FASHION

テバ、キーン、シャカなど軽快な名盤揃い。 今夏こそ、スポーツサンダルの熱波に当てられて。

夏、太陽、海。かように陽気な連想ゲームは、今年に限っては成り立たないのかもしれない。それでも暑い夏は来る。それこそ最近の日本には、うだるほどに暑い夏が来る。ならば、足元はせめて涼やかに、軽快に。

今回はずばり、スポーツサンダルにスポットを当てよう。アクティブなシーンを睨み、足元を夏の暑さから解き放つフットウェア。注目度急上昇中のサマーアイテムを眺め、履くだけで、この閉塞感からも少しは解放されるのではないか、と願いを込めつつ。

〈Teva テバ〉
ひとりのリバーガイドが生んだ
スポーツサンダルのオリジン。

具体的なモデルに言及する前に、“そもそも”の話をしておく。サンダル。正しくは複数形でサンダルズと呼ぶようだが、ともかくそれは古代オリエント文明の時代から存在した世界最古の履物とされている。平らな台に足を乗せ、バンドで固定。その簡易的な作りも手伝って、現在では様々なタイプに枝分かれした。

となると、スポーツサンダルとはナニモノか。ざっくり定義するならば、ある程度の激しい動きにも対応する機動力の高いサンダルといったとろか。アウトドアでのアクティビティを想定するため、ストラップなどによってホールド性が高められ、滑りにくく疲れにくい特殊なソールが採用されるモデルも多い。

ではいよいよ、スポーツサンダルの傑作紹介と参ろう。まずは1984年にアメリカ・カリフォルニアで生まれ、世界で初めてストラップ付きのスポーツサンダルを発表したブランド〈Teva テバ〉のマスターピースから紐解いていく。

名機の誕生は、創業者マーク・サッチャーがグランドキャニオンでリバーガイドを務めていたことに由来する。リバーガイドとは、激流の川を下る楽しさを伝える案内役のこと。ゆえに水辺での安全かつアクティブな動きを求め、足首を固定するストラップをビーチサンダルに取り付けた。そうして生み出された「ORIGINAL UNIVERSAL URBAN オリジナル ユニバーサル アーバン」こそ、スポーツサンダルのオリジンだ。

ロングセラーモデルの「ORIGINAL UNIVERSAL URBAN オリジナル ユニバーサル アーバン」。スポーツサンダルの原型とされる。

川遊びへの情熱と実用性が結実した今作は、シンプルな構造で合わせる服を選ばないのも魅力。ソックスと合わせればより街中での個性を演出でき、山岳地帯でのトレッキングシーンにも対応する。2018年にはニューヨーク ファッションウィークのランウェイにも登場するなど、機能的なギアでありながらファッションアイテムとしての評価も高い。

特徴的なヒールストラップには、ブランド名の入ったロゴも備えている。

簡素な作りながらディテールの機能性も特筆で、クッション性の高いEVAフットベッドが優れた履き心地を約束。アイコニックなウェビングテープで形成されるストラップを見ても、最近では速乾性と耐久性に秀でた再生ポリエステルで作られるなど、俗にいうサスティナビリティが意識されている。

ヘブライ語で「自然」を意味するブランドは、まさにアウトドアへの信念と畏敬を込めたモノづくりで業界をリードし続けているのだ。

〈CHACO チャコ〉
数々の独創的なアプローチで
足元に心地良い夏を呼び込む。

テバから遅れること5年後の1989年。ところ変わってコロラド州のリバーガイドだった男も、自らの経験を活かしてオリジナルのフットウェアを作り始める。というのも、創業者のマーク・ペイジェンは、コロラドへの移住前に北カリフォルニアのシューズメーカーでの勤務経験があった。そんな彼が立ち上げた〈CHACO チャコ〉のスポーツサンダルは、1本でつながった独特のストラップ形状で快適性を担保。口コミで人気を呼び、多くの製作依頼が舞い込んだ。

Z1ストラップを備えた名機「Z1 CLASSIC Z1クラシック」。

現在の代表モデル「Z1 CLASSIC Z1クラシック」にも、創業時からの機能的特徴は色濃く遺伝する。“Z1”が意味するストラップはその最たるもので、1本のウェビングストラップが足を包み込むようにホールド。どんな足型にも合うよう微調整が効くこの画期的なシステムは、他ブランドの多くのフットウェアにコピーされてしまうほど優れたフィット感をもたらす。

