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チノーズ、カーゴパンツ、ベイカーパンツ。 タイプ別で知る、ヘビーデューティーな定番ボトムス【後編】

先に公開された【前編】では、ワーク由来のヘビーデューティー・ボトムスを紹介した。そのなかで取り挙げた〈GRAMICCI グラミチ〉の創設者、マイク・グラハムはこう語っている。「モノづくりにおいて根本から細部に至るまで、すべての部分において“そうであるべき理由(目的)”が無ければならない。なぜそのシェイプなのか、なぜそのように縫うのか。すべての細部には“目的”が備わっているべきである」と。

細部にわたるまで理由があるということが、使う人間のためのユーティリティ性に結びつき、日々のアクティビティをより良いものへと変えていくのである。その点でいえば、目的を遂行するために生み出されたジャンルの最たるものである、ミリタリー由来の“軍パン”はまさにその代表格といえよう。

軍パンの歴史はここから始まった
クラシックでトラディショナル
「チノーズ」。

“軍パン”と聞くと、反射的に6ポケットのカーゴパンツを思い浮かべる人が多いことだろう。だが、その元祖は?と問われれば「チノーズ」が最適解。日本ではチノパンツ、または略してチノパンと呼ばれる。その起源は1890年代のインド。当時、かの地に駐留していたイギリス陸軍のハリー・バーネット・ラムズデンが考案したといわれている。その頃のイギリス陸軍の軍服のパンツは白だったため、目立ちやすく汚れやすいという欠点があった。そこで彼は、斥候時に敵の目を欺きやすいように、あるアイデアを思いつく。現地で調達したコーヒーとカレー粉と桑の実を濁った川の水にミックスして、生地をカーキ(ヒンズー語で泥や埃の意味)色に染めたのだ。このパンツは戦闘で出血しても真っ赤に染まらず、兵士がパニックを起こしにくいという利点も。こうした機能性が実証され、のちにイギリス陸軍に正式採用されることとなる。だがここで疑問が。なぜ、カーキ色の軍パンがチノーズという名前になったのか?

話のバトンは、イギリスからアメリカへと渡る。1898年、アメリカはキューバをめぐったスペインと戦争に勝利し、フィリピンの統治権を獲得。その約10年後、同地駐留用の軍服生地として買い付けられたのが、英国で大量生産され中国へ輸出されていたカーキ色の布地。これがチノーズの語源となったチノクロス(“チノ=中国の”という意味)。第1次世界大戦中にフィリピン駐屯のアメリカ陸軍の作業着として用いられたのが、今日のチノーズの始まりとされる(諸説あり)。その後、細部をアップデートしながら1941年に完成した、世界初のフィールドジャケット&パンツが「M-41」だ。第2次世界大戦に従軍記者として派遣された、文豪のアーネスト・ヘミングウェイが着用していたことでも知られる。こうして誕生したチノクロス製のプレーンなパンツは、通称“41(ヨンイチ)カーキ”と呼称され、現在のチノパンの原型となった。

さて、このカーキ色という言葉に対し、多くの人はスモーキーなグリーンを思い浮かべる。だが本来は、先述の生い立ちが示すように土埃や砂の如きベージュ色。まったく色味の異なるグリーン系=カーキだと勘違いされるようになったのには、こんな説がある。迷彩柄が日本に輸入された頃、すでにチノーズは軍パンの代名詞となっていた。そこで“カーキ=軍服の色”という勘違いから、迷彩柄に使われる色もカーキと呼ぶようになった……と。英語圏でもカーキの定義が混同されているようではあるし、ブランドごとの見解は様々。そこはケースバイケースということで良いのかもしれない。

色の話ついでに、生地の話も少々。そもそもM-41は指揮官である将校用。ゆえに一般兵士より上質であるべきという考えから、微光沢のある高級綿糸を双糸使いし、高密度で織り上げた右綾の生地が用いられた。この生地は、通常のチノクロスよりも丈夫で光沢にも優れており、米国陸軍ウエスト・ポイント士官学校の制服に由来することから、ウエストポイント(略してウエポン)と呼び習わされる。実際、41カーキの特長を受け継ぐ本格的なチノパンは、この生地で作られていることが多い。メンズクロージングを語る際のウンチクとして、覚えておいて損はない。

以上の歴史を踏まえた上で、今回は〈Buzz Rickson’s バズリクソンズ〉の「EARLY MILITARY CHINOS 1942 MODEL アーリーミリターチノズ 1942モデル」を用意した。同ブランドの設立は1993年。ミリタリーウェアの名品の数々を、“より本物に忠実であるか”という視点で復刻し、マニアたちに支持されている。

