ARC’TERYX
始祖鳥は、常に進化を求める。
1989 | Vancouver, CANADA | Dave Lane & Jeremy Guard
地平線の先を見据える登山家の眼差し。未知なる壁に挑むクライマーの渇望。そして、都市というコンクリートジャングルを疾走するサイクリストの情熱。その傍らには、常に最高の機能美を備えた“あのブランド”のシェルやギアがある。そう、カナダ・バンクーバーの壮大な自然から生まれ、今や世界中のフィールドとストリートを席巻する〈ARC’TERYX アークテリクス〉だ。そのロゴに刻まれた始祖鳥の化石は、決して過去の栄光ではない。未来へと突き進む、飽くなき進化の象徴である。
物語の始まりは1989年、カナダ・ノースバンクーバー。二人の若きクライマー、デイブ・レインとジェレミ・ガードが自宅の地下室でミシンを踏んでいた。彼らの情熱は、自らが使う理想のクライミングハーネスの製作に向けられていた。当時のハーネスは快適性や動きやすさに課題があったのだ。彼らは、異なる素材を熱と圧力で貼り合わせるラミネート技術で、薄く、軽く、そして身体の曲線に吸い付くようなフィット感を持つハーネスを生み出す。この画期的な製品は、地元のクライマーコミュニティで瞬く間に評判となった。彼らが立ち上げたブランド〈Rock Solid ロックソリッド〉の名は、その確固たる品質の証として広まっていった。
だが、創業者のビジョンはクライミングギアの枠に収まるものではなかった。アウトドアアクティビティ全体のギアを進化させるべく、1991年、ブランド名を〈ARC’TERYX アークテリクス〉へと変更。その名は、太古の昔、初めて翼を持ち、地上から空へと生活圏を広げた生物「始祖鳥」こと「アーケオプテリクス」に由来するという。そこには、常に進化し続けようとする強い意志が込められているのかもしれない。
アークテリクスの進化を語る上で、防水透湿素材の最高峰「GORE-TEX ゴアテックス」との出会いは欠かせない。1995年に使用ライセンスを取得すると、彼らの革新性はウェアという新たなフィールドで爆発する。そして1998年、アウトドアジャケットの歴史を塗り替える「ALPHA SV JACKET アルファ SV ジャケット」が誕生。特筆すべきは、「YKK」社と共同開発した「止水ジッパー」の採用だ。それまでのジャケットは、ジッパーからの浸水を防ぐために分厚いフラップで覆うのが常識だった。アークテリクスはジッパー自体に防水性を持たせることでフラップを排除し、劇的な軽量化とミニマルで洗練されたデザインを実現したのである。最高の素材を、最高の技術で、最も革新的なデザインに落とし込む。アルファ SV ジャケットは、アーククテリクスの飽くなき進化への強い意志を完璧に具現化し、以降のアウトドアシェルの手本となった。
その後もウェアやバッグなど数々の名作を生み出し続けるアークテリクス。その探求は険しい山頂だけに留まらない。その翼は新たな領域へと広がり続ける。創業から30年以上、地下室のミシンから始まった小さな情熱は、いまや世界を牽引する巨大な翼となった。その翼は、きょうもまた、誰も見たことのない高みを目指して、静かに空を舞っている。

