FASHION

「スカジャン」とは何か? 実は知らない名前の由来、刺繍の意味を歴史から紐解く。

ファッションは自由だ。お気に入りのデザイン、贔屓のブランド、快適な着心地。何を優先するも、結局は着用者次第。人の好みは千差万別であり、コーディネートのパターンも人の数だけあっていい。

しかし、となると何を選べばいいやら逆にわからなくなるのも人の性。その迷宮において、“モノの本質”が脱出に導く光となる。いかに生まれ、どう作られたのか。理由と背景を知ることで、感覚的選択に深みと厚みが生まれるからだ。

さて、今回のテーマは「スカジャン」。デコラティブな装飾が目を引くジャンパーはどんな経緯で誕生し、独特な刺繍にはどんな意味が秘められているのだろうか。細部までじっくり紐解いていきたい。

ひとりのアイデアから生まれた、
捲土重来のジャンパー

まずは、名前にまつわる素朴な疑問。スカジャンの“スカ”とは何を意味するのか。ずばり、答えは「横須賀」である。賢明な読者諸兄姉においては、いささか幼稚な問いだったであろうか。ただし、正確に言えば横須賀で生まれたわけではない。その辺りから話を進めよう。

時は1940年代後半。第二次世界大戦後の混乱が蔓延し、東京も焼け野原からの復興を目指していた。爆弾と攘夷弾が霰の如く降り注いだ、銀座・有楽町界隈も御多分に洩れず。そこには着物などの日本の工芸品を売る露店が並び、勝利の手土産(スーベニア)を吟味する米兵で溢れかえっていたそうだ。

因果応報。容赦のない現実。しかし、逆境は時に飛躍の糧となる。当時生地の輸出入を担っていた港商商会(現在の東洋エンタープライズ)の社員のひとりが、画期的なアイデアを思いつく。米兵が好むオリエンタルなモチーフを、彼らに馴染みのあるベースボールジャケットに載せて販売したのである。

そう、これこそがスカジャンのオリジン。つまり、その発祥は東京・銀座であるとした方が正しいはずだ。とはいえ捲土重来の一着は瞬く間に人気を博し、全国各地のPX(米軍基地内の売店)はおろか海外の米軍基地でまで販売経路を広げていく。

1950年当時、港商商会は95%のシェアを占めるスカジャンメーカーに成長。その遺伝子は現在のテーラー東洋に受け継がれている。

アメリカへの恐怖が憧れへと変わり始めた1970年代以降は、逆輸入的に日本の若者からも支持を獲得。その頃は主に横須賀基地周辺で売られていたことから、スカジャンの名前が浸透していった。

そして現在も、生みの親である港商商会のDNAはしっかりと息づく。後進である東洋エンタープライズ内のブランド、〈TAILOR TOYO テーラー東洋〉がその正当な担い手。横振りミシンという特殊な機械を用いて当時と同じ手法で作られるスカジャンは、時代に左右されない美と迫力を湛えている。

その土台となる素材にも、スカジャンならではのストーリーが。独特の光沢とドレープ感を持つアセテートレーヨンのボディは、戦後の物資統制を受けてシルクの代用として採用されたもの。ここにも、苦境を跳ね返す芯の強さを垣間見ることができる。

刺繍の代表的なモチーフ①「鷲」
米国的理想像を日本の原風景に重ねて

続いては、スカジャンの醍醐味である刺繍を深掘りしていく。まず紹介するのは、猛禽類の頂点に君臨する「鷲」について。数あるモチーフのなかでも、特にアメリカ的な色の濃い猛々しい刺繍だ。

というのも、米国内において鷲は国鳥とされ、国章や金貨にも描かれるほど人気と知名度が高い。また、強さ・勇気・自由の象徴とも言われるように、鷲は米兵の描く理想像とも合致。ゆえに、スーベニアとして描かれるには最高の素材だったのだろう。

黒いサテンボディの背面を、鷲の刺繍が大胆に舞う。スカジャンのお手本とも言うべきメリハリあるデザイン。

一方で、スカジャンに舞う鷲の周りには日本を象徴する花である桜が配置されることが多い。言うまでもなく和洋折衷のわかりやすい表現であり、淡いピンクの桜を細かく描写することで構図に奥行きが生まれ、主役の鷲をより立体的に見せる狙いもあるようだ。

桜や富士山という日本的モチーフを従えることで、スーベニア的なムードがアップする。

写真のモデルのように、桜だけでなく富士山も鷲と相性の良いモチーフとして知られる。日本一の標高を誇るFUJIYAMAを眼下に望む、天空の支配者。数多の深読みが頭をよぎることだろう。

ちなみに、スカジャンは表裏で二度美味しいリバーシブル仕様が一般的。こちらの鷲モチーフの裏面には、何が描かれているのか。次項で確認していこう。

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刺繍の代表的なモチーフ②「虎」
中国の伝承をもとにしたアジア的獰猛

