メンズのブレスレット・バングルなら、断然オススメは一生モノ!【エルメス編】「シェーヌダンクル」「コリエ・ド・シアン」「トゥアレグ」ほか
一過性の煌めきに心を寄せるか、それとも時を超えて愛せる普遍的な価値を求めるか。あるいは一切の装飾を排し、自身の存在のみで語るという選択もまた一つのスタイルであろう。多様化する価値観の中、アクセサリーとの向き合い方は、まさに個人の生き様そのものを映し出す鏡と言える。大人の男ならば、その選択には確固たる「こだわり」という意志が宿るはずだ。
だが、そのあらゆる選択肢、あらゆる価値基準を超えて、特別な光を放つ存在がある。それが〈HERMÈS エルメス〉。その名を聞いたとき、高級なラグジュアリーブランドという言葉では捉えきれない特別な感情を抱く方も多いだろう。おそらくその背景にあるのは、語り継がれる歴史と卓越したクラフツマンシップへの憧憬ではなかろうか。
刹那に訴えるデザインの妙と、世紀を超えて受け継がれる本質的な価値。それらが織りなす、揺るぎない品格。エルメスのブレスレットやバングルには、それら全てが凝縮されている。手にした瞬間に感じる確かな重みは、単なる物質的な価値を超え、所有する喜びと精神的な充足感を与えるのだ。これぞまさに「一生モノ」と呼ぶにふさわしい名作の数々。
今回の『knowbrand magazine』は、読者諸氏をそんなエルメスが紡ぎ出す至高のメンズ ブレスレット&バングルの世界へと誘う。では、そろそろエルメスが選ばれ、永く愛用される理由、そして選ぶべき定番人気の一生モノモデルの魅力について深く掘り下げていく。
華麗なる一族の才と情熱が宿る、
天上のトップメゾン
〈HERMÈS エルメス〉とは?
別格。世界中にラグジュアリーブランドは数あれど、〈HERMÈS エルメス〉に並ぶものはないとされる。つまりは“上がり”のような存在だ。細部まで張り巡らされたこだわり、伝統が裏打ちする気高さ、ユニークで上品なアプローチ。そのすべてがエルメスをエルメスたらしめるのだが、ここでは軽く歴史を振り返ってみよう。
始まりは 1837 年。創業者のティエリ・エルメスがパリのバス・デュ・ランパール通りに開いた高級馬具工房をルーツとする。幼き頃から馬具職人として腕を磨いたティエリの仕事は、一切の妥協を許さず。時間と費用を贅沢に費やす完璧な物作りが、本質を知る当時の貴族たちの間で評判を呼んだ。

ブランドルーツである馬具を表現したお馴染みのロゴ。馬車と馬、従者だけで主人が描かれていないのには理由があり、アイテムをどう扱うかは購入者次第というメッセージを秘めている。
1867 年の第 2 回パリ万博では馬具部門の銀賞を、続く 1878 年の第 3 回パリ万博では金賞を受賞する。なお、第 3 回パリ万博の直前にティエリが死去。父の完璧主義を受け継ぐ2代目エミール・シャルル・エルメスがブテイックをフォーブル・サントノ ーレに移転した 1880 年、いわゆる“下請け”の工房から脱却し、顧客への直接販売を開始した。
1892 年には、馬具の鞍を入れるためのバッグ「Haut-à-Croire オータクロア」をリリース。シャルルの息子であるエミール・モ ーリス・エルメスが 3 代目に就任した 1900 年代以降は、自動車時代への変化にも敏感に対応していく。馬具制作で培われた技術・目利きを活かし、バッグや財布、革小物といった新しい領域に挑戦。1927 年にはブランド初の腕時計が発表され、1937 年にはシルクスカーフ「Carres カレ」が登場する。

