INTERVIEW

奇跡というべき快適装置「ダウン」。 知られざる真実を解き明かす。

今では冬のワードローブに欠かせない存在となっているダウン。急速に一般化していった要因は、高い保温性と優れた吸放湿性を持つダウン(=羽毛)という快適装置のおかげだ。

「聞き慣れた」存在となった一方で、ダウンは表から見えない原材料であるが故に「見慣れた」存在ではなく、その正体についてよくわかっていないという人は多い。

どう選べばいいか? 洗濯方法は? 保管方法は? 国内外のダウン業界を牽引する河田フェザー代表取締役の河田敏勝氏への取材を踏まえ、ダウンの真実を解き明かしていく。

羽毛は2億年前、恐竜から生まれた。

まずは羽毛の歴史を振り返る。

「この世界に羽毛が誕生したのは今から2億年前、地上の覇者だった恐竜の一部は体表に羽毛を生やし、厳しい環境の中で生き抜くための防御装置として活用していたのです」

人類が羽毛を活用し始めた時期は定かではないが、紀元前13世紀頃、食料として鳥を飼育していた副産物として羽毛を活用しはじめたと言われている。主に寝具で使われ、18世紀末の産業革命によって量産化が図られるまでは、王侯貴族など高い身分の者だけが手に入れられる高級品という位置づけだった。

日本には、明治・大正時代に輸入されている。なお、今回取材した河田フェザーが創業したのも、明治24年(1891年)だ。

寝具用だった羽毛がウエアに使われるようになった大きな転機は1936年。ロシア人が羽毛入り生地で暖を取っていたことをヒントに、エディー・バウアーが衣服内に羽毛を封入させた「スカイライナー」が世界初のダウンジャケットだと言われている。

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世界的普及の影に持ち上がる品質問題。

こうして、一部富裕層だけのものだったダウンは一般市民も手に入る存在となり、急速に普及していった。だが、その一方で品質の問題が持ち上がっている。

基本的にダウンは食肉用に畜産された鳥から取れる副産物であり、ダウン採取のために鳥が飼育されることはない。しかし近年は、世界的に高まる安価な食肉需要を満たすため、飼育コストをかけずに、短い育成日数で食肉にしてしまうケースが増えている。

一定量の食肉が取れる状態でも、飼育期間が短い鳥からは良質な羽毛は採取できない。そのため世界的に流通するダウン総量は増加しているものの、品質は相対的に低下していると言う。

羽毛は世界的な経済状況や食肉需要、気候、鳥インフルエンザといった外的要因でも取引価格が乱高下しやすい。実際に、2016年〜2018年の2年間に約2.5倍も価格が変動した。そうした状況からも、多くの業者は品質の維持よりも販売価格の安定を優先する傾向が強くなっている。

特に大きな影響を与えているのが中国だ。今や羽毛生産の約8割を占めているが、一部業者はダウンとは呼べない微少の羽毛を薬剤によって固まらせた「グルーダウン」という加工品を流通させている。

「グルーダウン」とは、あまり洗浄をせず、埃や粉砕されたフェザーが加えられ、薬剤、埃、垢、汚れなどが30%程度も入っているダウン状のもの。経年劣化により品質が悪化していき、薬剤やバクテリアなどが人体に悪影響を及ぼす危険性もあるものだが、現在行われている品質試験をすり抜けてしまうためタチが悪い。

「2003年頃から粗悪品が出回り、今では『騙される方が悪い』とでもいうような市場になっており、2009年のリーマンショック以降は顕著になっている。グルーダウンは肉眼で見ればすぐにわかるのですが、検査結果のデータだけではわかりにくい。中国から安価で買い付けたものの、よく見たらグルーダウンだった……という話も耳にします」

ダウンウエアを利用する私たち消費者にも、粗悪品を見分ける知識が求められている。

天然の調温湿機能で快適な状態を実現。

なぜ、ダウンは暖かいのか。そこには、奇跡とも言うべき温湿度調節の仕組みがあった。

ダウンはタンポポ状の立体形状をしているため、中心から放射状に幾重もの羽枝が伸び、さらにその羽枝には無数の小羽枝(しょううし)が生えている。小羽枝の太さは、人間の髪の太さの約1/20と、相当な細かさだ。

この小羽枝で空気の層を抱え込み、これが断熱作業をもたらして保温効果を生み出している。

さらにダウンは調湿機能も備えている。温度が上がって湿度が高まると、その周りの小羽枝が閉じることで空気の層が減り、通気性が増して湿度を逃していく。一方、ダウン自体は水分吸着熱を発生し、その熱を受けた周りの空気が移動して湿度を下げていくことで徐々に小羽枝が開き、空気の層を順次回復させる。こうした変化を自動で繰り返し、温度や湿度を一定に保っている。一般的な繊維にはない特性だ。

