから。
前述したクォーツショックに伴って1970年代から80年代にかけて起こったスイス時計産業の再編を経て、スウォッチとオメガは同じスウォッチグループに属することになる。ただし、傘下・兄弟ブランドという位置付けではないこともあり、長いこと両者が正面から交わることはなかった。
ところが2021年、極秘プロジェクトが始動する。きっかけは「バイオセラミック」だ。頑丈で硬く、軽さと滑らかさを併せ持つ、スウォッチのこの独自素材に、グループの他ブランドから使用のオファーが届く。スウォッチCEOのニック・ハイエックの答えはNO。しかし、この出来事を機に、「バイオセラミックを他ブランドとのコラボで使う」というアイデアが浮かぶようになり、「Project Galileo」が始動。このプロジェクトは、オメガとのコラボありきだったわけではない。あくまでバイオセラミックの使い道を考えるものだった。そして、最終的に辿り着いたのがオメガとのコラボだった。
スピードマスター の意匠を忠実に再現したクロノグラフ。漆黒の宇宙空間を連想させるカラーリングが秀逸。
準備は極秘のうちに進められ、消費者に情報が公開されたのは2022年3月。世界各国の新聞に両者のコラボを匂わせるティーザー広告を出稿。ほどなくして画像リーク・正式発表が立て続けに行われ、3月26日に世界のスウォッチ直営店でリリースされた。
オンライン販売なしということもあり、多くのファンが店頭に押しかけることに。ロンドンの店舗に2日前から並んだ猛者もいたと伝えられている。正式発表が24日で26日発売だから、発表を聞いてすぐ並んだのだろうか。並ぶスピードがマスタークラス。どの国にも、ビッグウェーブに乗ろうと行列にいち早く行動する者が一人はいるものだ。
当然、発売は日本でも話題に。広告展開も高く評価され、2022年の日経広告賞最優秀賞を受賞している。
調整しやすいマジックテープ仕様のストラップには「Speedmaster Moonwatch」と「OMEGA」の⽂字が⼊る。
ムーンスウォッチは「スウォッチが表現したオメガ」と捉えるのが正しい。「バイオセラミックを他ブランドとのコラボで使う」というアイデアから誕生している。そのため、バイオセラミックはもちろん、心臓部となるクォーツもスウォッチのもの。中身はスウォッチだ。
それでいて、名作「SPEEDMASTER MOONWATCH スピードマスター ムーンウォッチ」を思わせる左右非対称のケース形状、タキメーターベゼルの「Dot over 90(90の数値の上に打たれたドット)」、3つのサブダイヤルを備えたクロノグラフ。ルックスはオメガだ。
ただし、外見を完コピしたわけではない。細部にはスウォッチ側の作法も混ぜ込まれており、マニアが目を凝らせば「ここはオメガ、ここはスウォッチ」と読み解けるようになっているという。
また、ミッション・トゥ・ザ・ムーンは落ち着いた配色だが、シリーズの他モデルには爽快でカラフルな一本も混ざっている。この振れ幅こそがスウォッチだ。

⽉をイメージした電池カバーが特徴的な裏蓋デザイン。専⽤ボックスにはシリーズ11種の天体が描かれている。
当時の価格は260ドル。スウォッチ側の金額帯だ。これまでなかなかオメガへ手を出せなかった層が、その意匠を手軽に腕へ巻ける。これも、世界中の直営店に多くの人が押し寄せた一因だろう。
また、コラボモデルを買えなかった反動か、ブランドイメージが押し上げられた結果かは定かではないが、発売後、オメガのスピードマスター本体の売上は前年比50%増。スイス国内でムーンスウォッチをしなかった店舗の売上も41%増になったという情報もある。
ジュネーブで開催される高級時計見本市『Watches & Wonders』の直前というタイミングでゲリラ的に発表されたムーンスウォッチ。当初は5月発売の予定だったが、業界の視線が一点に集まるときを狙って急遽、発売を早めたそうだ。奇襲作戦は見事大成功。商品単体の話題性にとどまらず、商業面でも両ブランドを潤すこととなった。
時計の楽しさを教えてくれる2本。左:「ミッション‧トゥ‧ザ‧ムーン」右「ビッグボールド ジェリーフィッシュ」
タイプはまるで違うが、購入する楽しさ、身につける楽しさ、時間をみる楽しさは2本に共通している。高機能・多機能な製品が増え、もはや腕時計とは呼びにくいアイテムまで腕に巻く時代に、スウォッチは「時計は楽しむものだ」ということを思い出させてくれる。腕時計を、時間を知る道具からファッションアイテムに変えた、当時と同じように。
着けて楽しく、価格はちょうどイイ。これがスウォッチの実用性である。
(→〈スウォッチ〉×〈オメガ〉の「ミッション・トゥ・ザ・ムーン」をオンラインストアで探す)