交差する1本のストラップの各所を引っ張ることで、履きながらでもフィット感の調整が可能に。

快適なフッドベッドも強みのひとつで、今やアメリカ足病医学協会から認定証を受けるほどだ。かかと部分が常にフッドベッドの中心に来るようにデザインされ、土踏まずのアーチサポートには足の回内運動を最小限に抑える効果が。履き続けることで足の病気予防、健康維持も期待できるというのだから驚きである。なお、アウトソールには2016年まで〈vibram ビブラム〉製が用いられたが、以降は開発に2年の歳月を費やした独自マテリアル「チャコグリップ」が後継。地面を力強く掴み、フィールドを問わず活躍する。

かかと部分が独特のフォルムのフッドベット。この「Z1 CLASSIC」は、ソール交換も可能。

また、「Rechaco リチャコ」と呼ばれるリペアサービスも、創業時より地球環境に配慮するブランドならではのアプローチ。磨耗したソールや擦り切れたストラップを交換することで、愛着のある1足との末永い付き合いをサポートしてくれる。

〈SHAKA シャカ〉
南アフリカの陽気を纏う
日本で蘇った“逆襲のシャカ”。

1990年代に入ると、ウェビングベルトを備えたスポーツサンダルの有用性は世界各地で受け入れられていく。そして、“そもそも”のサンダルと同様に、デザイン的な派生も見られるように。南アフリカにルーツを持つ〈SHAKA シャカ〉は、その代表的存在だ。自社工場で編まれたアイコニックなトライバル柄のテープが洒落者たちの心までホールドし、1990年代後半には日本でも知名度を高めていった。

しかし、2000年代に入るとブランドが突如消滅。ただし人気は根強く、むしろ幻の名品としてリユース市場などで存在感を高めていく。その流れを受けて、2013年には復活の時を迎える。しかも、ここ日本で。衣料品や雑貨の輸入・製造・販売などを行う「BLUEMOON COMPANY ブルームカンパニー」によって蘇ったスポーツサンダルは、当時のアーカイブを忠実に再現する一方、ソールの強度やクッション性をより高めてオリジナルの先を見据えている。

伝統的なトライバル柄ストラップを採用した「HIKER ハイカー」。

主たるモデルとしては、「HIKER ハイカー」を挙げておこう。これまで取り上げたスポーツサンダルとは異なり、足の甲を余さず包み込むようなストラップ構造をとっている。つま先からかかとまで保護されるため、安全性が向上。足の甲、足首、かかとの3点にベルクロを備え、それぞれのフィット感を調整できる点も白眉だ。

3点に備えられたベルクロが、安定した履き心地に直結。

今作はブランド消滅前から存在するロングセラーアイテムでもあるが、復活後のモデルには日本人の足型に合わせたアップデート版もラインナップ。スペシャルな快適性を、お膝元ならではの愉悦とともに味わいたい。

〈KEEN キーン〉
まったく新しい発想で
従来のサンダルを超えていく。

「サンダルはつま先を守ることができるのだろうか?」。そんな素朴な疑問のもと2003年にスタートしたブランドは、現在のスポーツサンダル界でも異彩を放っている。アメリカ・オレゴン州ポートランドにて、ヨットマンでもあったローリー・ファーストによって創業された〈KEEN キーン〉。そのファーストモデルに当たる「NEWPORT ニューポート」は、つま先を保護するトゥ・プロテクションを備え、「靴を超えたサンダル」と称された。

初代「NEWPORT ニューポート」を改良し、水陸両用となった「NEWPORT H2」。

サンダルでありながら、つま先を守るという新しい発想を具現化し〈KEEN〉の象徴となった。

「NEWPORT H2」は、初代の流れを汲みながら水辺での着用に寄り添ったモデル。速乾性を持ち、汚れにも強いポリエステル素材をアッパーに用いることで、水陸両用のハイブリッド仕様となった。同じく速乾性の高いライニング、立体成型されたEVAフットベッドなども見逃せないポイントだ。

アッパーとソールユニットが同化した「YOGUI ARTS ヨギ アーツ」。

2007年に初登場を飾った「YOGUI ARTS ヨギ アーツ」にも触れたい。最大の見どころは、軽量な圧縮EVA製のアッパーとソールユニットが一体となったフォルム。そこに耐摩耗性とグリップ力に優れたノンマーキングラバーソウルがドッキングされ、シーンを選ばない使い勝手の良さを発揮する。タイダイを思わせる柄を纏う写真のモデルなど、夏らしいデザインバリエーションも多彩だ。

アウトソールのパーツには、耐摩耗性とグリップ力に優れたノンマーキングラバーソウルを採用。

足の大部分を包むデザインだけに、ソックスの有無や素材で履き分ければ、1年を通して頼ることのできる相棒候補になるだろう。

創業者の長男が手掛けた「UNEEK ユニーク」は、今やブランドを代表する存在。

そして忘れてはならないのが、「ハイブリッド・フットウェア」という概念を引っ提げて登場したモデル「UNEEK ユニーク」だ。手掛けたのは、“フットウェア界のステーィブ・ジョブズ”との呼び声も高いローリー・ファースト・ジュニアその人。創業者の長男として、父から与えられた「何年かかってもいいから今までにないものを作れ」というお題と約3年間も向き合い、まったく新しい1足を作り上げたのだ。