〈Buzz Rickson’s バズリクソンズ〉の「EARLY MILITARY CHINOS 1942 MODEL アーリーミリターチノズ 1942モデル」

ご覧の通り、1942年に採用された太めのシルエットを忠実に再現。フロントも伝統的なボタンフライ、左右のバックポケットは両玉縁仕様。ボタンホールの間には比翼止めステッチが入っているなど、クラシックなトラウザーのディテールがしっかり押さえられている。

バックポケットは両玉縁。身生地と共生地でポケット口を処理したものを指し、英語ではパイピング。手間暇のかかる仕様なので“丁寧な仕立て”の目印でもある。

内側に縫い付けられたタグのカラーの項目には、「khaki カーキ」の表記が。

この他の特徴としては、尿素樹脂製ボタンなどがある。これは、現在主流となっているプラスチックボタンの開発以前に使われていたもの。原材料の段階で着色されているので、傷が目立ちにくく、その点も重宝された。ジーンズに次いで、男のボトムスに欠かせないチノーズ。頑強で機能性に優れ、しかもイージーケアで汚れが目立たないと、まさにヘビーデューティー。ぜひ、映画『大脱走』のスティーブ・マックイーンのように、ラギッドに着こなしてもらいたい。

サイドポケットが最大の特徴
誰しもが思い描く、ザ・軍パン
「カーゴパンツ」。

世間的には軍パンといえばコレ!という人も多いことであろう「カーゴパンツ」。カーゴとは貨物や積み荷を意味し、元々は貨物船の乗組員が穿いていたという。そういう意味ではワーク由来ともいえよう。軍パンとしての初登場は、1942年にアメリカ軍でパラシュート部隊の精鋭のみに支給された「M-42 パラトルーパーパンツ」というモデルから。これを皮切りに、各国の軍隊で戦闘用パンツとして採用されたといわれている。中でもフランス軍の「M-47」などは、その高い完成度に惚れ込んだマルタン・マルジェラが、自身のショーでモデルに着用させたことでも有名。

しかしながら、我々がカーゴパンツと聞いて想像するものは、やはりアメリカ軍のもの。その後の1951年に、アメリカ陸軍が寒冷地用として開発した「M-51」で、現在の軍パンにおける基本フォーマットが確立される。ではここで、1963 年に誕生した通称「JUNGLE FATIGUE PANTS ジャングルファティーグパンツ」をサンプルとして、そのディテールを紐解いていくとしよう。ヴィンテージも含め、リユース市場で人気が高い同モデルの正式名称は、「TROUSERS,MAN’S,COMBAT,TROPICAL トラウザーズ メンズ コンバット トロピカル」。以前に『knowbrand Magazine』でも紹介した「COAT,MEN’S,COMBAT,TROPICAL コート メンズ コンバット トロピカル」と対になるパンツだということは、名前から一目瞭然か。

(→「COAT, MAN’S, COMBAT, TROPICAL」に関連する記事はこちら

実際に手に取ると分かるが、ベトナムなどの高温多湿な熱帯地方を想定して開発されたため、生地はかなりライトウェイト。5th TYPEまで存在する同モデルにおいて、コットンポプリンを用いたのはこの3rd TYPEまで。以降は、格子状に織り込まれた補強糸で引き裂き強度を高めた、リップストップコットンへ変遷していく。

「JUNGLE FATIGUE PANTS ジャングルファティーグパンツ」こと 「TROUSERS, MEN’S, COMBAT, TROPICAL トラウザーズ メンズ コンバット トロピカル」。こちらは1967年製の3rd TYPEだ。

ここでジャングルファティーグパンツの細部に再フォーカス。最大の特徴といえば、両太モモ外側部分に配置された大型の「カーゴポケット」に他ならない。楽器のアコーディオンを想起させる形状から、アコーディオンポケットとも呼ばれるこのディテール。先述のM-42にて初めて姿を現し、現在ではボタン付きかつパッチ&フラップ式のものが主流となっている。

サイドのシーム(縫い目)も内側に隠れるインターロック式となっているため、すっきりした印象。だが、続く4thでは再び、縫い目をダブルステッチに変えて露出。より堅牢性を求めた結果だと推測される。

サイドのシーム(縫い目)も内側に隠れるインターロック式となっているため、すっきりした印象。だが、続く4thでは再び、縫い目をダブルステッチに変えて露出。より堅牢性を求めた結果だと推測される。

また、この3rd TYPEからはヒザ部分にアクションプリーツが追加され、より運動性が向上。加えて、それまでボタン式だったウエスト部のアジャスターもスライドテープ式に変更。バックポケット上部のシーム(縫い目)も含め、この3rd TYPE特有のディテールとなっており、どれも年式を見分ける際の必須ポイント。いつか鬼教官から、年式によるディテールの違いについて質問された時のためにも、頭の片隅に覚えておきたい。

ウエスト部のアジャスターが、それまでのボタン式からスライドテープ式に。バックポケット上部のシームも、3rd TYPE特有のディテール。これらが年式を見分ける際のポイントとなる。