このことから、ダウンウエアは外気だけでなく人体から汗とともに出る水分も吸収・発散を繰り返し、快適な状態を実現している。

ダウンウエアの評価軸は主に4つ。

ダウンの良し悪しは、どこで決まるのか。主に、次の4つの要素が鍵となる。

1.鳥種
2.ダウン率
3.フィルパワーと充填量
4.清浄度(不純物の量)

この4点を理解するために、国内屈指のメーカーである河田フェザーの工場内を視察しながら確認していく。

1. 鳥種

鳥の品種のことで、大きくは陸鳥と水鳥に分かれる。陸鳥は陸上に生息する鳥類、水鳥は水辺を住処にする鳥類のこと。ダウンと呼ばれる羽毛は、水中の冷たさから体を守るために水鳥の胸腹部を中心に生えるもので、すべてのダウン製品は水鳥の羽毛からできている。通常のダック1羽から採取できるダウンは10g程度だという。

水鳥はグース(ガチョウ)とダック(アヒル)に大別できる。グースは、体格の大きさに比例して羽毛も大きく、繊維が細かく柔らかい。また、断熱層が多く温度変化に強いが、その分値段も高い。しかし、品種的に大きく劣るということではなく、アイスランドの天然保護鳥であるアイダーダックのダウンは最高級品として知られている。河田フェザーでは、飼育日数の長い水鳥から採取した丈夫で良質な羽毛だけを使用している。

2. ダウン率

「ダウン率」とは、製品に使われているダウンの割合のこと。水鳥の羽毛は、形状によってダウンとフェザーに大別され、さらに実際の製造現場ではダウンとフェザーが細かく分けられる。

一般的なダウン

未熟ダウン。成熟していない脆弱なダウン

あくまでも人間の目による識別しかできないが、河田フェザーでは、ダウンと未熟ダウン以外にも、細かい基準を設けてダウンとフェザーを選別し、品質管理を徹底している。

河田フェザーの選別機は世界最大級の大きさで優れた精度で選別できる

ダウンとフェザーとを分ける選別作業に利用するのは空気の力だ。空気の力により、重いフェザーよりも軽いダウンのほうがより高く舞う特性を活用する。

大きな箱の中に、上部だけが開いた仕切りをいくつか立てて複数の部屋を設ける。一番手前の部屋に選別前の羽毛を入れ、空気の力により羽毛を宙に舞わせ、それを各部屋ごとに繰り返し、重いフェザーは順次、手前側の部屋に落ちていくが、軽いダウンはより奥の部屋まで飛んでいくという仕組みだ。

ダウンとフェザーのうち、優れた保温機能を備えているのはダウンのほうだ。フェザーは保温性が劣る。そのため、一般にフェザーの割合が高まるほど保温性は低くなり安価になる。

ダウン率は品質表示タグに必ず記載されているので、購入する際はチェックしよう。なお、技術が進んだ現在でも「ダウン100%」と品質表示できるほど選別するのは困難で、少なくとも数%のフェザーは混入してしまう。最高クラスでも、「ダウン95%」という表示となることが多い。

3. フィルパワーと充填量

ダウンの良し悪しを図る指針のひとつに、ダウンの持つ反発力を数値化したフィルパワーがある。

ダウンは小羽枝が重なり合うことで内側に空気の層が生まれ、これが保温効果をもたらしている。すなわち、同じ重量のダウンでも小羽枝が多く長いものほど空気量が多く、羽毛が膨らむ反発力(フィルパワー)が高くなり保温効果が期待できる。

600~700フィルパワーで良質、700フィルパワー以上は高品質で、900~1000フィルパワーが最上級。フィルパワーは製品に充填される直前の羽毛を計測するもので、「鳥種」や「ダウン率」による違いがある程度数値化されたものと言える。

フィルパワーは特にアウトドアブランドの製品に表示されていることが多いが、公開していないブランドや製品も少なくない。表示があった場合は、ひとつの目安として利用したい。

実際の保温性にはフィルパワーの他にダウンの充填量やウエアの形状も大きく左右する。例えば、同じ600フィルパワーで、生地の素材や形状に違いがない場合、重量がある=ダウンの充填量が多い製品のほうが保温性は高く、高価なものになりやすい。800フィルパワーと表示された薄手のダウンベストは、その薄さにしては確かに暖かいが、500フィルパワーでも著しく充填量の多いダウンジャケットのほうが体感的な暖かさは上回る可能性がある。ただ、充填量が多いと重く、放湿能力が落ち、蒸れ感があるという欠点がある。

試験の様子。数値が大きいほど羽毛の品質が高い

4. 清浄度(不純物の量)

生き物から採取された材料ゆえ、もとの羽毛には汚れやバクテリアなど、さまざまなものが付着している。そうした不純物は嫌な臭いを生み、ダウンの調湿作用を妨げて保温効果を低下させる原因になりかねない。いかにクリーンに洗浄できるかも、ダウンの良し悪しを大きく左右するポイントだ。

