CULTURE
Military wear Vol.01

「適応ゾーン」を軸に理解する。フライトジャケットの系譜。

ミリタリーウェア。
至極当然ではあるが、一般的には軍隊に所属する兵士たちのための軍用装備品であり、おおむね戦闘服を指していると理解して間違いないであろう。だが同時にミリタリーウェアは、それ自体であったり、またはそれをデザインソースとするミリタリーテイストのアイテムであったりと、現代に生きる我々の生活にファッション、いわば普段着としてすっかり溶け込んでいる。 ミリタリーウェアの中でも、特にアウターとしての「ミリタリージャケット」の人気が高いことは、街を行き交う人々の多くが着用していることからも明らかだ。

今回の『knowbrand magazine』は、ミリタリージャケットの中でもこの時期のアウターとしてすっかりお馴染みとなった「MA-1」に代表される「フライトジャケット」の傑作の数々にフォーカスしてみようと思う。MA-1だけではない魅力的なフライトジャケットの世界を覗き見て欲しい。

フライトジャケットの適応ゾーン。

そもそもミリタリージャケットには、大きく分けて二つの系譜がある。ひとつは主に陸地での戦闘の際に着用される野戦用の「フィールドジャケット」。そしてもうひとつが戦闘機などの飛行機乗りたちのための航空用「フライトジャケット」だ。

特にフライトジャケットは型式で呼ばれたり、デザインが似たものも多かったりと戸惑う方も多いだろう。やみくもに並べ立てると混乱してしまうそれらを整理しながら把握しようとする時、その一助となり得るのがフライトジャケットの「適応ゾーン」である。

戦闘機・輸送機が飛行する高高度は、気温や外気圧が大きく変化する極めて過酷な環境だ。そのため防護機能はもちろんのこと防寒機能を兼ね備えたフライトジャケットの開発は軍にとっては必須であった。そこでアメリカ軍では以下に示す通り、高度や気温などによる5段階の「適応ゾーン」を設け、各々に応じたフライトジャケットを開発してきた。

・VERY LIGHT ZONE(ベリーライトゾーン):30℃〜50℃
・LIGHT ZONE(ライトゾーン):10℃~30℃
・INTERMEDIATE ZONE(インターミディエイトゾーン):-10℃~10℃
・HEAVY ZONE(ヘビーゾーン):-30℃~-10℃
・VERY HEAVY ZONE(ベリーヘビーゾーン):-50℃〜-30℃

今回は日本におけるデイリーユースでの着用を前提に「ライトゾーン」「インターミディエイトゾーン」「ヘビーゾーン」の3つのゾーンを軸として、各々の領域における代表的なモデルとその誕生の背景や機能性、デザインの魅力などをみてゆく。こうすることで大雑把ではあるがフライトジャケットを系譜として理解できるのではないだろうか。

LIGHT ZONE:10℃~30℃ (ライトゾーン)

「ライトゾーン」と呼ばれる10℃から30℃までの気温域用に開発されたフライトジャケットは「夏季」用とされ、防寒性よりも機動性が重視されたモデルが多いといえる。

その代表的モデルがフライトジャケットの中でも傑作として名高い「TYPE A-2」だ。俗にいうアメカジファンにはA-2の人気はとりわけ高く、1963年公開の映画『THE GREAT ESCAPE(大脱走)』でA-2を着用した主演のスティーブ・マックィーンは、カリスマとされ、劇中のA-2を忠実に再現したリプロダクトモデルが生まれるほどだ。 襟付きのボディは馬革(ホースハイド)製、フロントには大きなフラップ付きポケット、前立てにはジップ、袖と裾にはニット製のリブが取り付けられている。

アメリカ陸軍航空隊(のちの空軍)の「TYPE A-2」

1931年、アメリカ陸軍航空隊(のちの空軍)に制式採用され1945年まで使用されたA-2。レザー製であるため誤解されやすいが、A-2はあくまでも夏季用ジャケットだ。よって意外にも日本では長いシーズンで着用できることに加え、汎用性が高いシンプルなルックスも人気の理由といえよう。またA-2のもつ不変性は、1988年、デザインはほぼそのままに山羊革(ゴートスキン)製となり空軍に復活採用されているという事実からもわかる。