「次世代のスニーカー」の名に恥じず、快適性をもたらす数々のテクノロジーを秘める。

伸縮する2本のコードと1枚のソールから作られるそれは、もはやサンダルの領域を超えたと言っても差し支えないだろう。事実、キーンにおいて今作はサンダルではなく「次世代のスニーカー」と定義される。

前述した、抜群の快適性をもたらす特徴的なコード構造「インターロッキングコードシステム」のほかにも、速乾性があって水が染み込みにくい「キーン ドライ」や、クッション性とフィット感を追求した「マイクロファイバーフッドベッド カバー」など、数多くのソリューションを搭載。汗によって発生する匂いや菌の増殖を抑える「クリーンスポート エヌエックスティ」まで完備し、万全の構えでハイブリッドの頂に立つ。

〈REEBOK リーボック〉
&〈NIKE ナイキ〉
有名スポーツブランドが生んだ
ストリートに映える傑作たち。

トリを飾るのは、2つの世界的シューズブランドが誇る怪作。まずは、1900年誕生のランニングシューズに端を発する〈REEBOK リーボック〉より、「BEATNIK ビートニック」を紹介しよう。
(→〈Reebok〉に関連する記事はこちら

オリジナルはアウトドア用のサンダルとして1993年に登場。とはいえ日本での正規取り扱いはなく、知る人ぞ知るレアものとしてカルト的人気を集めた。その後、2018年の復刻に伴って日本でも正式販売が開始されている。

かつて日本でも一大ブームを巻き起こした「BEATNIK ビートニック」。丸みを帯びたシルエットが愛らしい。

贅沢なスエードアッパーの真ん中を縫い合わせたセンターシーム、エッジィなジグザグを描くリップソール(シャークソール)、フィット感を細かく調整できるベルクロストラップ。’90年代のストリートを席巻した個性的なディテールは、復刻版においても変わらない。懐かしくも斬新なデザイン。そこに唯一無二の魅力が見出せる。

スエードアッパーを縫い合わせたセンターシーム、サメの歯のようなリップソールなど、ディテールは必見。

‘90年代における隆盛を知るものであれば、ビートニックというモデル名にも大きく心動かされたことだろう。連想されるのは無論、‘50年代の「ビート・ジェネレーション(ビートニク)」。自由を生きがいとする彼らの思想はヒッピーとの親和性が高く、’90年代のネオヒッピー的な文化とも合致。一説によると今作は、彼らが好みそうなモデルを想定して生み出されたとされる。

さて、もうひとつ紹介したい1足は、厳密に言えばサンダルではない。しかしデザインを見ればわかるように、その優れた機能性はここまで紹介してきたスポーツサンダルと多分に通じる。1996年に生まれ、フットウェア界に特大のインパクトをもたらした「AIR RIFT エアリフト」をもって、本項の結びとしたい。

かつてないビジュアルで、ストリートに衝撃を起こした「AIR RIFT エアリフト」。

ご存知の通り、手掛けたのは〈NIKE ナイキ〉。さすがの独創性である。最大の特徴は、二股に分かれたつま先。どことなく日本の足袋を思わせるデザインだが、実はアフリカ大陸を縦断する巨大な谷、大地溝帯をモチーフとしており、その英語名「Great Rift Valley」をモデル名の由来とする。というのも、今作はケニア人アスリートのフィードバックを得て作られ、実際にマラソンのメジャー大会でも着用されたたランニングシューズだったのだ。ちなみに、ファーストモデルの大胆なカラーパレットもケニアの国旗から着想を得ている。

(→〈NIKE〉に関連する記事はこちら

特徴的な二股のつま先。どことなく、足袋を思わせるデザインだが……。

アッパーには伸縮性に富んだネオプレンが取り入れられ、ラバーストラップとベルクロでホールドする開放的な仕様。それでいて走行性の高さを証明するのだから、やはりスポーツサンダルと呼ぶのはためらわれる。だがしかし、アクティブで新鮮で軽快、そして街でも映えるファッション性は、改めてスポーツサンダルの醍醐味と見事に合致するではないか。

以上、夏を盛り上げる数々のスポーツサンダルのなかで、お気に入りは見つかっただろうか。着用フィールドを選ばない機能的かつ開放的な1足。それはやはり、今夏の奇妙な冒険にも相応しいのだ。

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