ナイキの人気シリーズ「エア マックス」とは?伝説の「エア マックス95」誕生以降の名作たち。
現在のナイキの隆盛を決定付けたと言っても大袈裟ではない、1987年から続く壮大なる歩み。前編でも振り返ったそれは、とあるモデルの誕生を契機に神話へと置き換わる。
今から遡ること30年前。1995年の夏にリリースされた「AIR MAX 95 エア マックス 95」こそ、精鋭ひしめく一族にあって無二の存在感を誇る伝説中の伝説。今年めでたく30周年を迎えた“主祭神”に、シリーズを紐解く本稿のリスタートを任せたい。
ナイキの人気シリーズ
「エア マックス」とは?
未曾有の衝撃
「Air Max 95 エア マックス 95」
阪神大震災、地下鉄サリン事件。おぞましい災害と事件が続いた1995年。その鬱屈したムードに反発するかのように、新しい扉は開かれた。「Air Max 95 エア マックス 95」、衝撃のデビューイヤーである。


地球上で最も有名なスニーカー。「Air Max 95 エア マックス 95」は、もはや伝説だ。
生みの親は「Air Max 1 エア マックス1」を手掛けた天才、ティンカー・ハットフィールド。……ではなく、〈NIKE ナイキ〉のアウトドアライン「ACG エイシージー」のデザイナーだった入社4年目のセルジオ・ロザーノだ。
ベースデザインは人体構造からインスピレーションを受け、シューレースの構造はあばら骨、多層構造のアッパーは筋繊維を示唆。特徴的なネオンイエローのグラデーション配色は、通称「イエローグラデ」と呼ばれた。

ずんぐりとしたシルエットと独特なグラデーションから、“イモムシ”と揶揄されたことも。
従来はヒールにのみ存在したビジブル エアを前足部にも搭載し、ミッドソールはホワイトからブラックへと変更。これは、ナイキ本社が位置するオレゴン州ポートランドの降水量を念頭に、濡れた地面でも汚れを目立たなくするためだったらしい。アウトドアを主戦場とするセルジオらしい、極めて合理的な発想だ。
ヒールに小さく配置されたスウッシュも印象的。シューズボックスのデザインは本体のカラーリングと呼応する。
いずれにせよ、一部から“イモムシ”とまで形容されたその斬新なデザインは、これまでの兄弟機とは一線を画すもの。ゆえに当初は過度なセールスは期待されず、流通量は控えめに設定されたそうだ。
それでも、事実は小説よりも奇なり。木村拓哉氏など一部の有名人が着用し、流通量の少なさから国内正規販売分がすぐに枯渇したことも手伝い、高まる人気は狂気を帯びていく。ついには十万円を超えるプレ値が付き、着用者を襲撃して奪い取る事件まで頻発。社会現象と化した「エア マックス狩り」や「マックス狩り」は、度々ニュースで取り上げられた。
ファッション界を軽々と飛び越え、老若男女を巻き込んだ“95狂想曲”。これほどまでに影響力の高い個体は、スニーカーカルチャーが成熟を迎えた今なお存在しない。
(→〈ナイキ〉の「エア マックス 95」をオンラインストアで探す)
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「エア マックス」とは?
雫を想起させる伝説の後継機
「Air Max 96 エア マックス 96」
良くも悪くも社会現象にまで発展したエア マックス 95の後継機として、翌1996年にデビュー。「Air Max 96 エア マックス 96」は当時のハイテクスニーカーブームも追い風となり、リリース間もなくプレミア価格が当然となった。


96年発表のハイテクシューズ「Air Max 96 エア マックス 96」。写真はシュプリームとのコラボモデル。
“95”と同様にミッドソールの前足部とヒールにビジブル エアを備え、アッパーには雫をモチーフにしたティアドロップデザインを採用。自然な足の動きをサポートすべくエアチャンバーの形状は再設計された一方、ハイテクらしさは継承された。総じて先達に敬意を払いつつ、独自の道を行く。

オールブラックのデザインのなか、シュータン&ヒールの赤いロゴが鮮やかに主張。
写真のモデルは、2021年春夏に発表された〈Supreme シュプリーム〉とのコラボレーション。ブラックとレッドのハイコントラストが冴え渡り、シュータンには両社のロゴをセット。ヒールには「Supreme」のメタルプレートも配される。

インソールにはシュプリームロゴが。シュークローゼットでも強烈なインパクトを放つ。
そのうえで、特徴的なティアドロップの窓をクリアに模様替え。インソールに描かれた強烈なシュプリームロゴでも、ファンマインドのど真ん中を射抜いた。
(→〈シュプリーム〉の「コラボレーション」に関する特集記事はこちら)
(→〈ナイキ〉の「エア マックス 96」をオンラインストアで探す)
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「エア マックス」とは?
不遇を乗り越えた不屈の名機
「Air Max 96 II エア マックス 96 II」
(Air Max 97 SS)
前編で紹介した“隠れた傑作”「Air Max 2 エア マックス 2」をシリーズ前半の不遇とするなら、後半の不遇作は本モデルか。なにせ「Air Max 96 II エア マックス 96 II」は当初、「Air Max 97 SS エア マックス 97 SS」としてリリースされるほど不安定な立ち位置に甘んじていたのだから。


