FASHION
Message of Martin Margiela

ミステリアスなデザイナー、Martin Margiela。その代表的なモデルから、彼の思想を探る。

1988年にMAISON MARTIN MARGIELAを立ち上げたのち、1997年から2003年にかけてHERMESのレディースプレタポルテのデザイナーも兼任するなど、ファッション史に大きな影響を与えたと言われるデザイナー、Martin Margiela。

彼は、ファッションの名門校として知られるアントワープ王立芸術学院に入学、のちにアントワープ6と呼ばれることとなるDries Van NotenやAnn Demeulemeester、Dirk Bikkembergsらと共にショーを開催したのち、Jean-Paul GAULTIERの元で修行。そしてMAISON MARTIN MARGIELAを設立したのち、1989年SSにパリ・プレタポルテ・コレクションでデビューすることになる。

彼はそのデビューコレクションで、80年代から続いていた高級志向で装飾過多な傾向に対するアンチテーゼとして、あえてモデルの顔をマスクで覆い、白・黒・グレーなどの無彩色を多用しながら、質素にも感じられる薄手のコットンで作られた縫い目や切り離しの裾などが露わになったワンピースやパンツなどを披露。その下にはタトゥーの描かれたカットソーが重ねられていた。

このデビューコレクションは、先見性の高いファッション関係者から衝撃をもって「ポペリズム=貧困者風」と呼ばれたという。このコレクションでマルジェラは贅を尽くした狂乱の80年代に終わりを告げ、90年代から2008年の引退に至るまでファッション界のトレンドに大きな影響を与えつづけることとなる。

そんな彼のインタビューはFAXなどを通じて行われ、1997年以降はほとんど表舞台には顔を出さず、写真もほとんど存在していないように、非常にミステリアスな人物であったという。

今回はそんなMartin Margielaのファッション哲学を、彼の手がけたクリエイションを参照しながらknowbrand的に推測してみる。

「服本来の価値を感じてほしい」4隅を糸で留められた、
カレンダータグに込めた想い。

すべてのブランドの顔ともいえる「ブランドタグ」。マルジェラのファッション哲学もまた、シンプルでありながら謎の多い、生成りのコットンタグに表現されていると言っていいだろう。

24の数字が並ぶその様子から「カレンダータグ」とも呼ばれるブランドタグ。このカレンダータグの○で囲われた数字がその服のラインを表している。

それぞれのラインの意味は下記の通り。

0 – garments remodelled by hand for women (手仕事により、フォルムをつくり直した女性のための服)

0 10 – garments remodelled by hand for men (手仕事により、フォルムをつくり直した男性のための服)

1 – the collection for women (女性のためのコレクション(白の無地ラベル))

3 – fragrance collection (フレグランスのコレクション)

4 – a wardrobe for women (女性のためのワードローブ)

8 – eyewear collection (アイウェアのコレクション)

10 – the collection for men (男性のためのコレクション)

11– a collection of accessories for women and men (女性と男性のためのアクセサリーコレクション)

12 – fine jewellery collection (ファインジュエリーのコレクション)

13 – objects and publications (オブジェ、または出版物)

14 – a wardrobe for men (男性のためのワードローブ)

22 – a collection of shoes for women and men (女性と男性のための靴のコレクション)

MM6 – garments for ♀ (♀のための服)

上記の他の数字が、スペシャルなコレクションに使用されることもある。

さらにそのタグにはブランド名が書かれておらず、白い糸で簡素に四隅を留められているのも大きな特徴。そしてタグ自体を簡単に外すことができるようになっている。

ちなみに、このタグにブランドを入れないというアイデアは、ブランド誕生以前から2003年までビジネスパートナーとしてマルジェラとともに歩み、クリエイティビティーを支えたジェニー・メイレンスによるものだという。このディテールには、「ブランドのネームバリューで洋服を評価するのではなく、服そのものから価値を感じ取って欲しい」という想いが込められているのではないだろうか。

普遍的な美しさの八の字ライダース。

メンズラインにおいて、マルジェラのアイコンともいえる代表的アイテムといえば、この八の字ライダースだろう。5zipとも呼ばれるこのライダースは、シングルライダースをベースに、絶妙なバランスで配置されたジッパーが印象的。世界中のセレブからも愛され、日本でも中田英寿や木村拓哉などが愛用していることでも知られる逸品だ。上質で厚みのある牛革を贅沢に使用しており、着込む程に体に馴染み、自分なりのエイジングを楽しむことのできるライダースといえる。

1998年からリリースされ続けているこの八の字ライダースは、素材やカラー、zipのブランドなどの変更や限定リリースはあるものの、ベースとなるデザインはほとんど変化していない。トレンドに左右されることなく、改良を加えつづけるこの姿勢からも、マルジェラの哲学を読み取ることができる。