レザー製品の質は極めて高く、「Birkin バーキン」など世界中のセレブリティを虜にする傑作も数多い。
徹底したこだわりとともに、優れた先見性もまたエルメス家の遺伝子だったのだろう。4代目のロベール・デュマ・エルメスの時代には、のちに「Kelly bag ケリーバッグ」の名で親しまれる「Sac-à-croire サック・ア・クロア」など多くの傑作が産み出された。
その後も華麗なる一族によるブランディングは、繁栄の一途をたどる。5代目ジャン・ルイ・デュマ経営下の 1984 年には「Birkin バーキン」がデビュー。前出のオータクロアをベースに、女優ジェーン・バーキンのためにオーダーメイドした伝説的バッグだ。そして現在、比類なき名門は6代目ピエール・アレクシィ・デュマを旗手として快走を続けている。
ちなみに、経営も超一流ならデザイナーたちも錚々たる顔触れ。マルタン・マルジェラ、ジャン=ポール・ゴルチェ、クリストフ・ルメールらが歴代のレディス・プレタポルテを担当したことは、ファッション通の読者諸兄姉であればご存知のはずだ。
旅人や商人の守護神として崇められたオリュンポス十二神の一柱を名に冠する、まさしく天上のトップメゾン。それがエルメスなのである。
(→〈エルメス〉に関する別の特集記事①はこちら)
(→〈エルメス〉に関する別の特集記事②はこちら)
〈HERMÈS エルメス〉
定番人気の一生モノ名作ブレスレット①
「Chaîne d’Ancrele MOYEN MODÈLE
シェーヌダンクル ミディアムモデル」
さて、ここからは至極のラインアップをとくとご覧いただこう。まずは言わずと知れた大定番、1938 年生まれの「Chaîne d’Ancre シェーヌダンクル」から始めたい。


「Chaîne d’Ancrele MOYEN MODÈLE シェーヌダンクル MM」は、〈HERMÈS エルメス〉の代表的アクセサリー。
ブランドが手掛ける装飾品の中でも飛び抜けた知名度を誇る今作は、モデル名そのままのアンカーチェーン(イカリを結ぶ鎖)をモチーフとする。美しきノルマンディー海岸を散歩していた4代目当主ロベールの目に留まった、一艘のボート。そのアンカ ーチェーンから着想を得たブレスレットは優雅に時を超え、世界中のファッショニスタの心を繋ぎ止めている。

アンカーチェーンを踏襲したスタッドリンクで構成。スタッドにはロゴが刻まれる。
金属の環状リンクが連続する通常のチェーンとは異なり、各リンクの中央に柱を備えた「スタッドリンク」が特徴。これは荒波の中でも船をしっかり停泊させるために考え出された機能的構造であり、リンクの変形を防止してリンク同士のもつれを防ぐ効果も生む。馬具をエレガンスに仕立て続けたエルメスらしい、機能美の完成形ともいえよう。
ブレスレット本体だけでなく、留め金具の造形もアイコニックだ。チェーンの一方の端に付けられた丸いリングに他方の端のバ ーをくぐらせるデザインは、シンプルでいて実用的。装着しやすく外れにくい構造にも、馬具由来の洗練が根付いている。

シンプルで実用的な留め具にも、ブランドならではの強みが凝縮。
なお、シェーンダンクルのリンクサイズは以下の5種類が存在。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
TRÈS PETIT MODÈLE→TPM 1 リンク:0.9cm × 0.5cm(※廃盤)
PETIT MODÈLE→PM 1 リンク 1.4cm × 0.8cm(公式サイズ:1.41 x 0.87 cm)
MOYEN MODÈLE→MM 1 リンク 1.7cm × 1.0cm(公式サイズ:1.7 x 1.02 cm)
GRAND MODÈLE→GM 1 リンク 2.1cm × 1.2cm(公式サイズ:2.08 x 1.15 cm)
TRÈS GRAND MODÈLE→TGM 1 リンク 2.4cm × 1.4cm(公式サイズ:2.37 x 1.4 cm) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今回紹介したミディアムモデル「MM」は男女ともにつけやすい大きさで、パートナーとのシェア使いにも最適だ。芸能人などの着用例も数知れないが、どんなビッグスターであろうとエルメス以上のネームバリューとはなりえないため、ひとまずは割愛する。
(→〈エルメス〉の「シェーヌダンクル」をオンラインストアで探す)
〈HERMÈS エルメス〉
定番人気の一生モノ名作ブレスレット②
「COLLIER DE CHIEN コリエ・ド・シアン」
「コリエ」「シアン」はそれぞれ、フランス語で「ネックレス」と「犬」を意味。つまり「COLLIER DE CHIEN コリエ・ド・シアン」を直訳すれば、犬の首輪となる。ただし当然、こちらはワンちゃん用の装飾品ではなく、紳士淑女を彩るワンダフルなバングルだ。