(→〈スウォッチ〉×〈オメガ〉の「腕時計」をオンラインストアで探す)
ちょうどイイ、使える“実⽤”時計
〈ORIENT オリエント〉
「Orient Mako オリエントマコ」
サメと見間違えられた、
日本製ダイバーズの傑作
本稿のラストを飾るのは、日本が誇る老舗〈ORIENT オリエント〉の「Orient Mako オリエント マコ」。今回の6本の中では最もフォーマルに寄せられる、本格ダイバーズデザインの一本だ。
⽇本が誇る実⽤時計の傑作「Orient Mako オリエント マコ」。
オリエントの名を聞いて、「最近ニュースを見た気がする」という読者もいるだろう。オリエント時計株式会社は2026年2月1日付で親会社のセイコーエプソンに吸収合併され、法人としては消滅した。1901年に初代・吉田庄五郎が東京・上野で開いた「吉田時計店」をルーツとする、100年を優に超える歴史の区切りである。
とはいえ、ブランドが終わったわけではない。腕時計事業は2017年の時点でエプソン側へ承継されており、今回の合併は実質的に休眠していた法人を整理する手続きにあたる。オリエントの時計は、今日も作られ、売られている。
そして、このような看板の掛け替えがあってもブランドの時計づくりの姿勢は変わらない。オリエントは一貫して自社製の機械式ムーブメントにこだわり、国産らしい確かな品質と実用性を、手の届く価格で提供し続けてきた。
最高峰の「ORIENT STAR オリエントスター」、ロングセラーのドレスウォッチ「Bambino バンビーノ」、そして本格ダイバーズのマコ。この三者が、ブランドの代表モデルだ。
ブルーグリーングラデーションの文字盤は、南国の海深くを連想させる美しさ。日焼けしたようなエイジング加工が風合いに拍車をかける。
オリエントは1960年代から本格的なダイバーズウォッチを手掛けており、初代マコが登場したのは2004年。それまでに積み上げた実績を土台に、20気圧防水と逆回転防止ベゼルという基本性能を押さえながら、圧倒的なコストパフォーマンスを見せつけた。
本稿で紹介しているのは2021年登場の第4世代だ。通称「Mako4」、同時に「KAMASU2」とも呼ばれる。第3世代のシャープな針とインデックスが魚のカマスを思わせることから、ファンの間で「KAMASU」の愛称が定着。その次だから「KAMASU2」というわけだ。
そもそも、マコという名前もオリエントが付けたものではない。裏蓋のイルカのアイコンをサメと見間違えた海外のファンが、マオリ語でサメを意味する「Mako」と呼び始め、それが広まり、のちに国内でも公式な愛称となる。ファン発信のものが公式になる。名作には時折こういうことが起こる。
マコのきっかけになったイルカのアイコンは、第4世代の裏蓋にもしっかりと残っている。
本モデルの魅力はなんと言っても美しいグラデーションダイヤルだろう。美しい色合いは光の角度によって表情が変わる。また、第3世代までは長方形だったインデックスが、本作から丸型へと変更された。世代ごとに顔つきが変わるのもマコの面白さ。見比べてみてほしい。
そして外見だけではマコは語れない。傷に強いサファイアクリスタル風防、ねじ込み式リューズ、20気圧防水。本格ダイバーズとして十分なスペックでありながら、新品でも5万円を切る。リユースならもっと手頃だ。
見た目良し・スペック良し・価格良し。日本のブランドという安心感も付け加えておこう。“ちょうどイイ”腕時計と思っていたが、費用対効果はそれ以上。間違いなく、“とってもイイ”。
法人の名前は消えた。それでもマコは、これからも世界中で愛され続けるだろう。時を刻むのは登記簿の上ではない。腕の上だ。
(→〈オリエント〉の「オリエント マコ」をオンラインストアで探す)
(→〈オリエント〉の「腕時計」をオンラインストアで探す)

高機能な腕時計は世の中に溢れている。しかし、高機能=実用的とは限らない。何のために作られたかが決まっていること。その役割に最適なスペックであること。ここまで紹介してきた6本は、いずれも明確な役割を持ち、それを果たすために見やすく、使いやすく設計されている。
そして奇しくも、そのすべてが、なんらかの形で“時間の受け渡し”を経ている。復刻、進化、再解釈。呼び方は違っても、本質は同じ。過去に敬意を払い、現在の技術で作り直し、次の誰かに手渡す。名作はそうやって長く受け継がれていく。
スマートウォッチは便利だ。高級ブランドの時計は憧れだ。だが、いつの時代も私たちの毎日にちょうどイイのは、背伸びせずに巻けて使いやすい1本なのだろう。
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