補強をデザインにまで
昇華したエルボーパッチ。

さらにエルボーパッチもマルジェラを象徴するディテールだ。⑩男性のためのコレクションラインや、⑭男性のためのワードローブラインからリリースされているシャツやスウェット、セーターなど様々なアイテムに使われている。

本来は補強としての意味の強いエルボーパッチが、マルジェラらしい上質な素材のシンプルなアイテムに施されることで絶妙なアクセントとなる。パッチはレザーやデニムなど味の出る素材で作られているため、その経年変化も楽しむことが可能。これもまた、流行に左右されることなく洋服を長く愛してほしいという、マルジェラからのメッセージの一つなのではないだろうか。

ヘヴィーユースにも耐える
機能的なドライバーズニット。

同じく⑩、⑭のラインからリリースされているドライバーズニットも、機能性を重視したシンプルかつ美しいシルエットで人気が高い一枚。

トラック運転手が着用しているようなニットのデザインをもとにしており、運転時でも快適に過ごせるようダブルジップを採用、邪魔になることもあるポケットはあえて排除されている。動きやすさを重視して考え抜かれたパターンでしっかりと編み込まれたニットは、ヘヴィーユースにも耐えうる作りとなっている。

古き良きアイテムを再構築した、
足袋ブーツとジャーマントレーナー。

㉒靴のコレクションラインより定期的にリリースされ続ける、足袋ブーツやジャーマントレーナーもまた、マルジェラを代表するアイテムの一つだろう。

1989年のSSコレクションでリリースされ、レディースでは定番化した足袋シューズは、日本の伝統的な足袋から着想を得て作られた独特なフォルムに円柱ヒールが施された、美しいデザインと普遍性を兼ね備えた一足。2017年からはショートヒールなどにアレンジされたメンズの展開もスタートしている。

そして西ドイツ軍がトレーニング用に使用していたものをアレンジしたとされるシューズが、ジャーマントレーナー。マルジェラの象徴とも言える、ドリッピングによるペイント加工が施されているモデルは特に人気が高い。他にも黒ベースやエナメル、落書きが施されたモデルなどに加え、ベロクロにアレンジされたハイカットのモデルなどが存在。

これらのシューズからも、時を経ることで洗練されてきた伝統的なものに敬意を払いながら、そこに彼なりのクリエイションを加えようとする姿勢が感じられる。

日本の若者にも伝わった
エイズTシャツのメッセージ。

そして売上の一部をエイズ患者のサポートに使うという社会的貢献度の高い試みで、同ブランドの知名度を一般レベルにまで高めたのがエイズTシャツだろう。1994年にスタートして以降、毎シーズン違ったカラーで展開されるこのVネックTシャツには、下記の英文のテキストがプリントされている。

「THERE IS MORE ACTION TO BE DONE TO FIGHT AIDS THAN TO WEAR THIS T-SHIRT BUT IT’S A GOOD START」 (エイズと闘うために行うべき活動はもっとあるが、このT-シャツを着ることは良い始まりだ)

このTシャツのメッセージはVネック部分にプリントされているため、文章の一部分が隠れてしまい、着用時には全てを読むことができない。つまり、もし誰かがそのメッセージに興味を持った場合、着用者とのコミュニケーションが必要とされる仕組みになっている。

エイズの問題について皆がもっと語らなければならない、というマルジェラの思いが、このデザインには込められているのだ。

日本においても2000年代に美容師などに着用されることで、若者たちにもそのメッセージが浸透。2010年の時点で170,000枚を販売し、700,000ユーロを超える寄付金がフランスの機関「AIDES」に寄贈されたという。そんな金銭的な援助に加えて、人々の意識を変えるという形でもこのTシャツは役立ち続けているように思われる。

時を経てなおその魅力を増す、
マルジェラのコレクションたち。

1988年の設立から30年が経過したブランド、MAISON MARTIN MARGIELA。

Martin Margiela自身は2008年、ひっそりと同ブランドのデザイナーから退き、現在はクリエイティブデザイナーとしてJohn Gallianoが就任。ブランド名もMAISON MARGIELAへ変更された現在でも、初期の作品は色褪せることはない。それどころか、時を経てさらにその魅力を増しているようにすら感じられる。

そのことを証明するように、2018年初頭には回顧展「Margiela / Galliera 1989-2009」が開催され、2019年には謎に包まれてきた彼のドキュメンタリー映画が公開されるという。

今日におけるこの評価は、彼が洋服という概念を本質から考え直し、虚飾をそぎ落とすことでストイックに表現し続けてきた結果とも言える。

シンプルでありながら優れたデザインや上質な素材はもちろん、その裏に秘められたMartin Margielaの哲学を、身に纏うことで感じ取って頂けたらと思う。

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