Needles

ニードルズ
HISTORY

常識を疑い、毒を纏う。世界を魅了する孤高のバタフライ。
1995 | TOKYO,JAPAN | Keizo Shimizu

ファッションとは、調和だけが正解なのだろうか。時に、心をざわつかせるような「違和感」こそが、強烈な個性となり、見る者を虜にする魅力へと変わる。紫色の蝶が羽ばたくそのウェアには、既存のルールに縛られない自由な精神と、ほんの少しの毒が潜んでいる。

アメカジ、ワーク、ミリタリーといった無骨な男服をベースにしながらも、どこか妖艶で、無国籍なムードを漂わせるブランド。〈Needles ニードルズ〉。このブランドが放つ独特の色気は、単なる奇抜さではない。長きにわたり世界中の服を見続けてきた「目利き」が辿り着いた、究極の遊び心である。

物語の源流は、日本のファッションシーンにおける伝説的なセレクトショップ「NEPENTHES ネペンテス」にある。創業者の清水 慶三は、1988年の設立以来、バイヤーとして世界中を飛び回り、まだ見ぬ優れたプロダクトを日本に紹介し続けてきた。彼のフィルターを通したセレクトは、当時のファッションキッズたちに多大な影響を与え、熱狂的な支持を集めた。

USインポートの可能性を広げ切った清水は、独自の審美眼を武器に世界中で買い付けや別注製作に奔走し、並行してオリジナル展開も開始。しかし90年代に入ると、工場の閉鎖などで理想の「アメリカ製」は希少化していく。だが、その枯渇が逆に彼らの独自性の輪郭をより色濃くした。「欲しいものがないなら、自分の中にあるものを日本で一から表現する」。その衝動から1995年にブランドが始動。清水のグローバルな足跡を背景にどっしりと練られたデザインを、世界最高峰を誇る日本の素材と縫製技術で形にする。これこそが、ニードルズが唯一無二である所以だ。

ブランド名には二つの意味が込められている。一つは、服作りに欠かせない「針(Needles)」。そしてもう一つは、「Need-less(必要以上のものはいらない)」という言葉遊びだ。ここには、過剰な装飾や機能を削ぎ落とし、本質的な魅力を追求しようとする彼の哲学が垣間見える。

ニードルズが提案するスタイルは、一言で言えば「崩し」の美学だ。ベーシックなアメリカントラッドを基調としつつ、そこに和のテイストや、70年代のヒッピー、ボヘミアンといったサイケデリックな要素を大胆にミックスする。常識的なコーディネートの枠を軽々と飛び越えるその姿勢は、まさに予定調和を嫌うパンク精神の現れとも言える。

その象徴とも言えるアイテムが、今や世界的なファッションアイコンとなった「トラックパンツ」である。本来はスポーツウェアであり、ファッションの文脈では野暮ったいと敬遠されがちだったジャージを、ニードルズは主役級のボトムスへと昇華させた。センタープリーツを施した美しいスラックスのようなシルエット、サイドを走る太めのライン、そして腰元に舞うパピヨン(蝶)の刺繍。それはリラックスウェアでありながら、ジャケットスタイルにもハマる品格と、ストリートの不良っぽさを兼ね備えている。国内外の好感度の著名人が愛用したことで、その人気は不動のものとなった。

また、秋冬の定番としてカルト的な人気を誇るのが「モヘア」素材のカーディガンだ。毛足が長く、ふわりとした質感のモヘアニットは、かつてカート・コバーンが愛用したことでも知られるグランジファッションのアイコン。ニードルズが手掛けるそれは、アーガイルなどのヴィンテージライクな柄と独特の配色センスが融合し、モダンな色気を放つ。羽織るだけで、退廃的でありながらもラグジュアリーな雰囲気を演出できる一着だ。

さらに、古着を解体し再構築するライン〈REBUILD by NEEDLES リビルドバイニードルズ〉も見逃せない。7つの異なるネルシャツを裁断し、一枚へと縫い合わせる「7カットシャツ」などは、古着を知り尽くした清水慶三だからこそ成し得る技。一枚として同じものが存在しないその服は、大量生産品へのアンチテーゼであり、着る者の個性を強烈に引き立てるアートピースのようでもある。

ニードルズの服には、着る人を選ぶような「強さ」があるかもしれない。しかし、その強さこそが、画一化されたトレンドに飽き足りない大人の男たちを惹きつけてやまない理由だ。守りに入らず、攻め続ける姿勢。違和感を楽しみ、自分だけの色気として纏う覚悟。もしあなたが、ファッションにもう一度「ドキドキ」を求めているのなら、左胸に蝶が舞うこの服に袖を通してみるべきだ。そこには、予定調和な日常を鮮やかに裏切る、刺激的な世界が広がっている。

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