FASHION

あのミュージシャンの愛用品 〈リーバイス〉〈コンバース〉〈ラングラー〉etc.…

無二の生き様が神性を帯びる、伝説のミュージシャン。神託ともいうべき彼らの名曲は時に甘く、時に激しく我々の心を揺らし、得体の知れないチカラを分け与えてくれる。

時空を超える生粋の表現者はまた、その身に纏うスタイルでも尊敬と憧れを集める。英雄たちから深い愛を注がれたアイコニックなアイテムは、価値と意味合いがブースト。信者にとっては根源的、ファンならずとも潜在的な影響を強くもたらすのだ。

耳にするだけで自然と続きを口ずさんでしまう名フレーズよろしく、目にするだけで食指が伸びる「あのミュージシャンの愛用品」。いざ開演である。

あのミュージシャンの愛⽤品①
ボブディランと〈LEVI’S リーバイス〉の
ジーンズ 「551Z」

本稿のはじめを飾るミュージシャンは、2025年2月に公開された映画『名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN』で、人気俳優ティモシー・シャラメが演じ話題となった生きる伝説 ボブ・ディラン。フォーク、カントリー、ロック、ブルース……。生み出す曲調の幅は自由自在。人間の内面にも社会情勢にも鋭い目を向け、11度ものグラミー賞をはじめ、アカデミー歌曲賞やノーベル文学賞も受賞する。ボブ・ディランほど「史上最高のシンガーソングライター」の栄誉に相応しい人物はいないかも知れない。

2ndアルバム『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』のジャケット写真には、551Zを穿いたボブ・ディランの姿が。肩を寄せ合う恋人スージー・ロトロもまた、「551Z」と縁深い人物。

そんな彼が好んで穿いたと噂されるのが、〈LEVI’S リーバイス〉のジーンズ「551Z」だ。1954年に登場した「501ZXX」に次ぐ1961年生まれのジップフライモデルは、洗濯後の縮みを極力抑える世界初のプレ・シュランクデニム。大腿部から裾にかけてゆるやかなカーブを描く細身のテーパードシルエットでも人気を呼び、のちの「505」誕生の呼び水になった。

細身のテーパードシルエットを持つ551Zは1961年生まれ。写真のアイテムは、同年代をモチーフにした日本製の復刻モデル。

551Zを穿いたディランの姿は、代表曲『風に吹かれて』を収録する2ndアルバム『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』で確認できる。肩を寄せ合ってNYグリニッジ・ヴィレッジを歩く女性は、当時の恋人であるスージー・ロトロ。実は彼女こそ、ディランと551Zの繋がりにおけるキーパーソンなのだ。

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パッチのZが示すように、フロントはジッパーフライ。比較的ライトオンスで、腰回りには適度なゆとりが…のちの名作「505」のルーツとしても知られる。

その結びつきの証明となるのが、1963年にリリースされた4thアルバム『アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン』のジャケット。ここでもディランは同じく551Zを着用しているとされるが、モノクロ写真をよく見ると裾の内側にU時型の当て布が見られる。スージーのアイデアによって、ブーツが履きやすいよう布を継ぎ足して裾幅を広げたのだ。

当時はフレアカットやブーツカットの誕生前夜。現在ではその先駆けとしても認知される、愛が生んだ至極のカスタムといえよう。なお、同様のリメイクを施した551Zは2019年に本家「LEVI’S Vintage Clothing リーバイス・ビンテージクロージング」から正式に発売されている。

いずれにせよ、ディランの活動に大きな影響を与えたとされるスージーは、音楽的裾野だけでなくデニムの裾まで広げたのは確か。彼女がディランと出会わなければ、ディランと551Zの蜜月はなかったのか。その答えはやはり、風に吹かれている。

(→〈リーバイス〉の「551Z」の「ジーンズ」をオンラインストアで探す) 

(→「リーバイス」の「ジーンズ」に関する別の特集記事はこちら)

 

あのミュージシャンの愛品②
エルヴィスプレスリーとLEVI’S リーバイス
Gジャン「507XX」(通称2nd)