裏面の主は、陸の王者だ。威風堂々した姿の虎が背面に描かれている。こちらも鷲と同様、スカジャンの代表的な意匠。雄々しい咆哮が轟かんばかりの圧倒的迫力は、まさに主役級の存在感を放つ。つまり今作は、両A面と呼ぶに相応しい二大巨頭の揃い踏みとなる。

鷲バックと虎バックのリバーシブルである今作は、過去に開催されたスカジャン展でのリクエストに応えた復刻品。

古来より戦国武将の通り名に流用されるなど、強者の代名詞とされてきた虎。ただしご存知の通り、虎は日本には生息しない動物である。我々にとっては、中国に棲むイメージが強いであろう。事実、彼の国では災いを追い払う獣としても崇められていた。

いずれにせよ、受け取り手によってニュアンスの違いが表れるのもスーベニアの魅力のひとつ。アメリカ人にとってみれば、同じアジアを根城とする虎に日本のイメージを重ねても不思議ではないのだ。

その勇ましい姿から、「ロアリング(轟音)タイガー」とも呼称される虎の刺繍。

鷲と桜がそうであったように、虎にも対となるモチーフが存在する。それが笹、元を辿れば竹である。両者が結びついた理由は諸説あるが、とりわけ有力なのが中国の伝承を紐解いたもの。虎が象に襲われた際に竹藪へと逃げて難を逃れたという話から、虎の安住の地である竹藪を覆う笹がスカジャンにも描かれるようになったという。

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刺繍の代表的なモチーフ③「龍」
大胆な構図で幸福と神秘性を象徴する

竜ではなく、龍。西洋的ドラゴンとは似て非なる東洋の神獣もまた、スカジャンに描かれるアイコニックな絵柄である。こちらもルーツは中国。幸運・財産・幸福をもたらすとされ、日本でも信仰の対象として神社仏閣等でその姿を拝むことができる。

2024年の干支、辰年に因んだ復刻バージョン。ヴィンテージにならい、あえて変色させた刺繍糸を使う。

龍をモチーフとする刺繍は、構図のバリエーションが実に多彩だ。その理由として考えられるのは、胴体の長さである。写真のスカジャンのように自ずと他のモチーフと複雑に絡み合うことができるほか、胴体をうねらせることで別の絵柄に姿を隠すことも可能。結果、神秘性がより際立ってくる。

天高く舞い上がるスカイドラゴンの刺繍。このモチーフにはスカジャンに関係するある説も存在。

なお、本作は龍が描かれた側を裏返すと、漆黒の虎が姿を表す。ボディカラーはグリーンとは打って変わり、エネルギッシュなレッドに染められた。その鮮やかなコントラストを強調するべく、虎だけでなく富士山などの絵柄も黒で統一される。

もう一面は、潔い黒赤の虎バージョン。リブに採用された白も相まり、シックに映る。

それでも、退屈さとは無縁。針足を複雑に変えて刺繍を重ねるなど、立体感と陰影の表現に並ならぬクラフツマンシップが感じられる。虎の見事な毛並みは、とりわけ驚嘆に値。こんな日本的作り込みも、スカジャンの真骨頂だ。

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刺繍の代表的なモチーフ④
「ALASKA アラスカ」
スカジャンの成功を物語る
特別なスーベニア

鷲、虎、龍。スカジャンを飾る荒々しくも神聖な生き物を並べてきたが、この辺りで少々変化球を。ここで取り上げるモチーフは動物ではなく、生物ですらない。アメリカ最北端に位置する極寒の地「ALASKA アラスカ」である。

背面下部の「AMERICA’S LAST FRONTIER」というメッセージは、アラスカの過酷な環境を代弁する。

前述のように、銀座で生まれ、横須賀にて名付けられ、世界中の米軍基地でも売られていたスカジャン。その流れを汲み、米軍基地からの依頼によって新しい絵柄が制作されることも少なくなかった。その代表例が、このアラスカジャンなのだ。

白熊、稲妻、犬ぞりが載る豪華仕様。ライン入りのリブもレアなディテールだ。

写真の一着は、胸元に稲妻と白熊が、袖のライン代わりに雪原の移動手段として活躍した犬ぞりが、それぞれ刺繍されている。素材には、一般的なアセテート レーヨンではなく別珍を使用。アラスカの厳しい寒さを考慮した肉厚な生地は、優しい手触りと高級感のある艶でも独自性を物語る。

裏返すと現れるアラスカのマップには、地名のほか主要モチーフの絵柄まで描かれている。

裏返しても、アラスカにまつわる名モチーフが踊る。両胸には同じく稲妻とシロクマが陣取りながらも、背面には同地のマップが描かれた。スカジャンらしい切り替えライン入りの袖も相まって、表裏でイメージは激変。色とデザインを使い分け、異なるふたつのアラスカを華麗に表現した。