「Air Max 96 II エア マックス 96 II」の落ち着いたデザインは、クラシカルなランニングシューズを思わせる。
とはいえ、近年では見事に汚名返上を果たしている。偉大なる兄の後塵を拝しながらも、現代のスニーカーフリークから根強い人気を獲得。その点でも、エア マックス 2と同じサクセスストーリーを辿っているという見方もできるだろう。
デザインを注視すれば、まずはランニングシューズ然とした疾走感のあるビジュアルに目が止まる。アッパーはメッシュ素材によって通気性が高まり、さらにはレザーのオーバーレイで耐久性も担保されている。

メッシュとレザーの異素材ミックスに加え、配色もどことなくクラシック。
ミッドソールには、前作のエア マックス 96と同じエアチャンバー形状のビジブル エアを装備。一説には新しい「フルレングス エア」の開発が間に合わず、苦肉の策として旧型のエアユニットを拝借したのではないかとも言われ、結果として改名にまで至ったとされる。幸か不幸か、そのクラシカルで愛らしいルックスは再評価の呼び水ともなるのだが……。
(→〈ナイキ〉の「 エア マックス 96 Ⅱ」をオンラインストアで探す)
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「エア マックス」とは?
“伝説”と肩を並べるヒット作
「Air Max 97 エア マックス 97」
通称“サイバーマックス”。近未来感を意識した1997年リリースの「Air Max 97 エア マックス 97」は、かの「エア マックス 95」と双璧をなす人気モデルとして知られる。


シリーズ屈指の人気作「Air Max 97 エア マックス 97」。サイバーマックス、またはシルバーバレットの別称も。
デザイナーは、クリスチャン・トレッサー。残念ながら彼がナイキに在籍したのは10か月という短期間であり、のちに移籍した〈adidas アディダス〉では「adidas YEEZY アディダス イージー」ラインのデザインを担当。空前の大ヒットを記録した。
閑話休題。本作最大の特徴は、進化したエアにある。前足部からヒールまで繋がったビジブル エア「フルレングス エア」で、未踏の境地を開拓。フルレングスの立体成型用の型にエアソールユニットを作る溶解性のフィルムを入れ、成型のために一定時間保持するという画期的な製作メソッドが土台を支える。

「フルレングス エア」が添えられた、サイドアッパーの曲線美は圧巻だ。
結果、このエアシステムは外見だけでなく内面にも好作用。足元の安定感が増し、優れた耐久性、クッション性も実現してみせた。
アッパービジュアルも個性的。全体像は池の水面に広がる波紋が意識され、きらめくディテールの仕上げはマウンテンバイクなどに用いられたメタル素材から着想を得たという。

シルバーカラーのリフレクター素材を織り交ぜ、水の波紋を見事に表現。
写真のメタリックカラーは「シルバーバレット」とも呼ばれる、銀の弾丸を連想させる配色。インスピレーションの源は、なんと日本の新幹線だとも噂されている。なお、ナイキの公式サイトには「この一足が未来のアイコンシューズ誕生へと道を開いていくのだ」との記述が。まさしく。
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「エア マックス」とは?
波形アッパーがアイコニックな
「Air Max 98 エア マックス 98」
ブルーのメッシュにホワイトのレザー、エア内部やスウッシュのレッド。1998年発表の「Air Max 98 エア マックス 98」は印象的なカラーパレットで話題を呼び、海外のスニーカーフリークからは日本の某モビルスーツとも紐付けられている。


トリコロールを纏う「Air Max 98 エア マックス 98」。その配色が想起させるのは、四次元ポケットの彼ではなく……。
流線型のアッパーデザインは前作エア マックス 97を踏襲しながらも、波の形状がより大胆かつ不規則にチェンジ。シュータンも含めてアシンメトリーを描くことで、より個性的なフォームに仕上がった。

内側と外側で表情の異なるアシンメトリーデザインをアッパーに採用。
ミッドソールには前作に引き続きフルレングス エアが採用され、前頭部からヒールまで見通し良好。アッパーの波形デザインと直線的なエアの対比が美しく、装いの爽快なアクセントともなる。
ハイスペックでコアな“ニュータイプ”は、ファッション業界からの支持も上々。〈Supreme シュプーム〉とのコラボモデルもリリースされ、人気に拍車をかけている。
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「エア マックス」とは?
別注から定番へと成り上がった
「Air Max Plus エア マックスプラス」
前後編に渡ってお伝えしているエア マックスの系譜も、残すところあと3作。ここからは、モデル名に生まれ年が記載されない“亜流”の快作を紹介していきたい。
まずは、1998年にリリースされた「Air Max Plus エア マックス プラス」。そもそもはアメリカの大手スポーツショップ「フットロッカー Foot Locker」の別注モデルとして生を受けたが、瞬く間に人気が爆発。販路を広げて定番化し、今や日本でも“マップラ”の愛称で親しまれている。