お次は“ロックンロールの帝王”、エルヴィス・プレスリーの愛用品にフォーカス。ラブ・ミー・テンダー、ラブ・ミー・スウィート。レッツ・ロック、エブリバディ・レッツ・ロック。脳裏に焼きついて離れない強烈なフレーズを数多く残す彼は、同じく数多くの傑作に紐づけられるファッションアイコンとしても崇拝される。

エルヴィス・プレスリーは、1957年上映の主演映画『さまよう青春』にて「507XX」を着用。シャンブレーシャツ、501とのコーディネイトは今見ても圧巻。

アメリカ発のウォッチメイカー〈HAMILTON ハミルトン〉が手掛けた世界初の電池式腕時計「ベンチュラ」は蛇腹式のベルトに付け替えて常用し、〈BARACUTA バラクータ〉のハリントンジャケット「G9」は映画『闇に響く声』にて着こなした。彼が纏うのは単なるファッションでなく、スタイルそのものなのだ。

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写真のモデルは1950年代後半のヴィンテージ。パッチは欠損しているものの、まさしくお宝級のアイテムだ。

なかでも今、エルヴィスの寵愛品として紹介したいのがリーバイスのGジャン「507XX」である。「2nd TYPE セカンドタイプ」とも呼ばれる本作は、1952年から1962年までに⽣産されたもの。短い着丈やアクションプリーツなどのベースデザインは、「1st TYPE ファーストタイプ」である「506XX」を踏襲する。

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ビッグサイズならではの「ハギ付き」がアイコニック。胸のフラップ裏にはオンスの軽い⽣地が採⽤され、「BIG E ビッグ E」の⾚タブも。

一方で、片側だけだった胸ポケットを両側に備え、背⾯のシンチバックは排除された。その代役としてウエストにはボタン調整が可能なアジャスターをあしらうなど、デイリーな方向性に進化。細くなったアームホールからも、ワークウェアからファッションウェアへの意識転換が垣間見える。

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身頃内側のセルビッジが、まがいなきヴィンテージの風格を物語る。

昨今再評価の機運著しいGジャンにあってとりわけ大きな存在感を放つ507XXのなかでも、エルヴィスが主演映画『さまよう⻘春』で着用したのは「ハギ付き」と言われる特別なモデルだ。

両脇の下部にそれぞれデニム生地を接(は)ぎ合わせた42インチ以上のビッグサイズにだけに見られる仕様で、現在における希少価値の高さは言及するまでもなし。180cm以上の大柄な体躯をセクシーにくねらせたエルヴィスに当然ながらよく映え、稀代の数奇者である彼からしても好きにならずにいられない銘品であった。

(→〈リーバイス〉の「507XX」の「Gジャン」をオンラインストアで探す) 

(→〈リーバイス〉の「デニムジャケット」に関する別の特集記事はこちら)

あのミュージシャンの愛品③
ジョンレノンとWrangler ラングラー
Gジャン 「111MJ」

同じくGジャンだが、次に取り上げるのは〈Wrangler ラングラー〉の傑作。1950年代に誕生した「111MJ」を公私問わず愛用したのが言わずと知れたビートルズのリーダー、ジョン・レノンその人である。

シーンのオン・オフを問わず、ラングラーの「111MJ」を愛用したジョン・レノン。最上部のボタンだけを留めた着こなしがユニーク。

ステージ上でもプライベートでも111MJを着用したジョンの写真は多く残されているようだが、いずれも最上部のボタンだけを留めるのが彼のお決まりのスタイル。着方によって濃度を増すオリジナルのイマジン、ファン垂涎のアイテムであろう。

定番のボックスシルエットながら、リーバイスやリーのGジャンと⽐べると着丈は長くやや細⾝。

ひとくちにGジャンと言っても、先に紹介したリーバイスのそれとはディテールが確実に異なっている。1950年代の復刻で㈱ラングラー・ジャパン製である写真のアイテムは、前⾝頃の両側に2本のプリーツを備え、独特の丸いカンヌキ留めで生地を補強。ラングラーの頭⽂字「W」を模った胸ポケットのステッチングは「サイレントW」と呼ばれ、ブランド名の「W」が発音されないサイレントレターであることに由来する。

