メンズが着倒すべき人気ブランドの名作Tシャツとは?【前編】ヴィンテージ代表〈チャンピオン〉からストリート代表〈ベイプ〉まで
首筋を伝う汗を受け止め、肉体の躍動を包み込むこのアイテムが、夏の季語であると同時にメンズカジュアル・ファッションの基本のキであることは皆が知るところ。
世界的に高騰著しいヴィンテージのスタンダードから、あの頃のストリートを盛り上げたクラシックまで。時代とともにその種類は広がり深まり千差万別。その中でも、時代を超えてなお愛され続けるモノには語るべき背景と魅力があり、人々を惹きつける。
反面、問題もある。バンドTやムービーT、さらにはアニメTまで軒並み価格は青天井。かつて身近だったはずなのに手の届かない存在になりつつある寂しさよ。だからこそ今、改めて問いたい。「本来のTシャツの価値とは、着てこそではなかったのか?」と。そこで今回は『know brand magazine』が注目する名作を、“着倒す”という視点で前・後編に分けてお届けする。
そもそも“Tシャツ”とは?
まず知るべきは、その定義。広げた際にアルファベットのT字型になる、袖が短くノーカラー&プルオーバーのシャツ。これがTシャツだ。現在では性別、年齢、季節に関係なく、ファッションのベースアイテムの1つとして、多くの人々に愛されているわけだが、元々はメリヤスや天竺と呼ばれる伸縮性素材を使用した下着として誕生した。
永遠の定番(スタンダード)である白Tシャツ。元々は下着として誕生した。
これを第一次世界大戦時にフランス軍が採用し、さらにそれをアメリカ軍が持ち帰ったことによりアメリカ国内、ひいては世界中に普及していったとされる。我が国では、第二次世界大戦後のGHQ占領統治期に少しずつその存在が知られるようになったものの、当時のメリヤス製品はあくまでも肌着。表に出して着用するという発想自体、存在していなかった。
そこに転機が訪れる。経済改革を進めるGHQの方針のもと、アメリカを含む輸出先の需要に合わせて、丸首シャツ(現在のクルーネックTシャツ)の製造がスタートするのである。さらに日本に駐在するアメリカ兵やその家族のTシャツ姿を見た若者たちの間で、オシャレなものとして認知されるようになり、1970年代にジーンズと並ぶ若者の象徴として市民権を得ることとなる。憲法改正、教育改革、政治改革、そしてTシャツの普及。戦後のニッポンは、これらの礎の上で成り立っていることを忘れるべからず。
では、ここから5枚の名作を順に見ていくとしよう。
メンズが着倒すべき名作
〈Champion チャンピオン〉
「ダブルフェイス」のTシャツ
表裏どちらも使える
リバーシブル仕様の憎いヤツ
かつては中古衣料と呼ばれていた古着。そこに1990年代、新たな価値観が加わる。その名はヴィンテージ。本来、豊作年に作られた極上のワインに使われていたこのワードは、転じて古く値打ちのあるモノを意味するようになり、令和の今へと至る。
まずはこのヴィンテージと呼ばれる一群から、時代を越えて多くの人々に愛され続けてきた正真正銘の一軍を招集。先頭を飾るブランドは、1919年にアメリカで創業したアスレチックウェア界の雄〈Champion チャンピオン〉。縦編みの生地を横向きに配置し、防縮を叶えたリバースウィーブのスウェットやフーディで知られるが、他も名品だらけ。通称「ダブルフェイス」のTシャツもまた然り。
裏と表の両方で楽しめる〈チャンピオン〉の「ダブルフェイス」Tシャツ。
その正体は、2つの生地を貼り合わせたリバーシブル仕様。体育の授業などで集団を2つにチーム分けした際の着用を想定して生まれたというのが定説で、日本でいえば紅白帽。表裏のない人物は信用がおけるというが、1枚で2度美味しいダブルフェイスの信用度はさらに高い。
落ち着きのあるネイビーカラーの表面には、アメリカはペンシルベニア州ピッツバーグにある著名な私立大学予備校の名をアーチ型に配置。対するイエローの裏面は通常であれば無地だが、本個体では学生らしい血気盛んな手書きのメッセージが躍る。
また出自を語るネームタグは首元の背タグが主流だが、ダブルフェイスではどちらで着用しても邪魔にならないよう裾に付くのが特徴。ちなみに本モデルでは、ブランドロゴが青いバーの中に描かれた通称「バータグ」が採用されている。シンプルなデザインだからこそ、こういったディテールに注視するのも楽しい。
表裏両方で着用するダブルフェイスの特徴の一つが裾に付くタグ。着用時に邪魔にならずストレスフリー。
リユース市場においても、様々な配色のダブルフェイスが確認されている。せっかくならば、自分らしい配色の1着を探してみてはいかがだろう。
(→〈チャンピオン〉に関する別の特集記事①はこちら)
(→〈チャンピオン〉に関する別の特集記事②はこちら)
(→〈チャンピオン〉の「Tシャツ」をオンラインストアで探す)
メンズが着倒すべき名作
〈Champion チャンピオン〉
フットボールTシャツ