犬の首輪から転じた「COLLIER DE CHIEN コリエ・ド・シアン」。有名スタイリスト野口強氏も愛用する。
事の発端は 1927 年、エルメスの女性顧客のひとりがオリジナルの革ベルトの製作をリクエスト。その際にアイデアソースとして提案したのが、ペットの犬が付けていたピラミッド型の鋲付き首輪だったそうだ。そうして出来上がった革ベルトをベースに、翌年 1928 年にバングルへと派生。なるほど、高貴さとともに野性的迫力を帯びている。
土台となるバンドの素材には、生後3~6ヶ月の雄仔牛の革であるボックスカーフを使用する。最上級のその革に熟練の職人によるガラス加工を施し、艶やかで重厚感のある表情に仕上げた。余談だが、ボックスレザーという呼称は、1890 年代のイギリスの靴職人ジョセフ・ボックスの名に由来するらしい。

ゴールドの金具を穴に通すデザインで、4段階のサイズ調整に対応。
ノアール(黒)のボックスカーフとゴールドパーツの組み合わせは荘厳かつ華麗で、尖ったデザインながらも品のある佇まいに収めた手腕はさすがエルメス。4段階のサイズ調整ができるユーザーフレンドリーな作りもうれしい。

レザーと金具の裏側に、ひっそりとブランド名を記す。
声高にブランド名をアピールしない懐の深さも、比類なきメゾンの矜持。表面同様に丁寧に仕立てられたレザー&金具の裏側にのみ刻まれたブランドロゴが、極めて高い満足感をもたらす。
(→〈エルメス〉の「コリエ・ド・シアン」をオンラインストアで探す)
〈HERMÈS エルメス〉
定番人気の一生モノ名作ブレスレット③
「Ano H TOUAREG アノーH トゥアレグ」
続いては、エルメスにしては珍しくデコラティブな民族調デザインを採用したバングル。「Ano H TOUAREG アノーH トゥアレグ」は一般的なスターリングシルバー(シルバー925)よりも高純度な銀を用い、芸術とも称すべき彫りの超絶技巧を見どころとする。

シルバー製の「TOUAREG トゥアレグ」は、1997 年に初代が登場。
そもそも「トゥアレグ」とは、アフリカのサハラ砂漠で生活する遊牧民族「トゥアレグ族」のこと。男性は青いターバン等で顔や上半身を覆うことから「青の民」とも呼ばれる彼らの伝統工芸「Tuareg Silver トゥアレグシルバー」に惚れ込んだエルメスが製作を依頼し、1997 年の「l’Afrique アフリカ」コレクション時に初登場を果たしている。


ブランドイニシャルである「H」を模したシルエットに手彫りの紋様があしらう、唯一無二のデザイン。
鏨(たがね)という道具を使ってひとつずつ入れられた精巧な彫り柄は、すべてハンドメイドの一点モノ。この世にふたつと存在しない紋様がエルメスの「H」をモチーフにしたシルエットとリンクし、特別な存在感を奏でる。


内側にはブランド名とともに、トゥアレグ族が住むニジェール共和国の名前も。
人気デザインゆえバリエーションも豊富で、リングやベルトなどブレスレット以外にも派生する今シリーズ。とはいえそれぞれ稀少性がすこぶる高く、発見は容易ではない。リユースマーケットで出会えたなら、それはもう運命。速やかに財布の紐を緩め、家宝として迎え入れてほしい。
(→〈エルメス〉の「アノーHトゥアレグ」をオンラインストアで探す)
〈HERMÈS エルメス〉
定番人気の一生モノ名作ブレスレット④
「POUR TOUR プールトゥール」
シンプル・イズ・ベストとは、まさにこのこと。先の「アノーH トゥアレグ」とは打って変わって、とかくアノニマスな「POURTOUR プールトゥール」もまた、エルメスの銘品として語り継がれている。

シンプルデザインの「POUR TOUR プールトゥール」は、どこかアップルウォッチ的美観をたたえる。
最上級のレザーを用いて、エターナルなミニマルデザインを創出。革製品の質に絶対の自信を持つエルメスだからこそ辿り着いた究極のバングルは、時を重ねるごとに味わいを増し、着用者の腕に優しく寄り添ってくれる。

