FASHION

〈セイコー〉の名作モデルから紐解く⼈気の秘密とその歴史。

Time is Money、時は金なり。古今東西、時間は貴重だ。と同時に、豊かさのひとつの象徴だ。昨今の物価高を例に挙げるまでもなく、金の価値は揺れ動く。さらに言うなら、金は取り戻せるが時間は巻き戻せない。そう考えれば、むしろ時は金以上。無二の価値を持つ。

本来は目に見えず、それでいて人間の営みに不可欠な時という概念。だからこそ、その可視化に成功し、なおかつ腕に巻きつけるというシンプルかつ最良の形で生活に寄り添う腕時計には、他のプロダクトにはない誠実さとロマン、ラグジュアリーが宿る。

日本が誇るウォッチカンパニー〈SEIKO セイコー〉。真摯に時と向き合い続け、時間とともに生きる人々を力強く支える老舗の腕時計は、これからも正確に針を進める。たとえ利便性の面でスマホに劣ったとて、その普遍的価値に一片の曇りなし。むしろ、ルーツの誕生から140年以上の時を超えた風格に、いっそうの魅力が漂うのだ。

日本を代表する精巧なモノづくりは
二度の大戦を含む荒波を乗り越えて

では早速、腕時計のご紹介を。とその前に、お時間を少々。恒例の“振り返り”にお付き合いいただきたい。歩みの出発点は1881年。創業者の服部⾦太郎が、中古時計の修繕と販売を⾏なう「服部時計店」を東京・銀座に開業したことから歴史が動き出す。

現在のセイコーの前身となる「精工舎」が生まれたのは、1892年のこと。「精巧な時計を作る」ために立ち上げられた時計製造⼯場であり、部品の製造から組み⽴てまで時計作りの全⼯程を⼀貫する体制が整えられた。

創業当初は掛け時計から始まり、徐々に懐中時計や置き時計をラインアップに加えるなか、1913年には国産初の腕時計の開発に成功。技術の粋を集めた歴史的1本は「ローレル」と名付けられ、以降の大発展の土台ともなる。

ローレル発表の翌年に勃発した第一世界大戦、1923年の関東大震災という荒波をしなやかに乗り越え、1924年に初めて〈SEIKO セイコー〉の名を冠した腕時計をリリース。1932年には和光本館(現SEIKO HOUSE GINZA)を竣⼯している。そして1953年、日本で初めてのTVCMにも登場。

「精工舎の時計が7時をお知らせします」というフレーズがモノクロのアニメーションとともにお茶の間に流れ、日本の夜明けを確信させた。

のちに紹介する「GRAND SEIKO グランドセイコー」を1960年に発表し、スイスの天⽂台で⾏われた1967年の精度コンクールで上位に⼊賞するなど、第二次世界大戦後には国際的な存在感が上昇。その極め付きとなったのが1969年の「Quartz Astron クオーツ アストロン」であり、クォーツショックが世界中に与えた影響は計り知れない。

ちなみに、セイコーの歴史を語るうえでは「第⼆精⼯舎」との関係性も迂回できない事柄だろう。⽣産増強を図るために1937年に設立された第⼆精⼯舎は、紆余曲折の末にその中心となっていた諏訪⼯場を協力関係にあった他社に譲渡。1959年に独立した「諏訪精⼯舎」は、1985年から〈SEIKO EPSONセイコーエプソン〉として稼働することとなる。

(→〈セイコー〉に関する別の特集記事はこちら)

(→「クォーツ腕時計」に関する別の特集記事はこちら)

(→「自動巻き腕時計」に関する別の特集記事はこちら)

 

セイコーの名作モデル①
世界に誇る国産最⾼峰
「GRAND SEIKO グランド セイコー」

さて、ここからは具体的な腕時計にフォーカス。長い歴史のなかで産み落とされた、誇らしきジャパンウォッチを紐解いていきたい。

先頭を飾るのは、華麗なる一族“セイコーファミリー”の頂点とも言うべき存在。「世界に挑戦する国産最⾼級の腕時計を作り出す」というコンセプトの元、1960年に初代モデルが発表された「GRAND SEIKO グランドセイコー」だ。

