PLAY COMME des GARÇONS
孤高の前衛が放つ、普遍にして強烈な「記号」の魔法
2002 | TOKYO, JAPAN | Rei Kawakubo
少しだけ吊り上がった眼差しを持つ、アイコニックな赤いハートのオブジェ。その記号を目にした瞬間、人々は特定の哲学と圧倒的な存在感を脳裏に浮かべる。1969年の創業以来、既成の美意識を破壊し、常にファッション界の異端にして頂点に君臨し続ける川久保玲。彼女が2002年に世に送り出した〈PLAY COMME des GARÇONS プレイ・コム デ ギャルソン〉は、その前衛的な歴史のなかにおいて、極めて特異な立ち位置を占めている。
1981年、パリ・コレクションにおいて「黒の衝撃」と呼ばれたセンセーショナルなデビューを果たして以来、川久保は西洋の服飾史に抗う「反骨の造形」を追求してきた。そんな彼女が、あえてベーシックなアイテムに特化したラインを立ち上げた背景には、デザインという行為そのものへの新たな問いかけがあったに違いない。複雑なパターンや立体裁断を極めた先で、彼女が行き着いたひとつの到達点。それは、極限まで削ぎ落とされた普遍的な服に、強烈な個性を宿す「キャラクター」を付与することであった。
事実、このラインはコム デ ギャルソンで唯一のキャラクターブランドとして位置づけられている。象徴であるあのハートをデザインしたのは、ニューヨークを拠点に活動するポーランド人グラフィックデザイナー、フィリップ・パゴウスキーである。彼がかつて別のプロジェクトのために描いたスケッチを見た川久保が、その直感的な力強さに惹きつけられ、ブランドの顔として採用したというエピソードは、偶発的でありながらも必然の出会いであった。
展開されるのは、上質なコットンを用いたTシャツや、日常に寄り添うパーカー、カーディガン、ボーダーシャツといった、誰もが袖を通すスタンダードな衣服ばかり。母体となるブランドが毎シーズン新しいテーマを掲げてコレクションを発表するのに対し、プレイ・コム デ ギャルソンは「デザインしないこと」を服作りの根幹に据えている。形をいじらない代わりに、アイコニックでキュートなハートが、その服をただの日用品から「特別な一着」へと昇華させるのである。
孤高のデザイナーが、複雑怪奇な前衛の果てに見出した、最もシンプルで力強いコミュニケーション。それは、奇抜な造形の服を着ることだけが自己表現ではないという、川久保流の静かなる反逆なのかもしれない。ただのTシャツが、ただのパーカーが、ひとつの記号を纏うだけで途端に確かな体温を持ち、世界中の人々の心を揺さぶる。街角ですれ違う見知らぬ誰かの胸元で、あの赤いハートが脈打つとき、私たちは確かに、ファッションが持つ根源的な魔法を目の当たりにするのである。