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フロントだけでなく、袖口やウエスト周りにもシンボリックなディテールが散見。

ショルダー部分には可動域を広げるゴム製のアクションプリーツを設け、ウエストの両サイドにはシンチベルトを装備。袖⼝は使い勝⼿の良いスナップボタンで飾られる。袖口の奥側にも、⽣地の破れを防⽌するためのノースクラッチリベットが存在。この平坦なリベットは、もともとウエスタンウエアの製造が中⼼だったラングラー社によって⾺を傷つけないために考案されたもののようだ。

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ショルダーのアクションパネル、背中のプラスチックパッチもオリジナリティを伝える。

総じて111MJは、ラングラーというブランド名を正しく代弁するカウボーイ(牧童)のために生まれた服であった。ちなみに、ラングラーという英語はカウボーイの別称であると同時に、「ケンカや口論をする人」という意味合いを持つ。

あらゆる場所で111MJを身に纏ったジョン。彼はケンカや口論ではなく歌と身姿によって、ラブ&ピースの重要性を説いた。全てを肯定すれば答えが見つかる。好きに生きたらいいんだよ、と。

(→〈ラングラー〉の「111MJ」の「Gジャン」をオンラインストアで探す) 

(→〈ラングラー〉に関する別の特集記事はこちら)

あのミュージシャンの愛⽤品④
カート・コバーンとCONVERSE コンバースのスニーカー
JACK PURCELL ジャックパーセル」

暗闇を疾走する流星さながら、儚くも美しい輝きを放ったグランジの象徴。カート・コバーンの装いとして強くイメージされるのは、チェックシャツやモヘアカーディガン、はたまたクラッシュデニムか。いや、足元を飾った〈CONVERSE コンバース〉の「JACK PURCELL ジャックパーセル」も忘れてはならないアイコンだ。

グランジ・ロックからグランジ・ファッションが派生するなど、カート・コバーンの与えた影響は計り知れない。落書きした「ジャックパーセル」は、彼の不滅のアイコンのひとつ。

1935年に⽣まれたジャックパーセルは、同名のバドミントン世界王者とともに開発。シグネチャーモデルの草分け的存在である。ただし、アイテムから想起される人物としてはカートのほうが著名。それほど圧倒的なインパクトがあった。

コンバースのなかでも「ALL STAR オールスター」と並ぶ名作として評価が高い「JACK PURCELL ジャック‧パーセル」。

モデルとしての大きな特徴はふたつ。まず挙げるべきは、トゥの溝に⼊るライン「スマイルマーク」だろう。その名の如く笑った口元のようにカーブしたディテールは、いまだにデザインの意図が不明瞭。モナリザ的神秘性もまた、人々を惹きつけてやまない。

チャームポイントは「スマイルマーク」と「ヒゲ」。時代によって変わるソールデザインも見所に。

もうひとつも、“顔”にまつわる意匠だ。ヒールラベルに配されたふたつの三角形、「ヒゲ」の愛称で親しまれるデザインである。とはいえこちらのデザインソースは明確で、実は顔を覆う髭にはあらず。内側を⾼く、外側を低く設計した、初期のインソールを記号化したものだ。

さらに、アウトソールにも注⽬すべきポイントが。リリース当時はウェーブスリットソールや波状の溝が⼊ったヘリンボーンソールが使われたものの、現在ではフラットなスラブソールが主流。その変換がファン心理に働きかけ、付加価値を生む。

写真のモデルは、VIBRAM社によるMEGAGRIPソールを採⽤。防滑性と耐摩耗性が格段に向上している。当のカートを支えたのは、いかなるソールだったであろうか。あるいは、彼のユニークな“落書き”の意図とは? そんな楽しい想像を巡らすことは、決して自身の無駄遣いではないはずだ。

(→〈コンバース〉の「ジャックパーセル」の「スニーカー」をオンラインストアで探す) 

(→〈コンバース〉の「スニーカー」に関する別の特集記事①はこちら)