ヘリテージコレクションのグランドセイコー。ベーシックかつ力強い意匠に、圧巻の機能性が潜む。

当時、高級時計の市場はスイスをはじめとするヨーロッパ製品のほぼ独壇場状態だった。そこに風穴を開ける第一の矢となったグランドセイコーは、スイスのクロノメーター規格に匹敵する高精度を実現。⼤卒初任給の約2倍となる25,000円オーバーと⾼額にも関わらず、世界最高峰モデルとして早くから⼈気を集めた。

セイコーの代名詞的ムーブメント「スプリングドライブ」を搭載。ブルーダイヤルの繊細な輝きも見逃せない。

写真のモデルは、王道のデザインが魅⼒のヘリテージコレクションより。いわゆる“セイコースタイル”を受け継ぐ強固なデザインを保ちながら、セイコー独自の革新的ムーブメント「スプリングドライブ」を搭載した2021年製の「SBGA467」である。

機械式と同様に巻き上げられたゼンマイが元に戻ろうとする力を動力としつつ、時間の制御にはクォーツとICを使⽤。針の動きを電⼦制御することで滑らかな運針を叶え、⽇差約±1秒という驚くべき精度を支える。

その類い稀な“心臓”だけでなく、顔立ちも十二分にアイコニック。力強さと品格を湛えるブルーダイヤルの7時位置にはインジケーターを備え、時計の駆動時間を⽬視が可能に。最大72時間のロングパワーリザーブを、正確な時刻表示とともに常に腕元で確認できる。

裏蓋には獅子の刻印が。ちなみに、当初は鐘や太陽(アポロン)などもモチーフの候補に挙げられていたそうだ。

ほか、透明度の⾼い両⾯無反射コーティング付きサファイアガラスの風防、時計界の王者を暗示する獅子が刻印された裏蓋など、どの角度から見ても貫禄たっぷり。2017年にセイコーから“独立”した証しとして、「SEIKO」の代わりに「GS」と記されたロゴワークも12時位置に燦然と。故きを温ねて新しきを知る、まさしくエターナルな銘品に違いない。

(→〈グランドセイコー〉の「腕時計」をオンラインストアで探す)

 

セイコーの名作モデル②
性と品格を兼ね備えた王者
「KING SEIKO キング セイコー」

続いては、“キング”の冠を戴く名機。グランドセイコーと同じく⾼品質・⾼性能を念頭に置きながら、価格を抑えてよりマジョリティを意識した「KING SEIKO キング セイコー」の腕時計を見ていこう。

手が届きやすい価格と高品質を実現。キングセイコーは、民衆に味方する賢王のような存在。

グランドセイコー発表の翌年、1961年に生まれた当コレクション。その製造は⻑野県・諏訪の「諏訪精⼯舎」ではなく、「第二精工舎」の“元祖”たる東京都・⻲⼾の工場が担っていた。

今回ピックアップしたモデルは、1968年〜1974年に製造された「56キングセイコー」。⾃動巻きの薄型ムーブメント「Cal.5625B」を搭載し、1時間に28,800回振動のハイビートを実現。国産⾃動巻き腕時計で初のクロノメーター公式認定を受けた、伝統のマスターピースだ。

上質なレザーにクロコダイルの質感を模写。クラシカルなベルトに、ゴールドカラーのケースが映える。

流れるようなケースデザインやシャープなラグ、シャツの袖口を邪魔しない薄さなど無駄のないデザインが複合するとこで、デイト窓の付く実用的な3針ながらにドレスウォッチ然としたエレガンスを放出。ゴールドカラーのケースと好対照を描くホワイトダイヤルの下部には、諏訪精⼯舎製を⽰す⾵⾞のようなマークが刻印されている。

リューズにはキングセイコーを示す「KS」の文字が。エッジの立った風防はミネラルガラス製。

前述した通り、キングセイコーは⻲⼾⼯場製。にも関わらず、なぜこの印が? 実は、⼀部例外とムーブメントの製造は諏訪精⼯舎でも⾏なわれており、今回のモデルはそれに該当。その意味では、掛け値なしのレアウォッチとも言うべきか。