夏季用ジャケットのためライナーは薄い

ライトゾーンにおいて多くの飛行士たちに愛用されたA-2であったが、その後継モデルは類似点がほぼ見つからないほど異なるジャケットとなる。

背景となったのは、第二次世界大戦による深刻な物資不足。その影響がA-2の素材となる皮革にまで及んだのだ。そのため高価で限りあるレザーに代わる素材として、当時開発されたばかりの世界初の合成繊維「ナイロン」が採用された。こうして1945年、強度に優れ、安価なナイロンが採用され完成したのが「TYPE L-2」だ。そのデザインはA-2から一新されたものであった。一見、後述する「MA-1」と酷似しているが、エポレット、フロント裾のストームフラップ、そしてライトゾーン用ゆえ中綿が入っていないなど相違点は多い。 デザイン面ではほぼ変わることなく1950年の「L-2A」を経て、1955年の第3モデル「L-2B」で最終型となるL-2シリーズ。ブルゾン感覚で羽織れる薄手で軽い着心地は、春先や秋口に重宝するアイテムである。

「TYPE L-2B」

肩のエポレットと中綿なしの薄いつくりが特徴的

INTERMEDIATE ZONE:-10℃~10℃ (インターミディエイトゾーン)

インターミディエイトゾーンは、-10℃から10℃までの気温域だ。ライトゾーンとヘビーゾーンの中間領域であるため防寒性と機動性を兼ね備えたバランスのとれたフライトジャケットの名品が多く誕生している。 この領域の礎を築いたのが羊革(シープスキン)を使った内ボアのモデル「TYPE B-6」であった。だがライトゾーンにおけるA-2からL-2への移行と同じく、第二次世界大戦の影響による皮革不足により、インターミディエイトゾーンでも非レザー化が急務となる。

皮革の枯渇に対応すべく大量生産可能なコットンツイルを使用した「TYPE B-10」が1943年に暫定的に採用された。しかし1945年にはライトゾーンのL-2と同じく、素材をナイロンに変更したB-10の進化系「TYPE B-15B」が誕生。ムートン製の襟、ボディ両脇のスラッシュポケット、左腕のユーティリティポケットなど、現代に繋がるフライトジャケットのベースがここに整った。先述のL-2のデザインベースとなったのもこのB-15といわれている。 陸軍航空隊は1947年、アメリカ空軍として独立。そして1950年に生まれたのが空軍カラーのエアフォースブルーを纏った「B-15 C」だ。このモデルは1954年マリリン・モンローが韓国に駐留中のアメリカ兵を慰問した際に着用したことでも知られている。

エアフォースブルーの「TYPE B-15C」

ムートン製の襟と左腕のユーティリティポケット

戦闘機がプロペラ機からジェット機へと進化し、スピード、飛行高度ともに増す中でパイロットの装着するヘルメットも大型化した。それに伴いB-15に改良が加えられ1957年に誕生したのが、傑作中の傑作「「TYPE MA-1」だ。ミリタリーユース、デイリーユース含め世界中でもっとも愛用されてきたとフライトジェケットといっても過言ではないだろう。

「TYPE MA-1」

洗練されたリブのみのシンプルな襟廻り

B-15によって培われた機能性を受け継ぎつつ、ヘルメットとの干渉を考慮し、ムートン襟は取り払われリブへと変更。襟が廃されたことで極めてシンプルながら機能美に満ちたデザインへと昇華された。時代に応じ改良が加えられながらおよそ20年間採用されたことに加え、空軍だけでなく海軍、陸軍にも採用されたことからも、フライトジャケットはこのMA-1でひとつの完成形を迎えたのだ。 それゆえ、リプロダクト製品はもちろん、数々のブランドがデザインソースとして取り入れ、毎年多くのMA-1タイプのアウターが生まれている。MA-1はフライトジャケットをファッションアイテムとして浸透させた立役者的アイテムでもあるのだ。

ところでインターミディエイトゾーンには、もうひとつ忘れてはならないフライトジャケットの傑作が存在する。アメリカ陸軍航空隊のA-2と並び称されるアメリカ海軍航空隊により開発された「TYPE G-1」だ。 G-1の前身となるモデルは、当初その開発過程において陸軍と海軍による共同開発であった。しかしライバル関係にあった両軍は相容れず、その後、海軍専用のジャケットとして受け継がれ、1950年G-1として完成することとなる。