内側のタグに記されたコンストラクションナンバーから製造年が分かる。こちらは「DSA 100-67-C-3343」とあり、67の数字は1967年製を指している。DSAとは、「Defense Supply Agency(国防補給局)」の略で、1961年から1977年までこのように呼称されていた。

ボディ内側にある、名称、品質、取り扱い方法などのスペックを表記したタグにも注目。こちらのコンストラクションナンバーを見れば、簡単に年代が判別可能。このように一見するとなんでもないディテールの1つ1つが、生産背景のみならず当時の情勢までも読み解くことができる重要なパズルのピース。これらに触れ、当時に思いを馳せるのもミリタリーウェアにおける大きな楽しみといえるだろう。ちなみに同タイプのパンツで有名なのは、M-51の後継モデルとして1965年に開発された「M-65」。極太シルエットが魅力で非常に人気が高いことで知られるが、こちらについてはまた別の機会に譲るとしよう。

パン屋が履いた…わけではない
ミリタリー由来のワークな1本
「ベイカーパンツ」。

ここまでの2つが軍パンの王道だったので、最後は変化球として「ベイカーパンツ」をピックアップ。【前編】で取り挙げた「ペインターパンツ」がそうであったように、なぜか用途とは関係のない名前を冠する同モデル。野戦用のカーゴパンツに対し、こちらは作業や基礎訓練、工場など幅広く穿かれた作業用。要はワークパンツだ。なので、本来の名称は、実用的なパンツを意味する「UTILITY PANTS ユーティリティーパンツ」。また、作業パンツを意味する「FATIGUE PANTS ファティーグパンツ」とも呼ばれる。ではなぜ日本では、ベイカー(パン職人の)パンツなのか。もちろんパン職人が履いていたという事実はなく、実は謎。これについては、某デザイナーが「このデザインの白いタイプをパン職人が穿いていたとか、パッチポケットが食パンのように見えるからなど、名前の由来には諸説あるが、実際アメリカでは耳にしないようなので、90年代に生まれた和製英語かもしれない」と語っているので、その説が有力かと。

さて、このタイプのパンツがアイコンとして認知されているブランドがある。1972年にアメリカ・テキサス州で設立された〈GUNG HO ガンホー〉だ。いまだにUSAメイドと伝統的なクラシックデザインにこだわり、質実剛健なもの作りで30年以上にわたって支持されている。近年では往年の雰囲気を踏襲しながら素材やシルエットを、よりファッショナブルにアップデートしたラインも展開。とはいえ、やはり昔ながらのワーク然とした武骨なルックスが、我々の思い描くイメージ。というわけで看板モデルの「BAKER PANTS ベイカーパンツ」をご覧いただこう。

〈GUNG HO ガンホー〉の看板アイテムといえば「BAKER PANTS ベイカーパンツ」。

前開きはボタンフライ、フロントにはベイカーポケットと呼ばれる大型のL字型パッチポケットが左右に1つずつ、バックの両側にも1つずつフラップ&パッチポケットを装備。他のミリタリーパンツとは異なり、すべてのポケットが別布を貼り付けるパッチ式なのは、手間が掛からないため生産性が高く、かつ丈夫なことが理由と考えられる。これも作業用パンツという用途から、より大量供給が必要だったとすれば理に適った考察。ちなみにブランド名は、熱心なさま、忠誠を尽くすさまを表す英単語に由来。これは米国海兵隊で使われる、士気を高めるための掛け声でもある。

今もUSAメイドを貫く同ブランド。誇らしげに主張するタグ、そして武骨な後ろ姿が男心をくすぐる。

ベイカーパンツは、構造もデザインも必要最低限かつシンプルであることが最大の魅力。ジーンズやチノーズと同じく、主張しすぎないがゆえ、日々のコーディネートに溶け込みやすい。何にでもマッチする万能性は現代でも色褪せることなく、これぞベーシックの真髄。

【前・後編】に渡って、ワーク/ミリタリー由来のヘビーデューティー・ボトムスについて深掘りした結果、導き出された結論。それが「タフでなければ生きていけない(=耐久性)。優しくなれなければ生きている資格がない(=機能性)」という、フィリップ・マーロウの如きハードボイルド精神が息づいているということ。そこに男たちは心惹かれるのではないだろうか。

梅雨明け間近の街には、徐々に夏の気配が。だが、何が起こるのかわからない先行き不透明な毎日であるのは相も変わらず。しかしそんな中でも、人は懸命に生き抜かねばならない。かといってハードボイルドにというのは、ちょっとハードルが高い。ならばせめて、ヘビーデューティーなボトムスを穿いて街へ出よう。さすれば、我らもハーフボイルドくらいには……。

【前編】はこちら

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