モチーフにまつわる国名がストレートに記されたデザイン。実にスーベニア的だ。

両面の背面上部に刺繍されたALASKAの文字も、ハイライトのひとつ。本来はここにJAPANと表記されることが多いが、それは誕生地である日本を示すほかに、日本から持ち帰るスーベニアとして機能していた証拠でもある。

にも関わらず本作のような別地名のモデルの存在は、特殊なオーダーや趣味嗜好を反映した“特注品”であることを示唆。ヴィンテージシーンには実際、発注者の故郷やペット、既存モチーフ同士の異なる組み合わせなど個性際立つ図柄が数多く存在する。

冬仕様のスカジャンにおいてはキルティングも定番。防寒だけでなく、ステッチが見た目のアクセントとしても機能。

別珍が包み込む中綿を包み込むキルティング構造も、保温性に長けたアラスカジャンらしい仕様といえよう。デザインのアクセントとなり、中綿の偏りも防いでくれる菱形のステッチが、希少なスカジャンをよりスペシャルに彩る。

もうひとつの和製英語ジャンパー、
「スタジャン」との違いについて

モチーフの話題はひと段落。お次はさらなる知識欲をくすぐるブレイクタイムとして、「スタジャン」と「スカジャン」の違いにフォーカスしよう。似た語感から混同されがちな両者であるが、まったくの別物。ただし、どちらも和製英語という点では同一だ。

スタジャンをベースに、日本的モチーフを追加したのがスカジャン。必然、両者には相似点が。

スタジャンはスタジアムジャンパーの略称であり、言わずと知れた〈VAN ヴァン〉創業者の石津謙介氏によって命名されたもの。野球やアメフトのスタジアムで防寒用ジャンパーとして着用されたことからそう名付けられたが、アメリカではバーシティジャケットやアワードジャケット、もしくはレタード・ジャケットと表記される。

こちらは〈VAN ヴァン〉が手掛けたオーセンティックなスタジャン。シニールワッペンがアイコニック。

スカジャンとスタジャンの差は、使われる素材からも明らかだ。前者がシルクライクなアセテート レーヨンを採用するのに対して、後者のボディは厚手のメルトン生地が一般的。袖もスカジャンように本体と同素材ではなく、レザー製に切り替えられることが多い。

装飾方法も異なり、スカジャンには刺繍、スタジャンにはシニールと呼ばれるワッペンが多用される。ただし、当然ながら両者に優越の差はなし。それぞれの本質をリスペクトし、自分らしく装ってほしい。

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(→「スタジャン」に関する特集記事はこちら)

戦争の教訓を今に伝える、
スカジャンのベトナムバージョン

日米をつなぐ渚、スカジャンにまつわるエトセトラも、そろそろ終わりに近づいている。最後は、スカジャンの亜流とも言うべき「ベトジャン」を紹介しよう。

正式名称は「ベトナムジャンパー」。読んで字の如く、1955年〜1975年のベトナム戦争に参加した米軍が、スーベニアとして持ち帰ったジャケットを指す。そう、由来はスカジャンと瓜二つ。デザインコードも、かなり似通っている。

襟や袖口が主にリブ仕様のスカジャンに対し、ベトジャンは立ち襟と袖のボタンが付くのが一般的。

写真のベトジャンは当時のカスタムオーダーを忠実に再現したモデルだが、その胸元には虎と龍のほか、漢字の「福」の刺繍が見て取れる。これこそが、ベトジャンのアイコン。七福神の一柱である福寿録からとったもので、文字通りの幸福を示すモチーフだ。

前面には縁起のいい絵柄が描かれる。背面のマップ上部には米軍の軍港が置かれた都市 NHATRANG(ニャチャン)の名も。

背中にはベトナムの地図が描かれ、その最上部には「WHEN I DIE I’LL GO TO HEAVEN」、最下部には「BECAUSE I’VE SERVED MY TIME IN HELL」と記される。当時の兵士のスローガンだったともされるこの言葉を直訳すれば、「私が死んだら天国に行くはずだ」「なぜなら私の人生は地獄だったから」。戦争の悲惨さを物語る、なんともストレートな文言だ。

いわば兄弟のようなスカジャンとベトジャン。それぞれの背景に、様々な想いが込められている。

煌びやなルックスの裏側にある、戦争の無情さ、愚かさ。ベトジャンもスカジャンと同じく、忘れがたき教訓を我々に授けてくれるのだ。

(→〈東洋エンタープライズ〉〈テーラー東洋〉の「ベトジャン」をオンラインストアで探す)

横須賀に因んで名付けられたスカジャン。ただ一説によると、刺繍の代表的なモチーフである龍(スカイドラゴン)が名称の由来ともされる。これまで仰々しく語ってきたが、つまり真実はいまだ謎に包まれているのだ。

そして、その神秘のベールが開け放たれることはこれから先もないだろう。だが、それでいい。むしろ、それがいい。各々を尊重し、想像力を働かせ、先行きの見えない未来すらも謳歌する。その姿勢がファッションをより楽しく、より自由にするはずだから。

(→「スカジャン」に関連する別の特集記事はこちら)

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