(→〈コンバース〉の「スニーカー」に関する別の特集記事②はこちら)

 

あのミュージシャンの愛⽤品⑤
マイケル・ジャクソンとG.H.BASS G.H G.Hバス
ローファー「
LOGAN ローガン」

錚々たるスターが並んだ本稿のトリは、やはり彼をおいて他にいるまい。卓越した歌唱力と斬新なダンスで世界を驚かせ続けた“キング・オブ・ポップ”。マイケル・ジャクソンの愛したローファーを探っていこう。

トラックパンツにローファーを合わせ、圧巻のダンスミュージックを披露したマイケル・ジャクソン。言動のすべてが話題を呼び、絵になる、正真正銘のスーパースターだった。

その筆頭として取り上げたいのが、〈G.H.BASS  G.H.バス〉の「LOGAN ローガン」だ。1876年にアメリカ・メイン州で創業したG.H.バスは世界ではじめてローファーを制作したブランドとしても知られ、「WEEJUNS ウィージャンズ」と名付けられたコレクションを展開。ローガンはそのなかで最もベーシックなモデルとされる。

G.H.バスの定番「LOGAN ローガン」。一説によると、ノルウェーの靴職人が作ったモカシンをルーツとするローファー。その元祖コレクション「ウィージャンズ」は、「ノルウェーの」という意味を持つ。

⽣産当初からほぼ変わらないマッケイ製法で縫われており、袋のように⾜を包み込む快適な履き心地が特徴。アッパーには上質なガラスレザーを使い、美しい艶を湛える。伝統と機能性が潜む煌びやかなルックスは、内実ともにマイケルに相応しい。

トゥにはU字のモカシン縫いが施される。⽴体的な仕上がりによって、つま先が窮屈になりにくい。

ステージ上で、はたまたMV内で、漆黒のローファーに純白のソックスを添えて俊敏に踊る。そんな“ブラック&ホワイト”が知名度を広げたのは1980年代以降だが、実はそれ以前にも大流行の実績が。アイビールック全盛の1950年代に、1セント硬貨をサドルの⽳に挟むスタイルで一大ブームを巻き起こしたのだ。

インソールとアウトソールにはそれぞれ、しっかりと「WEEJUNS」のロゴが記される。

以降、同デザインの靴がコインローファーやペニーローファーとも呼ばれるきっかけになったとも囁やかれるマスターピース。ローガンの足跡は、服飾史の観点からも見逃せない。

さらに同ブランドにはもう一足、マイケルから寵愛を受けたローファーがある。それが、ローガンと双璧をなす人気モデル「LARSON ラーソン」。一見すると同じように見える両者だが、サドル(甲部分のあて⾰)を見れば差は明らか。

ローガンと同じくハイシャインレザーで作られた「LARSON ラーソン」。ぱっと見は大差ないように感じるが……。

その両端をモカシン縫いで巻き留めたような仕様は、「ビーフロール」と呼ばれる。文字通り、“⽷で巻いた⾁”を連想させるディテールが甲の部分にボリュームを付与。ローガンに比べて、いっそうカジュアルな見え方に貢献する。

写真左がローガンで、右がラーソン。ビーフロールの存在感は明らか。

シャープで上品なローガンか、クラシカル&タフなラーソンか。マイケルが絶大な信頼を置いた名作だけあって、どちらも白黒つけ難い。

(→〈 G.Hバス〉の「ローガン」の「ローファー」をオンラインストアで探す) 

(→〈 G.Hバス〉の「ラーソン」の「ローファー」をオンラインストアで探す) 

(→「ローファー」に関する別の特集記事はこちら)

本物は本物を知る。使い古された表現だが、本物が愛したアイテムにはそれなりの理由が存在し、その在り方が未来にも繋がっていく。愛され続けた本物は、次なる本物を生むトリガーにもなり得るはずだ。

後世に多大な影響を与えたミュージシャン、そして彼らをひときわ輝かせた傑作の数々。両者の関係性にリスペクトと感謝を捧げつつ、貴重な今を精一杯楽しく生きていきたい。

Illustration: Hisayuki Hiranuma

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