新人デザイナーのフレッシュな感性が宿る、「Air Max Plus エア マックス プラス」。
デザインを手掛けたのは、リリース前年にナイキに入社したばかりのショーン・マクドウェル。彼が見たフロリダの風景がデザインソースとなり、メッシュアッパーを飾るにギザギザの樹脂パーツはヤシの木から着想。ミッドソール中央にあるシャンクプレートのアーチは、クジラの尻からヒントを得たそうだ。
「サンセット」と呼ばれるグラデーションカラーは。フロリダの海に沈む夕焼けをイメージ。新人デザイナーの瑞々しい感性が豊かな表現に結びついた、グッドデザインの好例といえよう。

地面との接地面が前後に分かれたセパレートソール。 その中央には「Tuned Airチューンド エア」を示すロゴが。
機能面に目を向けても、新たなエアシステム「Tuned Air チューンド エア」を搭載するなど前身が見られる。エアの中に重ね合わせて配置された半球状のプラスチック樹脂材がサスペンションの役割を果たし、着地時の衝撃を緩和。高い安定性も実現している。
なお、ナイキのトレードマークであるスウッシュにも新人デザイナーらしい爪痕が。当時、社内にはスウッシュの細かいガイドラインが存在せず、手探りで描いたスケッチがそのまま採用。よって、スウッシュの後ろ部分が少し⻑くなっているそうだ。はたして嘘か誠か。その曖昧な部分も含めて、実に味わい深いモデルである。
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「エア マックス」とは?
“エア上を走る”疾走感
「Air Vapor Max エア ヴェイパー マックス」
年号のないエアマックス シリーズ。次なる刺客は、エアの進化がミッドソールから溢れ出したと表現しても差し支えない野心作。2017年製の「Air Vapor Max エア ヴェイパー マックス」にスポットを当てよう。


エアユニットが“限界突破”した「Air Vapor Max エア ヴェイパー マックス 」。コンセプチュアルな野心作だ。
初代「Air Max 1 エア マックス1」から数えて30年目の節目に生まれた本作は、「エア(空気)の上を走る」がコンセプト。実に7年もの制作期間が費やされ、大容量エアの搭載に成功。ミッドソールそのものがエアになるという、驚異の大変貌を遂げた。
さらにはエアユニットとアッパーを直接繋ぐ新技術により、走行をダイレクトにサポートするメソッドを確立。アッパーの素材には超軽量の糸を編み込む新技術「Flyknit フライニット」が採用され、運動時に欠かせない軽さもキープしている。

まるで靴下のようなニットアッパーが、異次元のフィット感をもたらす。
ハイテクノロジーが根付いた新時代のデザイン。クッショニングソールを生み出したザガリー・エルダーとともにその根幹を支えたのが、デザイナーの南哲也氏だ。ナイキでフットボールシューズを担当していた日本人が開発に携わった事実は、遠い島国で暮らす我々を素直に誇らしい気分にさせる。

エアユニットを9個に分割して配置することで、極上の屈曲性と歩行性を実現した。
ちなみに、本作は発売直後から人気沸騰。ファッションブランドとのシェイクハンズも数多く、〈OFF-WHITE オフホワイト〉や〈ACRONYM アクロニウム〉、〈COMME des GARÇONS コムデ ギャルソン〉など名だたるブランドからラブコールを受けた。
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「エア マックス」とは?
遥かなる未来を見通す
「Air Max 720 エアマックス 720」
いよいよラストだ。本稿のアンカーを務めるのは「Air Max 720 エア マックス 720」。2019年に発表された、これまで紹介したなかでも最大容量のエアソールを持つモデルだ。


自然界から着想を得て未来を描く。「Air Max 720 エア マックス 720」は、サスティナブルな未来をも見据える。
モデル名の「720」は、水平方向に360度、垂直方向に360度、つまり全方向720度の 「フルレングス ビジブル エア ソール」に由来。ヒール部分のエアの高さは当時のエア マックス シリーズのなかで最も厚く、なんと38mmに到達。まるで宙に浮いたかのような雲上の履き心地を実現する。
独創的なアッパーデザインは、自然界からインスピレーションを得たもの。オーロラ、天の川、朝日、夕日、溶岩などを意識し、光の当たる角度や視点によってグラデーションにも映るカラーリングが採用された。そのナチュラルでモダンなデザインコードが、光沢あるメッシュ素材を使ったシームレス仕様に映える。
また、サスティナブルを掲げるブランドイメージに違わず、製造過程で出た廃棄物の75%をエア ユニットの構築に再利用。名実ともに未来的で象徴的な、モダンな傑作といえよう。
(→〈ナイキ〉の「エア マックス 720」をオンラインストアで探す)

革新に次ぐ革新。「最大・最高」を意味する名前の通り、エア マックスシリーズは過去最高を更新し続ける。その姿勢に最大限の敬意を払い、本稿を締めくくりたい。
そして今、確信する。今年の「エア マックス デイ」に合わせてお披露目されたばかりの最新作「AIR MAX Dn8 エア マックス Dn8」を例に挙げるまでもなく、傑作の歩みは止まらないということを。
人類の進化と歩調を合わせ、常に先を見る。エア マックスが望む地平に終わりはない。