一般消費者がダウンの清浄度を知るすべはほとんどないが、最近では加工した羽毛メーカーを公表する製品も増えており、信頼できるか否かを判断しやすくなってきている。

河田フェザーは国内唯一の動物検疫指定工場となっており、防疫体制が整っている。まずは、埃や垢を取り除く除塵工程を行う。

ここで埃や垢を落としていく。扉には白くびっしりと埃がついている

作業を終えた羽毛原料は、ダクトを通って木製のサイロに溜まり計量されている。

木製パネルが使われているのは、静電気が発生して羽毛が付着してしまうのを防ぐため

次に、計量された羽毛が巨大なドラム式洗濯機へ自動的に投入され、汚れを徹底的に除去していく。河田フェザーのこだわりは、お米を研ぐように羽毛同士を複雑にぶつけ合わせる独自の「研ぎ洗い」と、ミネラルをほとんど含まないきめ細やかな超軟水を使うこと。浸透力の高い超軟水は羽毛の隅々に浸透し、さらに損傷した羽毛を修復する還元力も備えているので、すすぎでも洗浄効果が得られている。また、羽毛業界では非常に珍しく、加工には常に新鮮で飲用可能な水を使っている。

洗浄後は、乾燥へ。一般的には120℃のドラムの中で20~25分かけて乾燥させるが、ここでは150℃の高温短時間で乾燥し、さらに独自加工に時間を費やす。羽毛についた水分が急速に水蒸気化することでふんわりと仕上がり、残りの垢もすべて剥がれ落とすため、滅菌や消臭の役割もあるのだとか。

左が原毛で、右が洗浄後の羽毛

ダウンがどれだけきれいなのか、JIS規格のテストでチェックされる「清浄度試験」。河田フェザーでは、通常加工の場合は、日本羽毛製品協同組合の基準より4倍厳しい数値に定めている。

清浄度の品質チェック

長く愛用するためのケアは「洗濯」。

手に入れたダウンウエアを長く愛用したいのなら、適度に洗濯してケアすべきだ。

「ダウンは水に弱い」と言われるが、それは水に濡れた状態だと空気層を作れず、保温機能が低下してしまう一時的な状態を表しているに過ぎない。乾燥すれば再び元に戻るし、ウールのように収縮する危険もない。そもそも水中に浸される部位に生えてくる羽根であるため、何度水に付けても痛むことはなく、劣化にも強い。表示に書かれた内容を守っている限り、洗濯してもダウンにダメージは及ばない。ただ、洗濯した後はしっかり羽毛をほぐして乾燥させ、中身が偏らないようにすることが大切だ。生地がダンブラー乾燥に対応している場合は、ネットに入れて乾燥機を使ってもいい。長期間の保管のポイントは、しっかりと乾燥させること。

品質は見た目、手触り、臭いで確認する。

製品化したダウンの品質を見極めるのは容易ではない。まずは品質表示タグや商品タグなど、公表されている情報が大きな助けになる。ダウン率は品質表示タグで確認でき、鳥種やフィルパワーはブランドが公開しているケースもある。

外見からも判断できる部分はある。優れた品質のダウンは全体にハリがあり、充填された生地の中で均等に膨らむが、そうでないものは偏りが出やすい。触ったときの異物感はフェザーの羽軸で、それが多いのもマイナスだ。鳥種にもよるが、ダウンをギュッと握ってから放したとき、すぐに戻るもののほうがいい。

ウールなどを表生地に使っていると確認しづらいので、薄いナイロンを使った裏生地などから確認しよう。臭いもひとつの判断材料になる。生地を鼻にあてたとき、鳥類特有の臭いや薬品の臭いを感じるものは洗浄が十分ではない。そのメーカーのダウンは品質も十分でないことが疑われるので、見た目、手触り、臭いと、感覚を頼りにダウンの品質を見極めたい。

ダウンの特性を活かし、長く愛用するために。

ダウンは耐久性に優れた素材で100年以上持つと言われている。この特性を活かし、河田フェザーでは「グリーンダウン」と呼ぶリサイクル羽毛も展開している。羽毛ふとんやダウンジャケットなどの羽毛製品を回収し、再び精製加工を行う。さまざまな羽毛が混じるため、鳥種の選定はできないがダウンとフェザーの選別を行い、新毛以上に厳しい清浄度検査を経て製品化されている。

「品質の良くない羽毛が増える傾向にありますが、リサイクル対象の多くは、品質が良かった時代に作られた製品。リサイクルとはいえ、通常流通している若鳥の新毛より良質できれいです」

また河田フェザーでは、高純度超微粒子セラミックス混繊維をダウンに絡ませることで遠赤外線による保温・水分蒸散を付与した「光電子ダウン」も共同開発し、次世代のダウンを印象付けた。

良質なダウンを選び、洗濯等のメンテナンスをきちんと行えば、永きに渡って使い続けられる、ダウンウエア。長くつきあうためにも、正しい知識を知って欲しい。

取材協力:河田フェザー株式会社

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掲載商品は、代表的な商品例です。入れ違いにより販売が終了している場合があります。
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