胸と背中に刻まれしは、
ナンバリングとチームの看板
さらにチャンピオンのターンは続き、よりスポーティーさを増したフットボールTシャツの出番。胸と背面に施された切り替えと肩口から脇にかけてグルリと囲むライン、さらに前後にはナンバリング。見ての通り、アメリカンフットボールの選手がプロテクターの上から着用していたユニフォームから着想を得たもの。
ヴィンテージの〈チャンピオン〉のフットボールTシャツ。 袖はカットオフされている。
前後に大きく「76」のナンバリング、加えて背中には「FALCONS」の文字を添える。おそらくチーム名と元オーナーの背番号なのだろう。ファルコンの勇壮な姿をあしらった袖はカットオフされているが、ファッションとしてのフットボールTシャツの例に漏れず、5分袖〜7分袖であったと考えられる。ちなみにゲームで着用するユニフォームは腕の可動域を広げ、素早い動きやタックルが出来るように半袖がデフォルト。
カットオフされた袖口に舞うのはファルコン(ハヤブサ)。 アメフトの荒々しいプレーを想起させる意匠だ。
フロント左下のタグにも目を向けてみよう。年代によって内容こそ異なるが、ブランド名、サイズ、洗濯表示を記載するという実用性と、デザイン的アクセントしての役割。その両方を果している点は変わらない。
「CHAMPION KNITWEAR CO.,INC」はチャンピオンの前身会社名。表記内容から1960年代のものと推測される。
ここで、ナンバリングに関する小ネタを1つ。フットボールTシャツに欠かすことの出来ないこのディテールは、2つの意味合いから普及したとされる。1つ目は、アメリカの大学における貸し出し用運動着の管理ナンバーとして。貸し出したまま返却が滞る運動着たち。その対策としてナンバリングを振り、管理を徹底して返却を呼び掛けていたとか。
2つ目は、アメフト競技での背番号の着用義務から。ポジションごとに細かなルールが存在する同競技。審判の素早い判断のために導入されたとも。ともにまことしやかに囁かれているが真偽の程は不明。誰かに話したければ、あくまで噂というスタンスで…いざトライ!
(→〈チャンピオン〉の「Tシャツ」をオンラインストアで探す)
メンズが着倒すべき名作
〈Disney ディズニー〉
ヴィンテージ「ミッキー‧マウス」の
リンガーTシャツ
夢の国生まれ、
世界一の人気者マウスをリンガーで
お次は、愛らしい表情やしぐさが老若男女を虜にしてきたキャラクターTシャツからのエントリー。皆様ご存知、夢の国〈Disney ディズニー〉のトップランカーにして“世界一の人気者”こと「ミッキー‧マウス」が堂々登場。しかもそれが、いかにも古着なムード満点の「リンガーTシャツ」とくれば、生みの親・ウォルトも思わずニッコリ。
前後ともに愛らしさ満点。両面プリントがファンには嬉しい「ミッキー‧マウス」のリンガーTシャツ。
最大の特徴は、首元と袖口が身頃とは別配色の輪(リング)状にデザインされている点にあり、首部分はリンガーネックと呼ばれる。別名「トリム」Tシャツ、「パイピング」Tシャツ。何にしてもアメカジスタイルとの相性の良さは比類なし。
ここでのポイントはミッキーの姿。黒目のみで肌の色は白。こちらはオールドミッキー、クラシックミッキーとも呼ばれる古き良きスタイル。1940年頃には顔の色合いや目の描き方が変更され、より表情豊かで人間味が増していく。

首元と袖口に入ったパイピングのライン=リング。 これが名前の由来だ。
最初にお見せした画像からも分かるように、バックスタイルではミッキーと「California」の文字も反転した凝ったデザイン。ミッキーに限らず、ディズニーものは多種多様。お気に入りの1枚をじっくりとリユースマーケットで探してみるのも面白い。
そしてその際に注意すべきは真贋。本アイテムの「The Walt Disney Company」のようにコピーライトが記載されていれば基本安心だが、許可なく入れることも出来るため、100%本物の証明と断じることは難しい。なのでリユースマーケットで探す際は、信頼の置けるショップを頼ることを忘れずに。

「California」の文字の下には、小さく「The Walt Disney Company」のコピーライトが。
いくつもの時代を経て、オンリーワンな存在となった古着のTシャツたち。どれも着倒すには腕を要する猛者揃い。
そういえば、フランスのディズニーランド パリ内のアパレルショップに、2018年からディズニー古着を集めた“Corner Culture Vintage”が存在していることは意外と知られていない。当時の取材記事では、アメリカ・フロリダのウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートや東京ディズニーリゾートなど、世界のディズニーランドでも導入を検討中と報じられていたが、その後どうなったのだろうか…続報を求む!