アメリカ海軍航空隊の「TYPE G-1」

アメリカ海軍(U.S NAVY)を表す「U.S.N」のステンシル

素材は山羊革(ゴートスキン)、腕の機動性を高めるためのアクションプリーツが設けられている。加えて羊のムートンボア製の襟が防寒性を高めていることからも、ライトゾーンのA-2との機能性の違いがわかるだろう。映画『トップ・ガン』で主演のトム・クルーズが着用していることで日本でも一気に知名度が上がったG-1。事実その機能性から日本の秋冬アウターとしても十分活躍してくれるアイテムなのだ。G-1は1976年でその役目を終えたが、1984年に再採用されていることからも、A-2同様、いかに完成されたジャケットかが窺い知れる。

HEAVY ZONE:-30℃~-10℃ (ヘビーゾーン)

-30℃から-10℃という極寒の温度域は、パイロットたちにとって寒さ自体が命に危険を及ぼす凶器となる極限の世界だ。そのため、とにかく寒さから身を守るスペックを備えることを至上命令として開発されたのが、ヘビーゾーン対応のフライトジェケットだ。その宿命ゆえ、先述の二つのゾーンにおける飛行服とは一線を画す独特なデザインを有している。

極厚手の羊の毛皮(シープシェアリング)が惜しみなく使用され、類稀なる防寒性を誇るのが、1934年に陸軍航空隊に制式採用された「TYPE B-3」だ。

「TYPE B-3」

大きな襟と裾に装備されたストラップベルトや右身頃にのみあるオープンポケットなどディテールもさることながら、極めてボリューミーでパワフルなルックスは、フライトジャケットの中でも突出した存在といえる。 だが第二次世界大戦による皮革不足は、当然ヘビーゾーンのフライトジャケットにも影響を及ぼす。B-3に続きシープシェアリングを使用したロング丈の「TYPE B-7」はわずか1年で製造を終了。1943年には、表地にコットンツイル、ライナーに初のキルティングダウンを採用した「TYPE B-9」が誕生したものの、こちらもダウン不足のため1年で姿を消すことになる。

そして1945年に登場するのが、ナイロンを採用した「TYPE N-2」「TYPE N-3」である。

N-2は、MA-1に似たシルエットながら、最大の特徴は、ジップによってセンターからセパレートになるファー付きの大型フードであろう。加えてと防風性を考慮した二重の前立てにより、MA-1を凌ぐ防寒性を実現。N-2シリーズは、1947年の「TYPE N-2A」を経て1950年「TYPE N-2B」として最終型となる。

「TYPE N-2B」

センターのジップで分割できるギミックのフード

一方のN-3は、セパレートしないファー付きの大型フード、二重の前立て、さらに腰まで覆う着丈の長さにより極寒の状況下でも高い保温性を確保できる。だが戦闘機の狭い操縦席では、その着丈の長さが仇となり、やがて機内ではなく屋外で地上作業を行うクルーに愛用されるようになってゆく。

「TYPE N-3B」

防寒性を高めるファー付き内ボアの大型フード

その後1947年の「N-3A」を経て、さらに洗練された1953年の最終型「TYPE N-3B」は、機能美の塊であり、現代のファション界にも多くの影響を与えたマスターピースといえよう。極寒地での着用はもちろん、グローブを付けたままでも使いやす大形ポケットなど、そのスペックの高さからバイカーたちのアウターとしても人気が高い。

ギアやウェアを含めミリタリーアイテムは、実に奥深い世界だ。フライトジャケットだけをとっても、コレクターやマニアは世界中に多く存在しており、ある種その延長線上でリプロダクトやアレンジされたアイテムが生み出されているともいえる。

ところで、なぜ我々はここまでフライトジャケットをはじめとしたミリタリーウェアに惹かれるのだろうか。

ミリタリーウェアを身にまとうからとて、なにも争いを好んでいるのではない。

きっと鍛え抜かれたそのデザインと機能美に、純粋に惹かれるからではなかろうか。

80年代、90年代スタイルのリバイバルによって普及したビックシルエットのトレンドの中、現代風にモディファイされたものだけではなく、武骨なシルエットのオリジナル(本物)が再び脚光を浴びている。

本物であれ、現代風であれ、ファッションという文脈で気軽にフライトジャケットを捉え、日々のコーディネートに取り入れてみることで、その秀逸なデザインと機能美の数々を堪能できるだろう。それもまたオシャレの楽しみ方のひとつなのだ。

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