「H 」を描いたかのように見える意味深なステッチがアクセントに。
シンプルながら、革を継ぎ合わせるステッチワークには絶妙な仕掛けが。そう、ブランドの頭文字である「H」に見えるはずだ。こちらはいわゆるマルジェラ期、かのマルタン・マルジェラがレディスのコレクションを先導した時代に作られたものであり、その意味でも“ステッチ”には特別な想いが込められていると見るのが妥当ではなかろうか。

裏側に刻印を施し、ミニマルな意匠を徹底。
匿名的かつ個性的。今なお鮮烈な意匠のバングルだが、2002 年に発刊されたとあるファッション誌では藤原ヒロシ氏の着用を確認できる。ファンは一度チェックされたし。
(→〈エルメス〉の「プールトゥール」をオンラインストアで探す)
〈HERMÈS エルメス〉
定番人気の名作ブレスレット⑤
「JUMBO H ジャンボ H」
上質をストレートに伝えるシンプルデザインの完成度で言えば、こちらのアクセサリーも負けてはいない。エレガントな革紐に鉤爪状のクラスプ留め金具を組み合わせた「JUMBO H ジャンボ H」は、本来はチョーカーとしてリリースされたモデルだ。
「JUMBO H ジャンボ H」は、実はブレスレットではなくチョーカーとしてリリースされた。
今回はブレスレットとしての紹介となるが、その際は腕に二重に巻きつけることとなる。それは何を隠そう、藤原ヒロシ氏が実践していた装着法。氏へのリスペクトも込めて、本項のひと枠に滑り込ませてみた。

鉤爪上のフックを引っかけて留める優雅なクラスプが、極上の革紐とベストマッチ。
レザーの類いまれなる質感はもちろんのこと、滑らかで美しい曲線を描く金具も作品のハイライト。地の金属の上にパラジウムを薄く重ねたパラジウムプレーテッド仕上げにより、時を経ても変色を防いでくれる。

二重にして腕に巻くもよし、そのままチョーカーとして使うもよし。ひと粒で二度美味しい。
2000 年前後に爆発的人気を博し、現在でも定番アイテムとしてラインアップ。とはいえ現行では革紐の長さが短いシングルブレスレットが主流のため、往年の御姿に憧れる数寄者にはリユースマーケットでの発掘を推奨する。
〈HERMÈS エルメス〉
定番人気の名作ブレスレット⑥
「CHEVAL BANGLE シュバル・バングル」
雲上からの刺客、そのラストを飾るのは「CHEVAL BANGLE シュバル・バングル」。シュバル、すなわち馬の意匠を象った実にエルメスらしい逸品だ。
「CHEVAL BANGLE シュバル・バングル」はその名の通り、馬の頭をモチーフとする。
言わずもがな、馬の頭を模したデザインは馬具の製作をルーツとするエルメスのアイデンティティを示すもの。同時に、繊細に作り込まれたそれは圧倒的技術力の証左であり、名家に息づく遊び心の一端でもある。

リアルかつユニークな造形からは、ブランドの多角的な魅力が感じ取れる。
素材には真鍮が用いられ、表面はパラジウムプレーテッド仕上げ。やや武骨な煌めきが、ヴィンテージ・エルメスの魅力を引き立てる。

アピールはあくまでさりげなく。ブランド名を側面に小さく刻印。
馬の首筋に当たる部分には、さりげなくもしっかりと「HERMÈS PARIS」の文字を刻印。無論、「MADE IN FRANCE」の文字も併記されている。
(→〈エルメス〉の「シュバル・バングル」をオンラインストアで探す)

やや駆け足になったが、至高のブランドが誇る名作バングル&ブレスレットを整理してみた。そして、あらためて思った。エルメスの唯一性を示すのに、言葉はもはや余計なのだろうと。いくら美辞麗句を並べても、アイテムの持つ不世出の力には歯が立たないのだから。
ただし我々は幸いにも、そのパワーを直接身に着けることができる。そうしてエルメスにふさわしい自分を見つけられた時、人生はこの上なく鮮やかに動き出すはずだ。何かのきっかけにしたいこの夏、エルメスは静かにその時を待っている。
(→【定番人気ブランド編】は、こちら)