メンズが着倒すべき名作
〈A BATHING APEア ベイシング エイプ〉
「APE HEAD エイプヘッド」のTシャツ
あの頃、裏原宿を熱狂させた
類人猿のシルエット
キャラクターTシャツのアメリカ代表がミッキー・マウスならば、ジャパニーズストリートの代表は2足歩行の類人猿。裏原宿生まれのブランド〈A BATHING APE ア ベイシング エイプ〉、略して〈BAPE ベイプ〉の他にないだろう。
ブランド設立は1993年、生みの親の名は「NIGO ニゴー」。2013年に惜しまれながらも同ブランドのクリエイティブディレクターの席を辞したが、その後も〈LOUIS VUITTON ルイ‧ヴィトン〉や〈KENZO ケンゾー〉といったハイブランドで辣腕を発揮している、稀代のクリエイター…なんて話は言わずもがな。
そんなベイプのアイコンといえば、創業当初から存在し、当時の裏原キッズであれば誰もが憧れたこのデザイン。フロントに大きく描かれた類人猿のシルエットは、通称「APE HEAD エイプヘッド」と呼ばれる。
〈ア ベイシング エイプ 〉のアイコンといえば、泣く子も二度見するこの「エイプヘッド」。
元ネタは、1968年制作のSF映画『PLANET OF THE APES(猿の惑星)』。その劇中に登場する3種族のエイプ(類人猿)たちの中でも、平穏な市民層として描かれたチンパンジーの顔から着想を得たという。誕生から30年以上を経てなお衰え知らずの神通力はLike a 斉天大聖。まさにさる者引っ掻くもの。近年のリバイバル人気を支える原動力となっている。
ちなみに、今年2025年は(25 ニゴー)=NIGOの年。この機会に改めて名作に立ち返り、往時の裏原宿カルチャーと彼の偉業に想いを馳せつつ“着倒す”というのも良きかな。
(→〈ア ベイシング エイプ〉に関する別の特集記事①はこちら)
(→〈ア ベイシング エイプ〉に関する別の特集記事②はこちら)
(→〈ア ベイシング エイプ〉の「Tシャツ」をオンラインストアで探す)
メンズが着倒すべき名作
〈A BATHING APEア ベイシング エイプ〉
「1st CAMO ファースト カモ」のTシャツ
灰色のストリートに溶け込む、
大胆素敵なカモフラージュ柄
ベイプを取り挙げておきながら定番のカモフラージュ(迷彩)柄に触れないなんて、ヒロシもジュンもタクヤも許してはくれない。先述のエイプヘッドと並び、創業当初から人気を二分するマスターピース。それが通称「1st CAMO ファースト カモ」。
「ファースト カモ」は、文字通り同ブランド初となるカモフラージュ柄。
カモはカモでも、戦闘用ではなく狩猟用のハンティングカモフラージュ柄をサンプリング。模様の中に巧みに溶け込むのはブランドの象徴・エイプヘッド。映画『最後の猿の惑星』劇中のセリフ「APE SHALL NEVER KILL APE(猿は猿を殺すべからず)」と、その一方で行われる人間狩り=マンハント。この両方を繋げて着想を得たと思われる。
のちに、別名「ベイプカモ」とも呼ばれるこの柄をまとったアイテムは、著名人の多くが着用したこともあって、定価を遥かに超えるプレミア価格で売買されるほど人気に。そんな状況を予見していたかのように、背タグには「WORLD GONE MAD」の文字が。直訳するならば「狂った世界」か。これが実際は何を意味していたかは ベイプを創生した神(NIGO)のみぞ知る。

年代により異なるタグのデザインも、ベイプの魅力の一つである。
袖口には、ベイプのもう一つのアイコンであるエイプヘッドを配したピスネームが。ワンポイントにもなるこのディテールは、多くのアイテムに縫い付けられ、ベイプのアイテムであることを示す存在証明としてファンの記憶に刻まれていった。
本来は周囲に紛れ、溶け込み、そして同化するためのカモフラージュ柄。この仕掛けを逆に、周囲との差別化を図るためのアドバンテージとして取り入れてみる。するとどうだろう。大胆かつ派手な模様がスタイリングに奥行きを生み出し、無彩色のコンクリートジャングルに唯一無二の存在感が浮かび上がる。カモフラ柄不遇の今こそ、取り入れる最良のタイミングと言えよう。
(→〈ア ベイシング エイプ〉の「Tシャツ」をオンラインストアで探す)
1951年公開の映画『欲望という名の電車』。同作の劇中でマーロン・ブランドが見せた、汗だらけのグレーのTシャツ姿。これが今日まで続くTシャツの繁栄、その最初の一歩であったことは間違いない。
そこから70数年の時を経て、我々は今日もT字型のそれに袖を通し、日々を生きる。どんなアイテムよりも明確に自分自身のセンスとアティテュードを体現し、それでいてもっとも気軽に纏えるメンズ・カジュアルファッションの基本のキとともに。
続く【後編】では、ストリートブランドの草分け的存在〈STUSSY ステューシー〉から、絶対的王者として君臨する〈SUPREME シュプリーム〉、ストリートとモードを繋ぐ〈Maison Margiela メゾン マルジェラ〉の3ブランドを取り挙げる。