なお、キングセイコーは惜しまれつつも1975年に製造中⽌となったが、2022年に復活。再び回り始めた時計の針が、多くのファンを惹きつけている。

(→「キングセイコー」の「腕時計」をオンラインストアで探す)

 

セイコーの名作モデル③
近な機械式時計の名作
SEIKO 5 セイコー5」

日本から世界へ。彼方を睨むセイコーの視野は、いわゆる高級時計だけに反映されていたわけではない。かのクォーツショックから遡ること6年前の1963年、高性能で比較的安価なデイ・デイト付きの自動巻き3針時計「SEIKO SPORTSMATIC セイコースポーツマチック5」がデビュー。発売直後から大ヒットを記録し、人気は瞬く間に海を超えた。

「5」とはすなわち、「⾃動巻き」「防⽔」「デイ・デイト表⽰」「4時位置のリューズ」「耐衝撃性の⾼いケース」を意味している。そのデザインコードを持つ時計は以後「SEIKO 5 セイコー5」と呼ばれ、豊富なデザインバリエーションもあって若者を中心に支持を拡大。1986年には現在でも続く「SEIKO 5 SPORTS セイコー5 スポーツ」に改名された。

ミニマルな表情のホワイトダイヤル。オンオフ問わず頼れるオールマイティな1本だ。

総じて“逆輸入的側面”を持つセイコー5のうち、まず紹介するのは海外向けに展開していたSNXSシリーズのモデル「SNXS73K」。前述の5つの要素をしっかりと揃えた、ミニマル&スポーティなオールマイティウォッチだ。

シースルーバックからは内部の構造が目視できる。これもまた、機械式ならではの悦び。

カジュアルでもビジネスでも頼れるルックスと機能性を備えた、時計の正道とも表現すべきデザインを踏襲。時計内部の構造が覗き見えるシースルーバッグは、飽きのこない美しさに心地良いリズムを加える。

なお本作は、2019年から採用された新ロゴとは異なる旧ロゴを採用した希少作。

同じく、旧ロゴながらに雰囲気の異なる1本も続いて紹介しておこう。フィールドウォッチ、もしくはパイロットウォッチを匂わすレトロ顔、「SNK800」シリーズに分類されるモデルだ。

こちらもシースルーバックを採用。先に紹介したセイコー5同様、⾃動巻きムーブメント「Cal.7S26」を収める。

オフホワイトカラーの文字盤には視認性の高いアラビア数字のインデックスが配され、内側に時間表示、外側に分と秒表示の目盛りが。秒刻みの作戦遂行に欠かせない構造で、ミッションウォッチの大義を果たす。

同じセイコー5ながら、まるで異なる雰囲気の2本。旧ロゴのセイコー5は、今後ますます希少な存在に?

透明度が⾼く傷に強いハードレックスガラスの風防も、タフなレーゾンデートルを体現。セイコー5の数あるバリエーションにあって、末長くコレクションするに相応しい傑作だ。

(→「セイコー 5  スポーツ」の「腕時計」をオンラインストアで探す)

 

セイコーの名作モデル
エントリーモデルの名を超えた銘機
「ブラックボーイ」

海外市場を見据えたモデルとしては、より熱狂的なファンを抱える今作を紹介しないわけにはいかない。リーズナブルながらに優れた性能を持つエントリープライスのダイバーズウォッチ「SKX007」、通称「ブラックボーイ」だ。

そのデザインと価格帯から、馴染みやすい「ブラックボーイ」という愛称で呼ばれる。

その通り名は、ブラックダイヤルと愛くるしいベゼルの雰囲気、そしてセイコーの海外版としては最も廉価な“弟分”であったことに由来するらしい。同じニュアンスの兄弟機としては、それぞれカラーリングの異なる「オレンジボーイ」や「ネイビーボーイ」も存在する。

写真のモデルのように、NATOベルトにアレンジするのも一手。ダイバーズらしい魅力を満喫できる。

親しみやすい愛称と相反するかのように、海の時計としての機能性は折り紙つきだ。200m防⽔をはじめ、逆回転防⽌ベゼルやねじ込み式リューズなどの名物ディテールも完備。暗所でも高い視認性を保つルミブライト塗装を含め、プロフェッショナルダイバーズと比べても遜色ない仕上がりを誇る。

堅牢なケースバックには、ダイバーズを代弁する波模様のデザインを刻印。

その確たる証拠として、耐圧・耐衝撃・視認性・耐磁性といった厳格な基準をクリアしたダイバーズだけが名乗れる国際規格「ISO規格」をクリア。軽装のアクセントになり、潮けを呼び込む。洒落た海男の時計として、これ以上の適役はそうそう見つからないだろう。

(→「ブラックボーイ」の「腕時計」をオンラインストアで探す)

 

セイコーの名作モデル
過酷な深海をも制する
Marinemaster Professional
マリンマスター プロフェッショナル」

と申し上げたそばから大恐縮だが、ダイバーズの大本命をもうひとつ。ただでさえ世界的評価の高いセイコーの海時計界隈において、こちらを紹介しなくては画竜点睛を欠くというもの。“ツナ缶”の渾名で知られる「Marinemaster Professional マリンマスター プロフェッショナル」に本稿の締めを一任したい。

マリンマスターはセイコーダイバーズのフラッグシップに位置。とりわけ「ツナ缶」の知名度は高い。

現在ではダイビングやトレッキングシーンなどで活躍する「PROSPEX プロスペックス」カテゴリーに所属するも、その源流は今から半世紀も遡る。すなわち、1975年に発表された600m飽和潜⽔対応モデル「ProfessionalDiver 600m プロフェッショナルダイバー 600m」の「6159-7010」を元祖とするのだ。

ケース全体を守る外胴プロテクターにより、無二のビジュアルに。当然、機能性も比類なし。

本作のアイコンは、時計本体を包み込むようにあしらわれたリング状のプロテクター。“外胴”と呼ばれる独自機構であり、ツナ缶という名の由来となった缶詰的デザインである。ことの始まりは、1968年に広島のプロダイバーからセイコーに届いた⼀通の⼿紙。そこには「現在市販されているダイバーズウォッチは、300m以上の深海潜⽔での使⽤には耐えられない」という旨が綴られており、その切実な要望に応える形で開発されたという。

スクリューバックの裏蓋に刻まれる波模様は、セイコーダイバーズに根付く伝統のひとつ。

写真は、ツナ缶の系譜を継承する1991年製のモデル「SBBN007」。逆回転防止ベゼルをはじめとしたプロフェショナルダイバーズの体裁は当然のように網羅し、47㎜のビッグケースが質実剛健なプロダクトの迫力をいっそう強くする。

“エンジン”はセイコー独⾃の⾼トルク・⾼精度クォーツムーブメント「7C」が担い、電池寿命は約5年間。過酷な環境下でも安⼼して命を託せる、職人肌の相棒だ。

世界的なセイコー人気を決定付けたダイバーズのなかでも、この2本はどちらも記念碑的意味合いを持つ。

ユニークなルックスとバックボーン、タフな機能性から、国籍問わず多数のフリークを抱える名盤。ただし本作は、残念ながら生産終了を迎えている。つまり、いい波と同様に出会いは一期一会。夏が終わる前に、意を決してリユースマーケットへとダイブしてほしい。

(→「プロスペックス ダイバー」の「腕時計」をオンラインストアで探す)

「時計は男性に許された唯一の装飾品である」。そんな聞き飽きた名言に倣うまでもなく、無条件で物欲をくすぐる日本の腕時計。セイコーのアイテムは装飾品の枠を軽やかに飛び越え、独自の文化とクラフツマンシップ、チャレンジャースピリッツを高らかに謳う。

悠久の時を刻む、世界を驚嘆せし大和魂。その熱き鼓動を腕に、暑すぎる今夏を存分に楽しみたい。Time is Money、Watch is Journeyの精神で。

ONLINE STORE
掲載商品は、代表的な商品例です。入れ違いにより販売が終了している場合があります。